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ボイスドラマシナリオ:「最愛の君」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

今回は今年の夏に出したボイスドラマシリーズ「カナモノ堂 這イ寄リシ者」の第四弾、桜吹雪さん主演の「最愛の君」のシナリオです。

楽しんで頂けると幸いです。

※コチラを聴きながら楽しむことも出来ます。
 是非、合わせてお楽しみください


【最愛の君】

作:カナモノユウキ


〔登場人物〕
・和風吹 ※「」
・サクラ ※『』

部屋の中央に静かに座る等身大の木製人形、美しいドレスを身に着け冷たく微笑んでいる。

扉が開き風吹がドレスを持ってやって来た、瞳にはもう人形のサクラしか入っていない。

「ただいま。今日も君は美しいね。」

(私の名前は和風吹、戦場カメラマンをしている。)

「さぁ、今日は何を着ようか。新しいドレスが手に入ったんだ。」

(今日も最愛の彼女、サクラとこの花園で密会を楽しむ…これが、私の唯一落ち着ける一時。)

「知的な青、情熱の赤…神秘的な紫。今日はどのドレスを着ようか…サクラ。」

(いくら問いかけても、答えはない。…人形である彼女からは。)

「…紫か。うん、いいと思う。じゃあ今日はこれだね。」

(だが、私には分かる。長年愛し続けたからこそ、私にはサクラの心が伝わってくる…。)

「うん、とっても綺麗だよサクラ。…うん、喜んでくれて私も嬉しい。さぁ、じゃあ記念撮影をしようか。」

(私は幾度となく戦場のリアルをカメラに収めて来た。苦悩に耐え銃を握る兵士、日常を奪われ嘆き悲しむ子供。引き裂かれた人々、失った世界。)

「サクラ…いいよ、やはり君は最高だ。…美しい、君は僕だけの女神だ。…あぁ、最高だよ。」

(人が生み出した地獄を収め続けるのは…とても耐え難い苦痛を伴う。
だからこそ最愛の「人」をこうしてカメラに残す時間が、私には必要なんだ。)

「今度は、この衣装にしよう。」

(彼女は私にとって掛け替えのない存在、だから色んなモノをプレゼントしてきた。ドレス、化粧品、花束、そしてこの家も。あぁ愛しのサクラ、君のためなら…私は…全てを捧げよう。)

鈍く木がきしむ音が聞こえ、動かないはずの彼女の唇から囁き声がする。

『…風吹。』
「え?…サクラ?今、私を読んでくれたのか?」
『風吹、風吹。』
「あぁ、サクラ。君なんだね…。」
『欲しいの、風吹。欲しいの。』
「何が欲しいんだい?君が欲しいのなら、どんなモノでも用意しよう。」
『貴方が、欲しいの。』
「…私を?何を言っているんだい、私はもう君のモノじゃないか。」
『貴方の全てが、欲しいの。』
「私の、全て?」
『そう。貴方の全てが、欲しい。』
「…そうか、そういうことか。」

サクラは吹雪の手も借りずに腕をきしませ広げた、直後に風吹は悲哀の表情を浮かべる。

(私は、全てを悟り。彼女を抱きしめた。…それが、私の最後だった。)

人形の腕は吹雪の胸を貫き、静かに心臓を抜き取った…。

数時間後。室内に鮮血が満ち、横たわる吹雪の死体を硬骨な笑みを浮かべて眺める裸の女。

『ありがとう。これで、「私」になれた。』

―おしまい―


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

何となくゴシックなイメージでお話を書きたくて、人形というキーワードで話を膨らませてみました。

何となく、人形をベースに考えたら愛と血は漠然と盛り込みたかたんですが…割と偏った愛になってしまいましたね(笑)

明日の作品もこの【カナモノ堂 這イ寄リシ者】から、「嬉読屋しおんさん」主演の作品を公開いたします。

では次も楽しんで頂けることを祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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