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グループkasy(金土豊、他)
2018年7月22日 08:12
長谷川平蔵は八丁堀の官舎に常駐している与力同心はもとより、非番の者も緊急招集して、三ノ輪の廃屋へと向かった。総勢20余名。同行する双伍を見て、怪訝な顔をしている者もいたが、長谷川平蔵は、「ただの新入りだ」とだけ答えた。一刻ほどしてたどり着いた三の輪の廃屋は、今にも崩れそうな様相だった。柱は曲がり、屋根は歪んでいる。長谷川平蔵以下、部下たちは一気に屋敷になだれ込んだ。
2018年7月23日 18:22
江戸城の東にある人形町は、火炎に包まれていた。紙物問屋、備前屋が火元と見られた。備前屋の周囲、八棟の屋敷が町火消したちによって、取り壊されている。備前屋の周りには、おびただしい数の人だかりができ、町火消したちの怒号が鳴り響いた。周囲の八棟の中で焼け出され、生き残った者は全身煤だらけで、地面にへたり込み、汗と涙で人相さえも判別できない。それでもなお、備前屋は黒煙を
2018年7月24日 20:17
「何?<風魔>の仕業だと?」清水門外の役宅の裏戸の縁側。そこには長谷川平蔵と双伍の姿しかない。長谷川平蔵は双伍の言葉に驚いて、キセルを口から離した。「その見立ての根拠は何なんだ?双伍」「へい、それは殺された仏につけられた傷でござんす」「あの、<几>という傷のことだな?」「あの<几>という文字は、<風魔>の紋なんでさぁ」そこで平蔵は思案深げに、双伍に訊いた「すると
2018年7月26日 22:03
3日後の夜、丑三つを過ぎた頃、火付盗賊改方の与力同心の詰める官舎の程近く、日本橋にある反物問屋、大越屋から火が出た。半鐘が打ち鳴られ、闇夜をその轟音が引き裂いた。町火消しが総動員されて、火消しに当たる。町見回りをしていた、明智左門筆頭与力、佐々木音蔵同心、川田一郎同心らも駆けつける。だが同心たちには、火がおさまらぬ限り、何も出来ない。ただ、燃え盛る大越屋を見上げ
2018年7月28日 23:38
八丁堀の与力同心の官舎には、20名ほどの与力同心が集められていた。勿論、長谷川平蔵の姿もある。その左腕には血に滲んだ包帯が巻かれている。表戸の土間には、双伍の姿もあった。だが、与力同心の面々は、それも沈痛な面持ちを浮かべていた。それもそのはず、どんな大盗賊も怖れる火付盗賊改方の官舎が襲われたのだ。それも下っ引きは皆殺し、そして駿河右京同心は重傷を負い、町医玄田元
2018年7月29日 12:33
数日後、丑の刻を越えた頃、江戸の町にいくつもの炎が上がった。山下御門の近く、金物問屋伊勢屋、江戸橋の油問屋大貫屋、そして深川の米問屋五穀屋。一夜にして火付けされたのだ。八丁堀の与力同心たちは、方々に散って事に当たった。町火消しだけでは手に負えなく、大名火消しまで駆り出された。その上、恐るべきことが起きた。現場に赴いた火消し達に<風魔>の忍びが襲い掛かったのだ。各所に
2018年7月30日 19:28
突進してくる双伍をかわし、幻也は飛んだ。腰の太刀を抜いて、空から斬りつける。幻也の太刀は、江戸の大火の炎の光を浴びて黄金色にきらめいた。双伍は幻也の太刀を、十手で弾いたが、その威力に腕が痺れる。背後に回った幻也は、砂塵を撒きながら間髪を入れずに斬りつけてくる。凄まじい連撃だ。さすがの双伍も防戦に、引くしかなかった。幻也の姿が視界から消える。砂を巻き上げて、さらに
2018年7月30日 19:30
<天魔衆>は各地に散らばり、盗賊として暴れていると、長谷川平蔵以下、与力同心は風の噂できいた。勿論、双伍の耳にも入っている。妖刀<鬼神丸>で辻斬りに身を落とした加藤祥三郎は双伍の十手で、両手首を砕かれ、二度と刀の持てない体になった。その上、加藤家は、次男の罪により、当分の間は江戸城への立ち入りを禁じられた。仇討ちで両親を亡くしたお紺は、大店である反物問屋、方月屋