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~落ちこぼれのリーダー論~                                         エンパワ-メントで失うもの

エンパワ-メントとは、権限移譲を意味する言葉で、上司が持っていた権限を部下へ与えることで、部下の自律的な行動を促し、組織を活性することを目指します。

私のいる部署(間接部門)の今までの管理職は、マネジメントは一切せず、作業を好む人たちが代々着いていた。
マネジメントを全くせずと言うのは語弊があるかもしれないが、所謂マイクロマネジメントを行っていたと思われる。
直ぐに現場のことに口を出し、口癖は「私は聞いていないぞ」と何でも知りたがる傾向が強かったとも言える。

私が営業部から移動になり、その部署の部長になった時、タイミングが悪く、部長と課長が同時にいなくなった上、コロナの騒動で一切引き継ぎができなかった。
そして、その部署のメンバーは、社内でも営業ができない、仕事ができないといった理由で行き場の失った人たちであった。
私も営業時代には、彼らの仕事ぶりにいつも苦しめられていた。

引き継ぎがまともに出来なかったこと、そして前任の部課長が思いっきり現場仕事を引き受けていた関係で、直ぐに日々の仕事が回らない状況に陥った。
現場の状況が見えていないのに、毎日多くの判断を迫られる。
本当に些細なことまで、全て「どうしますか?」と聞かれる。
私は、他の部署の管理職も兼任していたので、完全にパンクしてしまった。

そんな時に止めればいいのに、社長の反対を押し切ってコロナ禍でのリモートワークの推進を行うが、社内からは意外と「出社したい」「リモートしたくない」という反対意見が出てきて、背後から矢が飛んで来るような状況だった。
そんな心労が祟ったのか、大病を患ってしまい、入院などで1ヶ月半会社を休むことになった。

後に残された部下や他の部署の後輩たちが、自律的に私の代わりに仕事をしてくれたお陰で、業務は何とか回っていた。
以前より分かっていたことであるが、私が会社にいなくても、業務は回るし何の影響もないことが証明された。

私は職場復帰した後、部署の方針を作り、その方針に基づいた具体的な目標を掲げ、部下たちに期待する役割を日々伝え、分かるまで何度でも説明して彼らを鼓舞し続けた。
そして、自律的に自ら考え行動することを日々日々しつこく促した。
そして同時に、部下たちへの権限移譲を進め、私は彼らが解決できない問題に取り組み、彼らが動きやすくなるように、社内ルールの整備や役員対応に注力した。

その結果、私が業務で必要とされることは激減し、今では殆ど問い合わせも来なくなった。
これで益々私の会社での存在意義が薄れてきた。
私が明日いなくなっても、業務が止まらないし会社も困らない。

今までとの管理職と全く違う姿勢で働く私に対し、4人の社員が「あなたは普段何しているのですか?」「現場仕事をしなければ、部長は何の仕事があるのですか?」と真面目に聞いてきた。

社長からも「お前は仕事しているのか?」と何度も聞かれた。

日々パソコンに向かい何かを入力したり、会議のための資料を作ったり、どこかへFAXする仕事をしていない私は、みんなから「働いてない人」と思われている。

その裏で、私の部下たちは活き活きと働くようになり、周りからの評価も大きく変化した。最近では、私の期待を上回る仕事を自ら行うようになり、口うるさく叱咤激励しなくても良くなりつつある。

さて、益々私の存在価値が薄れてきた。

エンパワーメントすることは、理解のない社長や上司のいる会社では大きなリスクにもなり得るのだなと思える。
常に忙しそうに資料を作ったり、あちこちと飛び回っていたり、朝早く来て遅くまで残業している人たちは安泰だ。
「あいつはいつも頑張っとる」と評価される。

でも、そんな人たちの部下たちが、頻繁に私のところへ来てアドバイスを求めてくる。暇そうに見える私には話しかけやすいのだろう。
ただ、私も彼ら彼女らの直属の上司を飛び越して、あれこれ指示するのは憚れる。
上司に相談しなさいと促すと、「いつも忙しそうで話しかけづらい」、「いつも外出していて会社にいない」と言う。
絵に描いたようなプレイング中心マネージャーだ。
自分のチームよりも自身の売上を優先している。

エンパワーメントを実現して、失った「社内における存在価値」と引き換えに、以前より自由な時間を得ることができた。
お陰で、今までやりたくても出来なかった業務改善や社内の人材教育に時間を費やすことができる様になってきた。
そして、他の部署の若手からも頼りにされるようになってきた。
私自身も活き活き楽しく働いている。
「あいつは働いてないぞ!」とクビにさえならなければ、まだまだ楽しめそうだ。



エンパワーメントが進まない理由の一つに、上司が抱く「自分の仕事を奪われる恐怖」があるのかもしれないと思った。




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