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【高齢者への人工呼吸器装着】そう簡単に外せない問題


こんにちは、看護師ねこです!

本日は、「人工呼吸器」にまつわるお話です。


はじめに


コロナ肺炎でよく話題になる「人工呼吸器」。

ドラマなどでも時々目にすることがあると思います。

私は、ICU(集中治療室)での勤務経験が一番長く、人工呼吸器を装着した患者さんをたくさんみてきました。

苦しい治療を乗り越えて元気になる方ももちろんいますが、特に高齢者の方で、なかなか人工呼吸器から離脱できず、そのまま亡くなってしまう方も多いのが現状です。

そこで今日は、人工呼吸器は一度装着すると簡単には外せないものであるということや、ICU看護師として日々感じていることをお話したいと思います。



そもそも人工呼吸器とは?

人工呼吸器とは、何らかの原因で自分で呼吸をすることが難しい場合に、呼吸をサポートするための機械です。送り込む空気の量、圧力、酸素濃度などを細かく設定することができます。

直径約1.0~1.5㎝、長さ30㎝ぐらいのチューブを口から気管まで挿入し、機械に繋ぎます。

もちろん声は出せないし、ご飯も食べられません。



自分の力だけで呼吸ができないってどんなとき?

簡単に大きく分けて2種類あります。


■肺そのもにダメージがあるとき

たとえば
・肺炎(肺に炎症が起こる)
・気胸(肺に穴があく)
・肺水腫(水が溜まる)
など

■肺は元気だが、意識に問題があるとき

たとえば
・脳卒中
・脊髄の損傷
・薬物やアルコール中毒による意識障害
・低体温症や血糖異常など、代謝系の異常による意識障害
(つまり、意識が悪いので、呼吸しろ!という指令が送れない)


脳や脊髄は一度ダメージを受けるとなかなか回復が難しいですが、
肺自体が悪いだけであれば、傷んだところが治ってしまえば、呼吸の指令を送る機能は正常ですから、もとに戻ります。



肺が回復してきたら?

肺炎などを起こしても、抗生剤投与などで炎症が緩和されると、徐々に正常な呼吸ができるよう肺が復活していきます。

痰の量や、採血データ、レントゲン、CT画像など総合的に評価し、良くなってきたと判断されたら、外から空気や酸素を入れたり出したりしている人工呼吸器側の力を緩めていき、最終的に口の管を抜き、100%自力で呼吸をさせます。

ただ、損傷した肺がどれだけ回復するか、これは個人差があります。
年齢、持病の有無、元々の肺の健康状態(喫煙歴など)が大きく関わってきます。


もし、肺の機能が回復しなかったら?


人工呼吸器を離脱するには、上で述べたように、
機械の力がなくても自力で呼吸ができそうだ
といういくつかの項目をクリアしている必要があります。

つまり、病状が良くなっていないと外せないんです。


「治療は頑張ったけど、これ以上良くなりません。
でも管が入っていて可哀そうなので、抜いてあげましょう。」

これは、日本では、医師であっても、殺人にあたってしまいます。


たとえ、家族から「これ以上苦しめたくないからやめてくれ」とお願いされても、できません。

点滴を少しずつ減らしたり、栄養剤をストップさせたり、血圧を保つための薬を今以上に増やさないようにしたりはできるのですが、人工呼吸器を外せばすぐに亡くなることが分かった状況で外すことだけは、できないんです。


高齢化が進むと同時に、人工呼吸器を装着する患者さんの年齢層も上がってきています。

つまり、人工呼吸器をつける人の中で、「治りにくい人」割合が増えているということです。

そして起こってくるのが、「人工呼吸器を付けたはいいが外せない問題」

「救命」はできたが、結果的に「延命」になってしまうケースが増えています。


人工呼吸器はどれぐらいの期間つける?

通常、口から管を入れて人工呼吸器を装着して2週間以内を目途に、離脱について検討します。
2週間治療を続けても離脱が無理そうなら、気管切開といって、喉に穴を開けて、短いチューブを挿入し、そこに人工呼吸器をつなぐ方法に切り替えます。

口から長い管が入っている状態では、口腔内(口唇、粘膜、歯)のトラブルが必至で、感染のリスクも上がるからです。


高齢で、肺の改善が難しそうな場合、それでも人工呼吸器での治療をするなら、この気管切開までセットで考えなくてはいけません。

気管切開をしても、肺自体が良くならない場合や、意識がしっかりしていない場合は、機械自体を外すことはできません。

要するに、植物状態に近い状態が続くということです。



人工呼吸器が外せないということを回避するには?


【最初から人工呼吸器をつけないという選択をすること】


これは可能です。


治る見込みが低いなら、最初から人工呼吸器は付けない(酸素マスクまではする)という選択は、できるのです。



実際に、このような選択を迫られる場面って、

たとえば呼吸困難で救急搬送されたりして、

「呼吸が止まりそう!今命を助けるなら人工呼吸器つけるしかないけど、どうする!?」

っていう状況が多いです。


つまり、当の本人が、意思表示をできる状態じゃないことが多く、家族に判断を委ねられることがほとんどなのです。

でも実際に治るかなんてやることやってみないと分からないし、人工呼吸器をつけないということは、積極的に治療しないということですから、結果的に死期を早めることにもなり得ます。

なので、本人の意思が分からない場合、この「人工呼吸器をつけない」という選択をすることは、家族的にはなかなか出来ないと思います。


そこで鍵となるのが、家族が患者本人の意思を知っているかどうかです。


本人の意思を確認できないまま、

人工呼吸器をつける選択をした家族は、

「こんなに苦しめるなら人工呼吸器は初めからやめておけばよかった。」

人工呼吸器をつけない選択をした家族は、

「積極的に治療をしていれば元気になっていたかもしれない」


こんな声を今まで何度も聞いてきました。



患者本人の意思を確認するためには?


【元気なときに話しておく】ことです。


たとえば、普段の会話の中で、

「機械につながれてまで生きたくない」
「出来る事なら諦めずに頑張りたい」 
「孫の結婚式までは絶対に生きていたい」
「自然な形(管に繋がれない)で最期を迎えたい」


こんな言葉があると、
「おじいちゃんああ言ってたよね。」
と、患者自身の意思を家族が代弁できたりします。


死んでもないのにそんな話するな!!と怒られるかもしれませんが、高齢になればなるほど、一度悪くなるとそのまま下降していってしまったり、認知機能に問題があったり、残された家族が代理で意思決定をしなければならない状況が大半を占めます。

いざというときに意思確認できないなら、事前に話をしておくしかないですよね。


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さいごに

医療技術が進歩し、助かる患者が増える一方で、患者の高齢化も進み、「救命」と「延命」の境界線がとても難しいと感じています。

また、人工呼吸器は一度付けたら良くなるまで絶対に外せないということの認知度が低いことも、望まない延命治療を増やしてしまうことの要因のひとつだとも思っています。

高齢者だけの問題ではなく、私たち家族もしっかり考えておかなくてはいけません。



一時期話題になった、厚労省の「人生会議」のポスターありましたよね。

いろんな論点で炎上していましたが、生きるか死ぬかの現場を知る一医療者としては、


「その通り。みんなちゃんと事前に会議しといてや。」


という思いでいっぱいです。



本日は以上です。

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