【短編小説】ハッピー台風コロッケとよふかし
「今夜から明日にかけて台風ですって、明日学校大丈夫かしら」
日曜日の夕方、買い物から帰宅した母が呟いた。瞬間僕の心が躍りだした。
「えっ!?台風くるの!?明日学校休みになるかな?なるといいなぁ……」
「こら!馬鹿言ってんじゃないの!台風って大変なのよ?川の近くの人とかは避難しなきゃいけないし」
「わかってるよー!」
もちろん、この時母の言葉など本当は一ミリも理解していない。
この時の僕は勝手に明日は休校になると決めつけ、今夜は何をして遊ぼうかで頭がいっぱいだった。
そんな夢想をしているとあっという間に夕食の時間になった。
僕が食卓に向かうと大好物のコロッケがまるで小判の山のように積み重なっていた。
「ど、どうしたの!?こんなにコロッケいっぱい」
「いや、なんかね。台風コロッケとか言ってスーパーで安かったのよ」
なるほど、母はそれで台風の情報を知ったのか。
そんな事はどうでもよく、僕はさっそく台風コロッケに食らいついた。
このコロッケのどこに台風要素があるのかわからないし、「台風の日はコロッケ」なんて風習いつからあるのか知らないが、かぶりつくとそれはホックホクのあっつあつで、とっても美味しい。
台風がくるとコロッケは食べられるし、学校や休みになるし、なんてハッピーなんだろうか!と子ども心に思った。
夕食後、コロッケでお腹がパンパンになった僕は自分の部屋に戻り、ゲームソフトの棚を漁った。
まず真っ先に思い付いたのは最近全然できていなかったゲームを朝までプレイしてクリアする事だ。最近はなかなか忙しくてゲームができていなかったので一晩中ゲームができるなんて夢のようだと思った。
「どれにしようかな~?」
買うだけ買ってなかなか遊べなかった、いわゆる積みゲーを眺め、どれにしようかと品定めをしている時、また別のアイデアを閃いた。
「そうだ!プラモデルを作ろう!」
僕はゲームソフトの棚の隣に放置してあったロボットのプラモデルに目を向けた。
お正月のお年玉で奮発して買った大型キットだが、なかなか完成には時間がかかり、途中で放置していたのであった。
買った当初こそ意気揚々と製作にとりかかったが、いつも作りなれているプラモデルよりも難易度が高く、パーツも精密だってのでかなりの苦労を強いられた。それに同じウイングのパーツをいくつも作らないといけない工程に差し掛かり、僕のモチベーションはほぼゼロになってしまった。
けれど、この予期せぬ休みを使えばこのプラモデルを完成させる事ができるかもしれない。僕はそう思ったのだ。
「よーし、頑張るぞ……」
意気込んでプラモデルの箱を開けようとしたとき、外から雨音が聞こえてきた。かなり大きい、ついに台風がやってきたのだ。
雨戸はガタガタと音を立て揺れている。
「いいぞいいぞ!こんなに激しいんじゃ明日は休みに違いない!うひょひょ!」
台風の激しさに休みという名の勝利を確信した僕は思わず笑みをこぼした。
結局その夜、僕は思い付く事を全部やった。プラモデルも作ったし、ゲームでも遊んだ。
そして午前4時ごろにふと睡魔が来て観念して眠ることにした。
「こら!起きなさい!」
僕は母の声で目を覚ました。
「なんだよ台風で休みだろ?」
「何馬鹿言ってんの台風なんて通り過ぎたよ!」
そう言って母は勢い良くカーテンを開けた。
そこからは清々しいほどの青空と日差しが僕を覗き、絶望に陥れた。
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