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花譜にとって不可解再とはなにか?――花譜 1st ONE-MAN LIVE「不可解(再)」一万字レポート

2019年8月1日、僕は歴史の特異点にいた。
その日、花譜 1st ONE-MAN LIVE「不可解」が開催された。当時は現地だけではなく、全国でのライブビューイングに加えてyoutubeでの無料配信も行ったため、twitterトレンド世界一位を記録。

ライブ前に行ったこの宣言の通りに、花譜は世界を変えてしまった。このライブの直後、FictyのプロデューサーであるninoPさんはこのように回想している。

不可解は何が特異点だったか?

多くの考察が存在するが、私は不可解が「花譜」という芸術作品として表現されているところだと感じている。不可解と他のライブの大きな違いは、全部で三層に構成されたスクリーンと生バンド、そして、何よりもそれらを駆使したクリエイターの表現である。僕たちはこれら全てをもって、「花譜」という作品の中に没入してしまう。花譜はクリエイターの集合体であるVtuber文化から生まれた寵児と言うほかない。

MUSIC,ART,STORY,EXPERIENCE.

これは、現在彼女たちが所属する「KAMITSUBAKI STUDIO」の理念だ。10月中旬に発足されたKAMITSUBAKI STUDIOは新たなVシンガーである「理芽」「春猿火」「ヰ世界情緒」などのほかにdustcellなど多くのクリエイター、アーティストを加えて発足した。もちろん、彼らはVtuber運営でもなく音楽レーベルでもない。音楽、イラスト、動画、ボーカリストなど多彩なジャンルの若い才能が集まったYouTube発のクリエイティブレーベルとして誕生した。

来たる12月には花譜、理芽の初配信が行われ、不可解(再)の公演が決定する。花譜運営の以下のnoteにてこのように述べられている。

完全に内容を一新した花譜の2ndライブも一度検討してみたのですが、まずは8月の「不可解」でやりきれなかったことを一度形にしてみたいとも考え、1stライブの再演、再構築をすることに決めました。

まだ、やりきれなかったことがあるという期待感を膨らませる言葉。彼らは僕たちをどこに連れていくのか――。残念ながらZeppDiverCityでの公演は無観客となってしまったが、その圧倒的なクリエイティブは変わらなかった。

花譜にとって不可解再とは何であったか?
その理由と魅力を紐解いていこう。

待機時間

このライブ開始前に花譜の過去MV一挙振り返り放送がYoutubeで行われていた。ライブ前に花譜の過去を振り返るには良い放送だったと思う。しかし、これによって後に彼女の大きな変化を実感させられることになる。

また、待機時間には同じ神椿スタジオのメンバーである「ヰ世界情緒」が会場アナウンスを行った。想定外の出来事で驚いた観測者も多かったことだろう。甘く芯が通っている声に癒された人も多かったに違いない。

1 深化

真っ暗な世界に突如、彼女のポエトリーが響いた。多くの観測者なら気付いたことだろう。この曲は「深化」と呼ばれ、花譜が青雀に深化したときの曲だ。もう不可解の頃の雛鳥ではないのだ。ずるい、もうずるいよ……

いよいよ「少女降臨」が始まる。天地鳴動をイメージしたモーショングラフィックスを背景に彼女のポエトリーは続く。

「わたしはきょう、ふかかいなはなになる
きょうからあしたのせかいをかえるよ
すべてをうたにかえてうたう
バーチャルとリアルの、つなぎめから
いまここにいるよ
ここにいる
いるよ」

花譜 1st ONE-MAN LIVE「不可解(再)」のタイトルコールが告げられた。

すると緩急を待たずに、次のイントロが始まった。

3 糸、忘れてしまえ、雛鳥、心臓と絡繰

「糸」

聞いた瞬間、分かった。もう昔の花譜ではない。直前に過去のMVを振り返っていたのがいけなかった。

「幼い声を活かした歌い方から、感情に訴えかける歌い方へ」

これがこの一年半の花譜、一番の変化だった。雛鳥として生まれた彼女は当初、その幼さを活かしたウィスパーボイスを特徴としていた。しかし、今はどうだろうか――。

一年越しにリメイクされた。その曲から感じさせる雰囲気は雛鳥の頃と全く異なっていた。バンドアレンジが入った糸は、この深化を際立てているように聞こえた。「溢れる糸が~」の部分の繊細さ、そこから大きく感情を盛り上げて、「気づいて、笑って、解いて」のラストに繋げてくる。
一年前と違って、彼女は糸を完全に自分の曲にしていた。

全てが、全てが彼女の「深化」を感じさせた。

ここで一旦MCが入る。そのMCにはまだあどけなさが残りつつも、なんとか言いたいことを絞り出しているようだった。残念ながら無観客となってしまった不可解(再)。16歳の少女にとっては色々と悩むこともあっただろう。「最後まで一緒に盛り上がってください!」。元気にそう告げた花譜は次の曲、「忘れてしまえ」に移る。

「忘れてしまえ」

「忘れてしまえ」は僕たちと花譜の別れの曲だ。一年前、休詩に入ると唐突に別れを告げた花譜は「忘れてしまえ」を投稿した。

「忘れられるわけないだろ!!!!!」

そんな風に思ったのを昨日のように思い出す。もちろん、この曲も彼女の変化を感じざるを得ない。感情の込め方が違っている。それもそうだ――あのとき僕も花譜も出会ってまだ間もなかった。
例えば今、あのときのように別れを告げられたらどうだろうか?

僕たち観測者と花譜はあのころとは全く違った経験をしている。不可解を経て共犯者となり、一周年を同時に迎え、今また不可解(再)を観測している。積み上げたものの大きさが変わっているのだ。僕たちも花譜も。

そう思いながら聞く「忘れてしまえ」は、一層心に染みた。その背景は夕闇だったのを記憶している。ただ、目の前にいる花譜の姿だけが異なっていた。雛鳥から青雀に変化した花譜は成長した姿で「忘れてしまえ」を歌い切った。

イントロを聞いた瞬間に崩れ落ちた。

「雛鳥」

いや、分かっていた。「忘れてしまえ」の後は「雛鳥」しかない。こんなことは全人類が知ってる。でもそれはダメだよ……

眼前のモーションタイポグラフィクスは桜の花びらを落としていた。
今日も東京では桜が満開だ。
雛鳥の投稿からちょうど一年が経とうとしていた。

この曲の終盤「君のいない夏へ、君のいない空へ」と語りかける花譜は上を向いていた。高校生になり、不可解を経て、大きく成長した雛鳥は青雀となって空へと旅立った。

カチカチと心地よい時計の音がしばらくの間鳴り響く。

「心臓と絡繰」

はい、これはズルです。花譜はズルを犯しました。

「心臓と絡繰」の歌唱中、背景に雛鳥の姿のMVが流れていた。もちろん、より近く見えるところに、青雀の花譜が存在する。聞こえてくる声は大きく深化した感情を込めた歌い方をする花譜。

頭がバグってしまった。
自分が観測しているこの情景は一体なんなのか?

ここで初期4曲が終わる。この4曲は花譜の深化を感じられるライブ構成となっていた。最も花譜の成長が一番分かるシーンだったと言ってもいいだろう。僕たちに分かりやすい形で、あの雛鳥である少女が眼前に大きく成長した姿を見せた。

考えてみればちょうど一年半前、中学生・高校生と言う多感な時期に、音楽をやるということ――それ自体が大きな決断であったはずだ。

過去のインタビューで花譜のプロデューサーであるPIEDPIPERはこう答えている。

──学業との両立は大変ですよね。
PIEDPIPER それは絶対邪魔できないです。高校生活というのは今しか味わえない大事なものなので。そういったものをもし犠牲にしてしまうならアーティスト活動は止めた方がいいと思います。

花譜を観測していて、青春を音楽に還元していると感じるときがある。代表曲「過去を喰らう」では、高校生になった自分を投影しているように思えるし、「そして花になる」はそのまま花譜自身を綴った曲だ。そして、高校生活を通して花譜は成長し続けた。このパートでは、全てを歌の糧として深化し続けてきた花譜を僕たちは観測した。

そして、何より彼女は前回の不可解と比べて楽しそうだった。思わず体を大きく揺らしていたり、声の抑揚が激しくなっていた。きっと、余裕が生まれてこのライブを楽しめていたのだろう。

4 エリカ(Guiano Remix)、未確認少女進行形(小島英也Remix)

このパートで「花譜」はクリエイター集団としての顔をのぞかせる。

「エリカ(Guiano Remix)」は「観測γ」に収録されたRemixで、通常版のエリカよりもアップテンポな曲調だ。

僕は「エリカ」の特徴は何といってもMVだと思っている。不可解のとき、あの美しいキネティック・タイポグラフィ(文字アニメーション)を見せられた時は思わず、感嘆の声が出た。エリカという文字が葉や花から構成されていく様はそれだけで一線級の芸術だ。

未確認少女進行形(小島英也Remix)

「未確認少女進行形」が流れた瞬間、その圧倒的な空間に驚いてしまった。まるで花譜がその世界にいるように映像が構成されている。

不可解の特徴は何といっても、三面スクリーンだ。後ろに背景用の大型スクリーン、真ん中に花譜用の透過パネル、そして、最前のモーショングラフィック用の紗幕スクリーンである。この三層構造によって、花譜がこの世界に降臨しているということを3Dで表現できるほか、紗幕スクリーンが存在することによって、まるでMVのような表現ができる。

不可解のもので申し訳ないが、まず画像を見ていただこう。

画像1

花譜ワンマンライブ「不可解」1万字レポート なぜ彼女はVTuberライブの特異点となれたのか?より

この画像を良く見ると、未確認少女進行形では三面スクリーンが有効的に使われていることが分かる。背景にポップな街並みが映し出され、その一歩前で花譜が躍っている。ここまでなら普通かもしれないが、これでは奥行きを表現しきれない。これに加えて、紗幕スクリーンが存在することによって、ポップに変形した文字たちがステージ上に召喚される。まるでステージに3DのMVが降臨したような効果を得られる。(前回の不可解は観客席の位置上良く見えなかった)

また、この曲は花譜の楽曲では珍しいダンスミュージックだ。だからこそ、この空間作りが必要になる。

振り返ってみると、このパートは三面スクリーンやキネティック・タイポグラフィを活用した技術の不可解であった。最後のクレジットを見れば分かると思うが、不可解には多くのクリエイターが関わっている。これは、クリエイティブ・スタジオと自称する彼らの本領発揮と言えるし、花譜が花譜たる所以でもあるだろう。彼らの総合芸術によって、不可解はまた一歩表現のレベルを上げ、僕たちはさらなる花譜の世界観に誘われていく。

5 わたしがすきなうたをうたうよ

①綺麗/吉澤嘉代子

僕はこの歌手を初めて聞いた。90年生まれの吉澤嘉代子は全てのアルバムがコンセプチュアルな作品となっていて、その独特の世界観が人気を博しているようだ。

花譜が歌うとまた別の歌のように感じられた。大人の女性が歌うシティ・ポップの中にどこかあどけなさを感じる。ほのかに青春の香りを入れた声がしたのを覚えている。

②愛の才能/川本真琴

突き抜けるようなギターが特徴的なこの曲。つい、前回の不可解で披露した崎山蒼志「五月雨」が思い出される。
これは本当に現地で聞きたいと思った。何よりギターの音が素晴らしい。
天才的な花譜の声と技巧の光るギターだけのライブって良くないですか?(花譜アコースティックライブを待ってる)

③美しい棘/GLIM SPANKY

タイトル発表されたとき「これか!」と思わず膝を打った。

70年代のロックを思い出すようなGLIM SPANKY。彼らのどこか昔懐かしく、かっこいい音作りは人気を集め、今最も注目されるアーティストの一人である。もちろん、僕も大好きだ。ギターと花譜の声は非常によく合う。彼女自身も体を揺らしてとても楽しそうに歌っていた。

彼女が「去年ライブに行って泣いてしまった」と語ったとき、自分の花譜像と完全に一致してしまい、思わず笑ってしまった。
「わたしがすきなうたをうたうよ」の選曲を見ていて、ぜったい、音が少なくて昔懐かしのロックが好きだなと思ってた!

6 祭壇(大沼パセリRemix)、魔女(春猿火 samayuzame Remix)

この二つは同時に語らなければならないだろう。
MCでも語られたが、この二曲は花譜からバーチャルYoutuberに捧げられる曲たちである。「このシーンが盛り上がっていなけば私は生まれていなかった」と彼女が語るように、「同じ時代を生きるバーチャルの可能性」について語られた歌だ。

また、花譜の歌の中でも独立した存在であることが示唆されており、ビジュアルイラストを一貫してオクソラケイタさんが手掛けている。一般的に花譜の曲はある一貫したテーマで描かれているが、この魔女、祭壇、宣戦は別だ。バーチャルとは何なのか? 神椿なりの答えが込められている。


「祭壇」はまだ音源化されておらず、不可解のみで披露された楽曲である。

ここには誰かの笑顔が
誰かの涙が混ざっては
溶けて流れて散りゆく
ここでは願いが魂がないまま
繋がる

バーチャルとは何なのか――それこそ不可解としか言えないような世界だ。顔も姿も見たことのないような世界を私たちは応援している。しかし、バーチャルから貰ったもの、それは、僕たちにとってかけがえのないものだ。繋がる想い、感動、悲しみ、怒り、全ての感情がこの記号の世界に広がっている。「神様はどこにだっている」のだ。

「魔女」

「魔女」はKOTODAMA TRIBEで初めて公開され、実は初めてCD化された音源でもある。このMVでも特徴的だが、現地でもキネティック・タイポグラフィが多用されていた。

そして、神椿にはこの魔女をカバーしているアーティストが一人いる。

春猿火はラップを得意とする神椿所属のVシンガーだ。作詞・作曲をたかやんが努め、現在までに4曲のオリジナル曲を出している。

花譜が「サプライズです!」と言ったとおり、突如現れた春猿火は花譜と一緒に「魔女」を歌った。春猿火はまだ3D モデルが発表されておらず、登場すると予測した人も少なかっただろう。二人が並ぶ姿は不可解との大きな違いを感じさせた。不可解から半年を経て、花譜には一緒に歌う仲間が出来たことを感じさせる一幕だ。

7 夜が降り止む前に(sameyuzameRemix)、quiz(笹原真生Remix)

「夜が降り止む前に」は映画ホットギミックの主題歌として採用された曲だ。ふと、CDを買うために映画館へ足を運んだのを思い出した。
前回の不可解では大沼パセリRemixでアップテンポの曲調であったが、今回はゆったりとした夜を思わせるようなRemixだった。スクリーンに映し出されたらぷらすがとても印象的で、花譜を周遊する姿はまるで歴史の案内人のようだった。(背景スクリーンにはらぷらすと過去の花譜が映し出されていた)

quiz(笹原真生Remix)

不可解で初披露されたquiz。自撮り風のMVが特徴で数多くの聖地を生んだ名曲だ。今回披露された(笹原真生Remix)は観測γに収録されていて、前回の不可解では大沼パセリRemixが披露されている。

「AではなくQを創る」神椿スタジオはそんな理念を掲げている。
そして、私たちは彼らから常にQを与えられ続けている。この不可解で何を思うのか――多くのRemixが存在するquizこそ、その答えを示しているのかもしれない。花譜は様々な見方や活かし方がある。どれを否定するわけでもなく、それ自身を観測することが何よりも大切だと教えてくれる。

8 夜行バスにて(アレンジ)、過去を喰らう(アレンジ)、Re:HEROINES(アレンジ)

このパートでは怒涛のアッパーチューンが続く。しかも、繋ぎが良すぎた。休む間もなく、連続でこの三曲が披露された。

特にRe:HEROINES(アレンジ)だ。

この曲を最後に持ってきたのがにくい。

この曲はスマホゲーム「47 HEROINES」の主題歌として2018年12月に発表された。言わば知る人ぞ知る曲であったが、TOKYO GAME SHOW 2019に際して、雛鳥黑をまとい、「Re:HEROINES」としてMVが公開された。

つまり、この曲は一度花譜によってリメイクされている。今回の不可解(再)は不可解のリメイクであることからも、あえて最後に持ってきたことは大きな意味があるだろう。

それにしても、初期のイメージを考えると、花譜がこんなにアッパーチューンの曲と合うとは想像もできなかった。繊細でシティ・ポップの曲調が彼女に合うと感じていたので、初めて過去を喰らうを聞いたときは驚いた。そんな曲を今は楽しそうに、完全に自分のものとしている。どの曲も花譜の代表曲と言っても過言ではない。最高だ。

僅かな息切れをマイクに残して、花譜は去った。しかし、観測者はこれで終わりではないことを知っている。

twitterを見ると、アンコールの文字が躍っていた。

9 御伽噺、神様、命に嫌われているfeat. sameyuzame

不可解で大きな衝撃をもたらした御伽噺。花譜の曲には随所に君と言うテーマが散らばめられている。その君に語り掛ける「御伽噺」は女優花譜を垣間見ることができる。御伽噺、神様とポエトリーが続くこのパートでは、花譜の持ち味が生きているシーンだろう。

前回の不可解との違いは背景だ。不可解では裏庭を背景としていたが、今回は玄関→階段→屋上→教室と移動している。

「君って語彙力全然ないんだね。君なんて大っ嫌いだ」

花譜は罵倒の才能があるのかもしれない。

続く「神様」は東京ゲゲゲイのカバーだ。

この曲を初めて聞いたときは御伽噺のポエトリーがそのまま続いていると思っていた。それほどまでに御伽噺から神様への繋ぎが良く、そしてカバーと思わせないほど花譜の歌い方とマッチしている。幾何学的なモーショングラフィックスが花譜を取り囲み、神秘的な雰囲気をさらに増していた。花譜の声は凄みを増し、僕たちをこの世界に強制的に連れていく。

ここで花譜のMCが入る。カンザキイオリさんはドアを開けてくれるなど本当によくしてくれるらしい(笑)

MCのたどたどしい花譜、歌を歌っているときの花譜、女優花譜。本当に彼女はたくさんの側面を見せてくれる。そのどれもが不可解から成長しているのを感じさせた(そもそも超会議のときは殆ど話さなかったな……)。

そんなことを懐かしく思っていると、ふとこんなMCが入った。

「今日はこのとき限りの特別バージョンでsameyuzameさんと歌います。それでは聞いてください。命に嫌われている」

床になりました。

ピアノバージョンの命に嫌われている。言うまでもなく、sameyuzameさんのキーボードは繊細な花譜の声をさらに引き立てていた。まるでポエトリーのような優しい語り口でサビ前を歌い切り、ひとたびサビに入ると消え入りそうな高音が際立った。それは、生きている人に向けた讃美歌のようだ。

生きろ

ラスサビにてふり絞って発声された生きろというフレーズ。
これほどまでに胸を打つ生きろを聞いたことがあるだろうか?

10 不可解(アレンジ)、そして花になる(アレンジ)

そして、「第1形態 雛鳥」から「特殊歌唱用形態 星鴉」へ変化。この衣装はクラウドファンディングのストレッチゴールとして生まれたものだ。仰々しいエフェクトが彼女を包み、使い魔であるらぷらすが彼女を喰らう。そして、星鴉として現れると

「かっこいいですね……ちょっと恥ずかしいんですけど」

と花譜は語った。

この演出は製作者の趣味を伺うことが出来て面白い。変身シーンはまるでロボットアニメのような仰々しさで、彼女のリアクションのギャップがつい笑いを誘う。この感覚は男の子特有のものなのかもしれない。

不可解(アレンジ)

ライブ特有の美しいピアノの音が鳴り「不可解」が始まった。

本当に彼女はポエトリーが良く似合う。心を打つ声と言ってしまえば安直すぎるかもしれないが、何度聞いてもこの声質は天才的なものとしか言いようがない。そして、その強みを形にした彼女自身の努力もとてつもないものだっただろう。その声は前回よりも、より一層感情が込められているように感じた。悩み苦しみ、青春を謳歌している今の花譜だからこそ、この歌が歌えるのだ。

そして花になる(アレンジ)

この曲は本当に泣いてしまう。

花譜が花譜自身を歌う。それを僕たちが観測している。それはきっと当たり前のことではない。

過去のインタビューでPIEDPIPER(花譜のプロデューサー)はこんなことを答えている。

──どの文章も明晰かつ、花譜さんやプロジェクトへの愛が伝わる名文だと思っています。PIEDPIPERさんと花譜さんとの具体的な出会いを教えて下さい。ネット上での発掘でしょうか?

PIEDPIPER  ある音楽アプリを通じ、偶然発見してしまいました。彼女は歌い手とかですらない、完全なる素人でした。惹かれたところは独自性のある声質ですね。その当時の花譜は正直歌があんまり上手くはなかったんですが、強烈に惹かれるものがありました。上手さよりも「良さ」という感じでしょうか。

──2019年1月30日のTwitterに投稿された文書の中で「複数の諸事情の中で、結果的にバーチャルシンガーという 選択肢に希望を持った」と花譜さんについて言及されています。具体的に、複数の諸事情とは何なのか。なぜ花譜さんはバーチャルシンガーとなったのかを教えていただきたいです。

PIEDPIPER そもそもの相互理解、年齢、学業の問題、住んでいる場所、その他色々──課題は山積みでした。「諸事情」の詳細に関してはこれ以上お答えすることはできませんが、投稿文の中にいま答えられることはほぼ書いています。現状、できないことの課題解決をバーチャルを使って距離を縮めたということです。

PIEDPIPERが彼女を発見していなければ……2017年、バーチャルシーンが生まれていなければ……彼女は花譜として存在していなかった。目の前で花譜を観測する。そんな当たり前に行っていることは全て偶然の事象で奇跡の出来事だ。

僕はそんな花譜をずっと観測してきた。

あなたが知らなくたってどうでもよかった
でもあなたがいるから私は私になれる

僕たちが花譜を観測することで花譜は花譜になれる。リアルの実像を持たないバーチャル世界では、観測しなければその存在はなかったも同然だ。

季節を巡るにはあなたが必要だった
私が知らない私がきっと まだ どこかで眠ってる

花譜は様々な側面を持っている――それは不可解で示されたとおりだ。歌を歌っているときの花譜、MCの花譜、女優の花譜。そして、映像技術で作り上げられた3Dモデルも花譜だ。さらに言えば、不可解の演出すらも花譜と言って差支えないだろう。さあ、僕たちは花譜をどう見るのか? 

そんなものに答えはない。「私の知らない私がきっとまだどこかで眠っている」のだから。彼女から受け取ったエモーションそのものが観測だろう。

11 宣戦

この曲は魔女、祭壇と続く物語の一つだ。

それに気づかされたのは、オクソラケイタさんの絵であることもあるが、何よりもその歌詞だ。

考察しがいのある歌詞であることは言うまでもないが、Vtuberを追っているオタクとして気になったところを述べようと思う。

Vtuberシーンがキズナアイから始まったことは多くの人が知るところだ。そして、そのアプローチは基本的にバーチャルの世界からリアルへ。私たちは本当に存在するよ。ということを訴えるものだった。

future base/キズナアイ
未来見たい 君のそばで 次代 背負う 世代
いつか きっと たどり着くんだ
そんな夢へ未来 未開 見せてあげる 次代 担う君に
白く果ない場所で誓った シンクロニシティ

しかし、宣戦では「私たちはフィクション」と言い切っている。

人生全部フィクション
伝う涙すらもフィクション

花譜・理芽は、ほぼ全ての動画に実在の背景を起用し、彼女の年齢や実生活を公開することで実在性を担保してきた。
その花譜・理芽が「私たちはフィクション」言い切ることに大きな意味があるだろう。

神椿が訴えたいバーチャルとは何なのか? 
魔女、祭壇、宣戦にはその答えが込められているのかもしれない。

それはそれとして、花譜・理芽の合唱は迫力があった。あの二人の声質は確かに似ているところもあるが、合わせて聞いてみるとその違いに気づかされる。調和としか表現しようのない二人の声。花譜の透き通るような高音と理芽の低音が見事にデュエットしていた。
それにしてもPIEDPIPERはここまで考えていたのだろうか……

12 エンドロール、電話をするよ/UA、宙ぶらりん/MONSTER GIRLFRIEND、ふめつのこころ/tofubeats

完全に油断していた。まさか、CFの名前が流れるとは思わなかった。

考えてみれば、これは不可解の再演なのだ。そう考えると当たり前なのだが、急に来たので面を喰らってしまった。(AZKiiiiはやっぱり面白い)

そして、新録のカバー。花譜の選曲にはいつも驚かされる。そこを歌うのかというところをピンポイントで付いてくるのでこちらとしても心がついていかない。同時に、彼女の音楽への探求心も垣間見える。本当に音楽が好きなんだなと気づかされる。僕ももっと音楽を聴かなきゃと思わされた……

そして、「HAYABUSA EXPERIENCE by 3.5D × docomo」の開催。同時に新衣装「隼」、新曲「戸惑いテレパシー」が発表された。

終わりに

不可解(再)。

楽曲の多くがRemixで構成されてるところや、「Re:HEROINES」がアンコール前のラストとして選曲されたところを見ると、不可解の再演と位置付けられていることが分かる。しかし、ただの再演ではないだろう。それは花譜の成長を見せる――Qを投げる再演だった。

雛鳥から青雀へ。歌い方も、話し方も、立ち振る舞いも大きく変化した花譜が「どう?」と声をかけてきた。姿形も変化するはずのないバーチャル世界で花譜は大きく変わっている。だからこそ、不可解(再)をする意味があったのだと感じた。

そして、新型コロナウイルスの影響で大きな被害を被った音楽業界。不可解(再)も類に漏れることなく、無観客ライブとなってしまった。
しかし、彼らはクリエイティブの力を見せつけてくれた。バーチャルであるはずなのに僕は彼らの想いを確かに受け取った。不可解(再)はバーチャル世界ひいては音楽業界にとって大きな希望となると思う。この世界が大好きな自分としては彼らに感謝してもしきれない。
バーチャルの可能性を最後まで見せてください。

最後に

「君はさ。いつだってそんな困ったような顔をするよね。全然わけわからないよ。そんなんじゃやっぱ嫌いになれないじゃん。まあ、いっか。曖昧なのもそんなに嫌いじゃないよ。また会えたらいいね。またね」

セットリスト

参考



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