見出し画像

言葉の蛇口〜たとえ話〜自由と自分勝手の違い〜闇を照らす光

昔、ある国の長老のもとに一人の若者が訪ねてきた。彼は、その国の王子であった。王子は、不正や悪が蔓延っている国の惨状を嘆いて、こう言った。
「せっかく戦争に勝って独立し、自由を取り戻したというのに、悪人が栄えるようでは、国の将来を担う若者が希望を抱くことができません。この国に秩序と正義をもたらすために何をするべきか、私なりに考えてまいりましたが。良い考えが浮かびません。厳しい罰則を設けましょうと王に進言したのですが、父上はそれを許さないのです。」
長老は王子に尋ねた。
「王は何と仰っていますか?」
王子は答えた。
「父上は、『今は戦争の直後だから混乱があっても仕方がない。国家の土台を築こうとしている段階なのだ。間違った施策は国の将来をゆがめてしまう。罰則は秩序をもたらさない。罰則は不正や悪を日陰に追いやり、温床を作り出すだけだ。そこでは不正や悪は繰り返される。罰則よりも、模範となる者を役職者として登用してゆこう』と言うのです。しかも、『模範となる者とは、自由に生きる者のことだ』と。私には、国民に自由を許している結果が、この惨状を招いたとしか思えないのです。」
すると長老はこう言った。
「王子よ、あなたは自由が何であるのかを学んでこなかったようですね。おそらく、この国の若者たちも同じなのでしょう。あなたは、将来、この国の王になる者として、自由について学び、人々に伝える義務があります。街に出て、王が求めている、自由に生きる者を探してきてみなさい。」
王子は街に出て人々の様子を見て、こうつぶやいた。「探すまでもない。この国には自由気ままに生きている者ばかりだ。しかし、彼らの中に国民の模範となる者などいるだろうか。」
王子は人々の様子を観察して歩いた。どれだけ歩いても、自由に生きる者の中から模範になる者を探し出すことはできなかった。その2つは矛盾しているとしか思えなかったからだ。
王子は長老のもとに帰ってこう言った。
「自由に生きている者は大勢おりましたが、その中に模範となる者も尊敬に値する者も見当たりませんでした。あのような者たちを模範にしたら、この国は滅んでしまいます。」
長老は尋ねた。
「では、模範となる者はおりましたか?」
王子は答えた。
「耕作地を広げるために働く者、井戸を掘る者がおりました。川から水を引くために水路を築いている者もおりました。戦争で傷んだ橋を直す者や、子供たちのために学校を開き、教えている者もおりました。親を失った子供を引き取った者にも会いました。彼らは、将来を見据えて働いていることが分かりました。模範とするべきは彼らです。しかし、彼らは自由に生きてはおりません。余計な責任を引き受け、他の者の分まで働き、苦労しています。」
 長老は言った。
「王子、彼らの姿こそが自由なのです。彼らは、誰かに強いられているのではありません。将来のために、この国の未来のために、今できることを自分たちで見出し、自分たちの役割として引き受け、自ら汗を流しているのです。自分で考え、役割りや責任を引き受ける姿が、王が求めている自由に生きる者の姿、この国の礎を作る模範です。
 王子が見てこられた自由気ままに生きる者たちは、この国のことも、社会のことも考えず、役割や責任から、逃れようとする者たちです。彼らは自由なのではありません。自分で考えて、行動することのできない自分勝手な者たちです。」
 困惑する王子に長老はこう言った。
「自由に生きる者と自分勝手な者の違いを覚えておいてください。
 自由に生きる者というのは、同じようにする者が増えることが望ましい生き方をしている者を指します。自分勝手な者というのは、同じようにする者が増えては困るという生き方をしている者のことです。
 それともう1つ、この国を率いてゆかれる王子に覚えておいていただきたいことがございます。自由に生きる者は、いつの時代においても、どの国、どの社会においても少数派に属します。自由に生きる姿は誰にとっても望ましいものであるはずですが、それを選ぶ者は少ないのです。そのために、自由に生きる者たちは大変な責任を負っています。尊敬や憧れを口にする者はおりますが、同じようにする者はなかなか出てきません。非難や迫害の的になることもございます。それでも彼らは自由に生きるのです。その姿こそがこの国の、この世界の希望です。闇のように見える世界に彼らが火を灯してくれているのです。王が望んでおられるのは、その小さなともし火が、少しずつこの国に広がってゆくこと、自由に生きる者の姿に倣って生きる者が増えることです。
罰則は人から自分で考える機会や意思を奪います。罰則では、人を変えることも、国を変えることもできません。あなたのお祖父様はそこで間違いを犯しました。王は、この国を作り変えようとしておられます。人間らしい生き方を取り戻そうとしておられるのです。
もう一度街に出て、自由に生きる者たちと語り合ってください。王となるあなたには、この世界の闇の中に光を見出す者であってもらいたいのです。彼らの働きを労ってやってください。あなたがそうすることで、人々の目は開かれるはずです。」

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?