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【試し読み】選手の不安を解消する指導法とは?『バレーボール指導の極意』より

4月19日発売の『いまどき選手の力を引き出す 監督がここまで明かす! バレーボール指導の極意』(岩本勝暁 著)から、試し読みとして一部抜粋して公開。今回紹介するのは第3章に掲載されている、岐阜県・益田清風高等学校の熊崎雅文監督の「指導の極意」を紹介します。

「負けの流れを作るミスを減らす」
シンプルな技術を伝え、全ての不安を解消して選手を試合に送り出す(益田清風・熊崎雅文監督)

バレーボール指導下版データP79

バレーボール指導下版データP80.81


自分のフォームが信じられるようになるまで練習を繰り返す 
 熊崎監督の指導者としてのキャリアは40年以上に及ぶ。
 定時制高校、新設の職業高校を経て、1993年、現在の益田清風高校に赴任。しかし、山間のへき地校で、今も週に2日しか体育館が使えない。電車の本数も少なく、選手を自宅に帰らせるために夕方の6時過ぎには練習を終えなければいけないという。メンバーが足りず、試合に出場するために未経験者で頭数を揃えたこともあった。
 チームを強くするためにときには厳しい指導もした。しかし、すぐに勝てるわけではない。
 他県の指導者から学び、どうすれば強いチームを作れるかを考えた。勝った試合も負けた試合も、数え切れないほどの試合を分析した。「ゲームの中で何が起こったのか」に心を砕き、独自の戦術を練りあげた。
 
 情熱の源泉は自身の反骨心から生まれている。
「自分が教えられていないというコンプレックス。ちゃんと教えてもらっていたら、自分も少しはよくなったんじゃないかと今でも思っています。本当に酷かったから。大学の4年間は2軍半以下。レベルは高かったけど教員チームでも2軍暮らし。スタメンで出たのは25歳のとき、地元で教員選手権があって2チームが出場できたから。そのあとの国体もベンチに入っただけ。サーブレシーブが下手で、とにかく人から笑われた。スパイクを打っても、『あいつのフォーム、変やな』って周りのささやきが聞こえるくらいでしたよ」
 だから熊崎監督は、選手ができるようになるまで徹底的に教え込む。
 やがて粘り強く学んできた指導が実を結んだ。
 2006年の春高バレーに初出場(当時は3月開催)。同年のインターハイに出場するなど快進撃を演じた。
 徹底することの大切さを、熊崎監督はジョークを交えてこう表現した。
「小学3年生のとき、教室で何があっても『ちょんまげ』と言っていたんです。友達に何か聞かれても『ちょんまげ』。先生に質問されても『ちょんまげ』。無視されていても、100回くらい連呼すると周りがだんだん笑うようになる。しつこさは大事ですよ」
 正しいフォームは体にかかる負担が少なく、怪我のリスクも軽減できる。選手が自分を信じられるようになるまで、正しいフォームを教え込んだ。
 ミスのないスパイクを打つ上で大切にしているのがミートだ。バレーボールにおけるミートは、スパイクやサーブを打つときに、ボールに縦回転を与える動きをいう。縦回転(ドライブ)がかかったボールは下に落ちる力が働くため、アウトになりにくい。
 いいミートの基準は、ボールをたたいたときの「音」だ。熊崎監督がボールを「パチン」とたたいて見せる。甲高い破裂音がする。それに対して、悪いミートは「ボコ」と鈍い音がする。
「ミートがよかったら、コントロールもついてきます。全てのプレーにおいて、大事なのはフォーム。だから、徹底的にフォームにこだわって練習する」
 ポイントは、手のひらとボールが接触している時間と面積をできるだけ長く大きくすること。大きく開いた手のひらを柔らかく使ってボールをたたく。
「ボールを下から乗せた手が、できるだけ長い時間、ボールに接触していることが重要」
 と熊崎監督は説く。
 ヒジの使い方についても説明が必要だろう。しっかりミートするためには、上から落ちてくるボールを下から手のひらで受けながらスイングするのが理想的だ。そのため、スイングの過程で、ヒジが高く手のひらが下になるポジションが含まれていなければいけない。
 そこに腰の回転を加えて、全身でスイングすることで、よりパワフルなスパイクを打つことができる。
 ジャンプ動作に入る前の助走も、ミスのないスパイクを打つためには大事な要素だ。選手が意識しているのは、最後の一歩の踏み込み。右利きの場合は、最後の左足を回し込むようにして踏み込む。すると右足から左足へと自然に体重が移動し、さらに(利き腕とは逆の)左手を力強く振りバランスを保つことで、右手が柔らかく使えるようになる。
 他の競技を例に挙げるのも、熊崎監督ならではの話術だ。
「サッカーボールを蹴るところを想像してください。(右利きの場合)飛んできたボールに対して軸足となる左足のポジションが決まって初めて蹴ることができます。軸足ができていなかったら、『蹴れ』と言われても正確には蹴れませんよね。その単純さが大事で、バレーボールだったら空中で利き腕とは逆の腕をどれだけキープできるかが重要になります」
 正しい踏み込みからジャンプをすると、バランスよく両足で着地できるため、次のプレーに素早く移れるメリットもある。ヒザにかかる負担も少なく、怪我の予防にも結びつく。
 
 2年生(当時)エースの兼山恋奈さんはこう話す。
「左足の踏み込みの練習をよくやっていました。スパイクを打つとき、最後は左足が入り切らないといけないんですけど、ずっとそれができず、バランスが悪くてミスも多かった。
熊崎監督が教えてくださる踏み込みをやってきて、だんだん打てるようになりました。それまではここぞという場面でなかなか点が取れなかったけど、1年を通して大事なところで点が取れるようになりました」
 フォームの流れは点ではなく線である。いずれかの動きが省略されると、全体のバランスも崩れてしまう。だから、一つひとつの動作を細かくチェックし、フォーム全体にまとまりをつけなければいけない。そうすれば選手の能力を最大限に生かしつつ、「ミスをなくす」フォームが作り出せる。

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【本書内容紹介】

巻末特別対談 大山加奈(元日本代表)×池上正(「NPO法人I・K・O市原アカデミー」代表)


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     『いまどき選手の力を引き出す 監督がここまで明かす!          バレーボール指導の極意』
岩本勝暁 著
ページ数 240
判型 四六
本体価格 1,870円(税込)
出版社 カンゼン
発売日 2021年4月19日

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