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ショートショート:「レイト・ショーへ行く」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

今回は僕の好きなものを書いてみました。
共感できる人居たらいいな。

少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。


【レイト・ショーへ行く】

作:カナモノユウキ


《登場人物》
・僕

レイト・ショーに来てみた。
特に理由は無い…って言うと何だかカッコつけてる感じがするので、コレは素直に言う。
すごく、寂しかったからだ。
起きてから夕方まで、何もせず居たら何か腐ってしまいそうで。
たまたまCMで観た恋愛映画を調べたら、レイト・ショーに間に合うことが分かった。
無駄に出不精なのに何だかとても行きたくなったので、僕は気付くと地下鉄に乗って映画館に向かっていた。
到着したのは夜の八時、人はまばらで賑わっている程じゃない。
それでも、自宅にいるよりは心地よくて何だか安心する。
チケットを買って、売店でポップコーンを買う。
色々迷うけど、キャラメル味がやっぱり好きで選んでしまう。
香ばしい色に、鼻に抜ける甘い匂いが好きなんだなと…何だか今気づいた。
特に思い入れも無いのに好きなのは、本当に好きな証拠なんだろうな。
しばらくキャラメルポップコーンに思いを馳せて居たら、アナウンスが聞こえた。

いよいよ開場だ、隅々に散らばった人たちがどこからともなく吸い込まれていく。
同じ目的地にいそいそと向かっていく光景がなんか面白くてニヤニヤしそうになる。
チケットのもぎりを済まして奥の廊下へ。
いくつかの大きな扉が口を開けていて、横には番号が振られている。
チケットに書かれたA―5と同じ番号の扉に向かう僕。
その入り口に入っていくのはカップルばかりで、何だか気まずく感じていたときだった。他のお客さんで、一人の男子大学生を見て何だかホッとする。
そんな感じで照れつつ、薄暗い館内を歩いて席に向かう。
買った場所はスクリーンから大分離れた真ん中の席。
昔からこの場所が好きで、指定席と言っても良いと思うぐらいここを選ぶ。
ここでようやく我慢していたポップコーンに手を出す、そして映画が始まるのをキャラメルの味を楽しみながら待つ。
この時間も、割と好きだ。
ヒソヒソと喋る人たちの声に耳を傾けたり、ただただ大きいスクリーンに圧巻されてワクワクしたり。
ある意味で、ここは僕にとっての非現実空間なんだと認識する。
そんなこんなで思いを巡らせていると館内はさらに薄暗くなり、真っ暗になった。
そして始まる映画の予告タイム。
この時間、僕の気持は子供に帰るんだ。
どんな映画がこれから待っているのか、どんな世界を映画監督や俳優は作ったのか。
広がる世界は実写なのか、はてまたアニメか3Dか。
映画の予告はさながら異世界のカタログだ、それを観てワクワクするのがたまらない。
映画本編が始まる前に、別の映画のことに胸躍らせてしまう。
これはきっと子供の頃に経験した好奇心や冒険心の名残なんだと思い出せて、僕は嬉しくなった。


そしていよいよ、映画の本編が始まる。
だが正直、興味があった映画でもないから序盤からちょっと飽き始める僕。
純粋な女性と愁いを帯びた男性がすれ違いながら恋をする物語。
何だか綺麗だなと思うほど、自分には遠い世界だなと感じてしまって。
本当に、映画の世界だ。
あれ。寂しいから来たのに…余計な感情が蘇ってくる。

…来ない方がよかったかな。

そう思った時だった。隣の席に、小さな気配を感じた。

『ねぇ、あの綺麗な女優さんって〇〇に出てた人?』

訪ねてきた声は、何処かで聞いたことのある子供の声だった。

『あの男の人、なんかカッコよくていいね。』

…あぁ、そうだね。

『ねぇ、このポップコーン食べていい?』

…いいよ、好きなだけ食べな。

『これ美味しいね!何かサクサクしてる!』

…キャラメルがかかってるんだよ、甘くて美味しいだろ。

『僕さ、こういうのより…怪獣とか、アニメが良かったな。』

…ごめん、適当に決め過ぎた。今度は気を付けるよ。

『でもいいね大人って、夜に映画館に来れるんだもん。』

…そうだろ、ちょっとした贅沢だよね。

『ねぇ、また一緒に来ようよ。』

…そうだね、また一緒に来よう。

『約束だよ。』

…あぁ、約束だ。

気付くと映画はもうエンドロールに向かっていた。
子供の頃はこの時間が退屈だったけど。
大人に成ってからは、割と大事な時間になった。
多分、こういうのを余韻っていうんだろうか…。
いや…これもカッコつけてるだけだな。
最後に監督の名前が流れ終わり、館内が明るくなって横の席に目をやる。

そこには、誰も居なかった。

でも僕は知っているんだ、その声の正体を。
さっきの子供の声は、きっといつも傍に居る。
こういう非現実の世界でないと出会えない、僕だったんだろうな。
そんな余韻にひたりながら、僕は席を立った。
全てが終わった頃には、もう夜の十一時過ぎ。
終電も間近だ。そろそろ帰ろう。

思い立った時の孤独は、気付いたら消えていた。
その代わりに、何だか傍には懐かしい子供の頃の自分が、次の映画を何にしようか考えている気がする。


…次はSF映画にしようか、予告で面白そうなヤツがあったから。

『うん!それがいい!』


そしてまた、僕はレイト・ショーへ行く。
寂しがりの自分に、寂しくないよと言う為に。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

映画館が好きなんですよ僕、特にレイトショー。

子供の頃に凄く憧れていて、大人に成って一人で行ったとき。
めちゃくちゃ感動したのを今でも思い出すぐらい好き。

もう書いた通りなんだけど、レイトショーの映画館はとくに特別感が僕の中ではある。理由も、多分書いた通り。

夜中に映画が観れるんですよ!?
デカいスクリーンで別世界楽しめるんですよ!?

最高じゃねーか!!

とか勝手にテンション上がるんですよ、僕は。

変な奴だな。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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