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【試し読み②】防御戦術の具体的な分析方法『これまでになかったラグビー防御戦術の教科書』

〝ラグビーの戦術的な面白さを伝えたい、そしてそれを知る一つのきっかけとなってほしい〞

との思いから2020年3月に『これまでになかったラグビー戦術の教科書』を出版した井上正幸氏。
 前作がご好評頂きまして、今回待望の第2弾が発売です!
 第2弾はラグビーの〝防御〞戦術にフォーカスした一冊『これまでになかったラグビー防御戦術の教科書』となります。

 本日は、本書の第5章「防御戦術の具体的な分析方法」から一部を抜粋して公開です。ぜひお手にお取りください。
 2021年2月10日より順次書店へ並び始めます。発売日をお楽しみに~

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書影はAmazonにリンクします
これまでになかったラグビー防御戦術の教科書
著 井上正幸
ページ数 288
判型 四六判
本体価格 1700円
出版社 カンゼン
発売日 2021年2月10日
ISBN:9784862555830

2015年のジャパン対南アフリカ
2019年のジャパン対南アフリカ

 シンプルな「1331」のフォーメーションですが、スタンドオフのハンドレ・ポラード選手というよりもフルバックのウィリー・ルルー選手が意思決定者として移動攻撃を仕掛けてボールを動かしていきます。
 アタックの戦術に大きな優位性があるというよりも、ハイパントを軸にアンストラクチャー(陣形が整っていない状態)な状況を作り出し、決定力のあるウイングにスペースのあるところでボールを回してディフェンスを崩していました。
 もし、相手にハイパントのボールを奪われても、極端に前に出るラッシュアップディフェンスでプレッシャーをかけ、ボールを奪い返してアンストラクチャーを作り出します。
 また、スクラムやラインアウトといったセットプレイやモールが強く、得点を奪う手段をいくつも持っていることが南アフリカの強みだと言えます。
 2019年のワールドカップでジャパンは、南アフリカの「1331」のフォーメーションにしっかりとプレッシャーをかけ、フィールドの攻防ではひけを取りませんでしたが、スクラムとモールを軸とした南アフリカに攻防を優位に進められて敗れてしまいました。
 2015年のワールドカップで南アフリカに勝利した時は、南アフリカがキックを使って戦略的に戦わずに、パスでボールを動かしてくれたことが要因だったと考えます。
 さらにその時は、メンバーのセレクションの時点で、スクラムハーフをフーリー・デュプレア選手ではなく、フランソワ・ピナール選手、スタンドオフをハンドレ・ポラード選手ではなくパット・ランビー選手、フルバックをウィリー・ルルー選手ではなくゼーン・カルシュナー選手と、いずれもパスやランの得意な選手を選んでしまったため、戦略的に戦うことができませんでした。シンプルな「1331」の南アフリカのアタックはジャパンのディフェンスにプレッシャーを受け続けることとなりました。
 ちなみに、それまでキックを極力使わず「ポゼッション・ラグビー」を標榜していたジャパンですが、この試合ではどのチームよりもキックを使っていました。
 それまでキック、パス比率ではキック1回に対してパス11回がジャパンの理想的な試合展開とエディー・ジョーンズさんは語っていましたが、この試合はキック1回に対してパス4回となっており、皮肉にも南アフリカがしなければいけない試合展開をポゼッション・ラグビーのジャパンが行う形となりました。
 最後にワールドカップでジャパンに勝利した南アフリカがどのようなディフェンスをしてきたかを見ていきます。

南アフリカ対ジャパン

 ジャパンのフォーメーションは「1322」ですが、攻撃の途中にフォーメーションが変化していく特徴的なシステムになります。
 ジャパンは、エッジと9シェイプが交互にアタックするピストンアタックでディフェンスをグルーピングしてる間に逆サイドの配置を変えるシステムを採用しており、「1322」のフォーメーションを「1313」に変えたり、同じ「1322」でもフォワードとバックスの配置を変えたり、スタンドオフの田村優選手とセンターの中村亮土選手のポジションを入れ替えて、田村優選手がセンターの位置から配置をコントロールしていました(図198から203)。

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 ピストンアタックによって、速くブレイクダウンをリサイクルされ続けるとディフェンス側はそちらに注意を取られて配置の変化に対応ができません。
 そこでディフェンスは、攻撃の起点であるピストンアタックにプレッシャーをかけていきます。
 特にエッジからの9シェイプはプレッシャーをかけやすいので、ここに的を絞ることでアタックのブレイクダウンのリサイクルスピードを遅らせます。アタックのリサイクルスピードが遅くなれば、ディフェンス側は「配置変え」にも余裕を持って対処することができます。
 また、どれだけ配置を変えようとも、アタックのラインが広くなればパスにプレッシャーをかけられてしまい、フォーメーションが変化する優位性は生かされません。
 準々決勝では、前半20分までは激しく前にプレッシャーをかけてくる南アフリカのディフェンスに対して、プレッシャーの届かない深いラインでパスを回して崩そうとしていましたが、次第にラインが浅く、広くなり、スタンドオフからのパスにプレッシャーを受けアタックが機能しなくなりました。
 最強のアタックや最強のディフェンスというものは存在せず、常に相手の意図を読んで、駆け引きしていかなければなりません。そのためにはフォーメーションを知り、攻撃の起点を見破り、移動する規則性を理解することが必要不可欠なのです。

著者プロフィール


井上正幸
オーストラリアラグビーコーチング資格レベル2保持。
大東市立住道中学校でラグビーを始め、大阪府立大東高校を経て大阪体育大学に入学しラグビー部に在籍。大学卒業後、整形外科のインプラントを販売する会社「オルソテック(株)」に勤務する傍ら、1998年、関西ラグビー協会に所属する「くすのきクラブ」を創設し、2020年近畿クラブリーグのカテゴリーAに昇格する。また、2008年から兵庫医科大学でコーチを始め、09年西日本医科学生総合大会4位、11年関西医歯薬学生ラグビーフットボールリーグ2位、12年同大会3位、13年同大会2位の成績を収める。14年に京都成章高校スポットコーチとして、全国高校ラグビー大会4位、15年同大会8位、16年大阪体育大学スポットコーチとして、関西大学ラグビーBリーグ優勝、17年ヘッドコーチとして同リーグで優勝。入れ替え戦にも勝利してAリーグへ昇格させた(2019年に退任)。著書に『これまでになかったラグビー戦術の教科書』(小社刊)『ラグビー3カ月でうまくなる基本スキル』(学研)がある。

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