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京急の街「黄金町」|「ゴールドラッシュ」の街に僕はまだ踏み込めない

むごい話だが、ゴルフクラブで犬を殴り殺すシーンを想像したことがあるだろうか。

僕はある。

柳美里さんの長編小説「ゴールドラッシュ」の始めの方でそのシーンが描写されたとき、僕はたまらなく恐ろしくなって、でも、その小説に取り憑かれたように寝るのを忘れて読み進めたのを覚えている。もう10数年前だと思う。

風俗店が並び立つ横浜黄金町。14歳の少年は、中学を登校拒否してドラッグに浸っている。父親は、自宅の地下に金塊を隠し持つパチンコ店経営者。別居中の母、知的障害を持つ兄、援助交際に溺れる姉など、家庭崩壊の中、何でも金で解決しようとする父に対し、少年が起した行動とは……。生きることはゲームだと思っていた少年が、信じるという心を取り戻すまでを描く感動的長編。(Amazonより)

この小説の舞台、KK40の「黄金町駅」について書いてみようと思う。

黄金町を撮ることは、ある意味僕のゴールである

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京急の駅を撮ることを始めたとき、「黄金町」「日の出町」にいつ行こうか、と考えた。この地域は、とても難しい。

「なにか」を撮るには勇気が必要で、しかも、この街を語るには感性も知識も文章力も到底及ばないような気がしていた。
逆に言えば、カメラを持ってこういう街としっかり向き合えるときは、カメラマンとしても違う領域に行けたときだろうとも思い、一つのゴールと考えていた。

でも、なぜか、僕は道半ばでこの街を撮ることに挑戦したくなった。
そして、その結果、僕はその中に踏み込めなかった。

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黄金町はKK40、品川からだと乗り換え含めて26分、横浜まで快特か東京上野ライン、そこから普通で3駅だ。

小さいころから母には「このあたりは絶対に行ってはいけない」と言われて育った。
さらに柳美里さんの「ゴールドラッシュ」を読んだイメージに加え、新卒でこのあたりの店に営業などで来ていたこともあり、カオスでありエロスが渦巻くイメージを持ってしまっている。

ただ、実際このエリアに普通に住んでいらっしゃる方もたくさんいる。
刺激の強い話から始めてしまって大変申し訳ない。商店街や公園はとても平和で、人情味あふれていることも確かだ。

歩道がきれいに整備された商店街、コンビニもあるし、空も開けている。
公園には小さい子供がきゃっきゃっと遊び、それをのんびりと老人が眺めている光景を見ていると、『「ゴールドラッシュ」の世界はどこへ行ったのか』とも思う。

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少し歩いてみると古い雑居ビルや精肉工場のような建物などがある。その隙間に喫煙所があったり、古い設備があったり、レトロさを感じる。

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駅の南側や西側はこんな感じでとても平和な風景が続く。

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ゆったりと流れる大岡川を横目に風俗街を歩く

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大岡川という川が流れている。大岡川は弘明寺や上大岡まで続き、その源流は円海山という横浜市最南端あたりまで遡る。かつては「横浜捺染」という精巧な染め物産業を支える川であったらしい。

https://hamarepo.com/story.php?page_no=1&story_id=3281

そんな大岡川を横目に、西側へ歩くと徐々に風俗店が目につくようになる。
こちらの記事にこのエリアの風俗街としての歴史がまとめられている。

https://chinobouken.com/akebonotyou/

大岡川の西側すぐはそこまで風俗も多いわけではないから、まだまだ閑静な住宅街という感じがある。

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少し西側へ歩くとちらほら風俗店もある。

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この街の風俗はいわゆる店舗型が多い。つまり、今、このなかでそういうことが行われている。
現在は風営法で新規出店が禁止されているらしいが、昔から残っているものがそのまま営業しているのか。商店街を抜けて、国道16号線の一本手前の路地まで来ると、そういう店がずらりと並んでいる。国道と日常感のある商店街の間の、たった一本の道なのに。

このエリアを歩いていて怖いとか、エロいとか、そういうイメージは湧いてこない。ただ、なんでこんなに表世界と裏世界が密接にありながら、こんなにも平常な感じに見えるのだろう、と考えたりする。

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でもここまでなんだ。。。これ以上は怖くて踏み出せない。

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僕は街を撮るスナップ写真が好きだ。特に森山大道の写真が好きで、彼の「新宿」という写真集を高校生のときにたまたま図書館で見て衝撃を受けた。そのときのイメージを今も自分の写真活動の中で引きずっている。

森山大道さんの話のなかで、たしか、「スナップを撮っているなかで、怒られたり、ときにはカメラを取られたりしたことがある」みたいなことを書いているのを読んだことがある。

そこまで踏み込んでいるから、「新宿」が作れたのだと思う。

でも、正直僕はそこまでするのが怖い。

僕はサラリーマンで、家族もいる。なにか大事になれば会社や家族に迷惑をかけることが怖い。そこまでならなくても、そもそもそうまでして街のなにか「見せたくない」部分まで踏み込んで行くべきなのか。

でも、「新宿」でみたものは、そういう生生しさであり、陰鬱さであり、エロさであり、ハイな感じであった。

それを見ることで、汚いと思う人もいれば、エロいと思う人もいるだろう。古いと思う人もいれば、かっこいいと思う人もいるに違いない。

ただ、なにか「思う」ことが大事であって、それができる写真というのは価値があると思う。そしてそういうものを撮影することは、まずは自分がその場面でどう思うかということを表すことだ。

なぜなら、僕は写真も文章も自分を知るための道具であると考えるから。自分がこういうものに触れてこう感じるんだ、これが好きなんだ、嫌いなんだ、という感情が湧き出るものでないと、それは意味のある表現といえないのではないかと思う。

柳美里さんのゴールドラッシュはまさに何かを感じさせる作品だった。

何回も訪れたら、そういうところまで入っていけるのだろうか。これは勇気なのか、経験なのか、才能なのか。

人の経験を深掘っていくように、この街の経験を深ぼるべく、また僕はこの街に足を運ぶ。

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ちなみに、今回僕はカメラを変えてみた。お気づきだろうか。

これまではFujifilm X-H1+XF16-55mmf2.8 r lm wrという、カメラ、レンズともにFujifilmの少し前のフラッグシップの組み合わせ。

今回はスマホのみ。しかも最新のiPhoneではなく、HuaweiのMate9という2017年3月発売の機種だ。

最初からモノクロでマニュアル撮影し、VSCOで編集を加えている。

さて、「人になにかを思わせられるか」という点ではどうだろう。
僕は結局まだそこに到達していないと思うのだけど、機材を変えたところでそれができるとは到底思えない。














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