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短編小説:「シネマ天満月」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は〝映画館〟を題材に書いてみたくなり作ってみたんですが。
あれやこれやはあとがきに書きます。
楽しんで頂けると幸いです。


【シネマ天満月】

作:カナモノユウキ


誇り臭い椅子、一階と二階に別けられた客席。
なだらかな下りの階段を降りると、少し広めの舞台とスクリーン。
遮光カーテンで日光が遮られているそこが、僕は子供のころから大好きだった。
「相変わらず、座りずらい椅子。」
座ると大分薄くなったクッションが、数多の人間が座ってきたことを伺わせる。
祖父が亡くなり、僕はこの寂れた映画館「シネマ天満月」を受け継いだ。
本当に小さい頃だけど、ここの館長に憧れてはいたんだ。
〝だけど、まさか〟だ、大人になって忘れた頃の夢が叶うとは驚いた。
祖父からの遺言状には『全財産の相続を孫の月本雄大に相続する、シネマ天満月の所有権も含める』と書かれていた。
両親は小さいころに他界してるし、残ったのは兄弟と祖父しかいなかった。
兄も妹も別な家に引き取られたから、祖父の遺産を相続するのは僕しかいなかったし。
「こんな大きなもん、どうしたらいいんだろ。」
こんなの途方に暮れて当然だよな、いきなり映画館を貰うって世の中ならどういう確率で起こる出来事なんだろう。
多分、〝一目惚れの子に直ぐ告白したら成功して、それと同時に一等3億円の宝くじに当る〟ぐらいの確立だと思う。
要するに〝スゲーラッキー〟……なんだよな。
でもさ、急にこんな大きなの引き継いでもさ、〝宝の持ち腐れ〟になりそうで……気が引けてきた。
「とりあえず、掃除して……それから考えようかな。」
子供のころは広く感じたけど、大人になって歩くと、意外と狭く感じるもんだな。
1階と2階合わせて200席しかないのも驚きだった、意外と席が少なかったのか、ここ。
そんなに時間を掛けずに、順調に掃除を進めて、最後に残ってる場所は…映写室だ。
「なんだっけ、じいちゃんの口癖……思い出せないな。」
あんなによく耳にしていたのに、思い出せないとか自分にがっかりだな。
少し肌寒い映写室、中央にある古びた映写機のカバーを外すと、ホコリが部屋を舞う。
煙くて思わず咳き込んだ、ホコリと共に出てきたのは、咳だけじゃなかった。
「なんだコレ、手紙か?」
達筆に『雄大へ』と書かれた封筒が落ちていた、それは紛れもない、祖父の字だった。
『雄大、おまえにこの天満月を任せるという事は、お前にこの劇場をもう一度、人々が集まる劇場にしてほしいというわたしの願いが籠っている。おまえなら、それが出来るはずだ。わたしの愛する、この【シネマ天満月】もそれを願っている。お前がその気なら、映写機を回しなさい、そうすれば【天満月本人】から、想いを伝えてくれるだろう。』
「なんだ?【天満月本人】って。」
不思議な言い回しだ、〝映写機を回せ〟って言われても、どうすればいいんだろ。
憧れてはいたけど、映画館を運営する技術なんて、僕は身に着けてないし。
とりあえず……スイッチ入れればなんとかなるか。
ブレーカーを確認して、映写機のスイッチを入れってっと……。
お、動いた。昔聞いたことのあるような機械音、ヤバい……本物だ。
映写機のスイッチを入れただけなのに、色んなな感情が溢れ出る。
薄暗いスクリーンに、光の放射線が走って。ここからの景色って、スゲー綺麗だったんだ。
元々取り付けられていたフィルムが、鮮やかに映し出されていく。
「スゲー、全く触れたこと無いのに、なんでこんなに懐かしいんだろ。」
小さな映写室の小窓を覗いて、スクリーンを確認すると。
そこには、海辺を眺める一人の女性が映し出されていた。
「うわぁ……、綺麗な女優さんだなぁ。」
思わずその映像の女性に見惚れてしまっているときだった、スクリーンの美女が僕と同じ名前を呼んでいた。
『雄大くん雄大くん。こっちに追いでよ。映写室だと、私のことが見えづらいでしょ?』
「……え?今『映写室だと見えづらい』って言ったか?」
そもそもだけど、これっていつの映画だ?
今写し出されている映像には、海と砂浜と美女だけで、〝映写室〟は何の関係も無いはずだよな。
『おーい。早くしないと、フィルムが終わっちゃうかもしれないぞ。早くスクリーンの前においでよ雄大くん。』
驚きのあまりしりもちをついて分かった、ケツが痛いってことは、現実だ。
スクリーンからの声は、聞き間違いでもなければ、幻聴でもないってことだ。
僕は慌てて映写室を出て、スクリーンの前に飛び出す。
『やっと来たね、雄大くん。はじめまして、【天満月】です。直接話すのは、これが初めてだね。』
「あの……色々と驚くことしかできないんですけど、とりあえず、〝あなた〟なんなんですか?」
笑顔で【天満月】ですと言われても、何一つ理解できていない。
僕はこんな〝ファンタジー〟を受け入れられてはいないし、何なんだこの目の前の現象は。
『あたしはこの劇場そのもの、この映画館自身。そういえばわかってくれるかな?』
「……わからないですけど、凄く不思議なことが起こってるのはわかりました。」
……本当に不思議な光景だ、試写会の舞台挨拶で、俳優たちが壇上で喋るなら、まだわかるけど。
スクリーンに映し出された女性と僕自身が喋っているなんて、映画の中のようなことが、映画の外で起こってる。
『あなたのおじいちゃんとは、よくこうしてお話していたのよ。』
「え?じいちゃんと?」
そりゃそうか、手紙で【天満月本人】なんて書くんだから、知っていて当然だ。
今考えればフィルムを取り付けっぱなしも変だったし、じいちゃんはちゃんと準備してたってことか。
「じいちゃんと最後に合ったのは、いつか覚えてますか?」
『つい最近、お別れを言うために、病院から抜け出してくれたわ。』
じいちゃん、そんなことをしていたのか、そんなに大事だったんだな…ここが。
「じいちゃんは、僕に何をさせたいか、聞いていますか?」
『ええ、もちろん。おじいさんはね、あなたにここでもう一度、みんなと〝映画〟を観て欲しいんだって。それにね、あたしもお願いしたいの、あたしもみんなと、映画がみたい。』
「映画館としても、お客様に集まって欲しいってことですか?」
『もちろん。昔はね、映画館に色んな人たちが来たわ。映画が好きな人、デートに来た人、思い出を残しに来た人。沢山の人たちが、あたしの所に来て、色々な思い出を作って、重ねてくれた。』
昔は確かに、色々な人が〝映画館〟を使ってくれていたのは、僕も記憶している。
それこそ、映画館という所自体が、一種の〝非現実空間の入り口〟に感じていて、僕はそこが好きだった。
『漠然としたお願いだし、身勝手な頼み事なのは分かっているんだけどね。
雄大くんの力であたしをもう一度、〝映画館〟として、みんなに使ってもらえるようにして欲しいの。』
「話は分かりましたし、僕もそうしたいと思っていたところです。でも、僕には技術が無いので……。」
『そこは大丈夫、これから教えてあげるし。新しいやり方だって、これから学んでいけばいい。』
「……そんなこと出来るんですか?」
『これでも自分の使い方ぐらいは分かってるし、今ってほら…映写機よりデジタル的なものあるでしょ?』
「そういう知識あるんですね……。」
じいちゃんの気持ちも、天満月さんの気持ちも分かるけど。
僕にできるのか、不安しかないな。
『ねぇ、雄大くんは映画好き?』
「好きです、特にここで観る映画が……だから残したいんですけど。自信なくて。」
『なら、いいモノ見せてあげる。』
天満月さんは僕を席に座るように促すと、さっきまで美女を写し出していたスクリーンはシーンが変わり。
古い一軒家の居間を写し出した、そこには見覚えのある二人が。
「……父さん、母さん。」
父さんは何か雑誌を読んでいて、母さんが抱いているのは……きっと妹だ。
脇で遊んでいるのは、きっと兄と僕だ。
コレを撮っているのは、じいちゃんか……そういえば、じいちゃんよくフィルムカメラで撮影してたな。
皆……めちゃくちゃ笑ってる。
『おじいちゃんがね、昔家族を撮影した8ミリフィルム。雄大くんに見せようと残しておいたんだって。本人に見せずに……旅立ってしまったけどね。』
「凄い……全然記憶が無いのに、ちゃんと懐かしい。」
『映画館で見る映画は、皆を過去に引き戻して、幸せや悲しみを引き戻してくれる。
 おじいちゃんとよく話したわ、貴方が大人になったら…このフィルムでご両親を思い出してもらおうって。』
「じいちゃん、そんなこと言ってたんですか。」
『うん、この映画館と一緒にこのフィルムをプレゼントするんだって。』
「そう、なんだ……。」
『まぁ、本当は映画館をしっかり盛り上げて渡したかったらしいけど。時代だよね。
 〝映画館〟って媒体自体の存続が難しいまま、雄大くんに渡すのが……心残りだったみたいだったけどね。』
「……こうして、〝過去に引き戻してくれる場所を守りたい〟っていう気持ちはスゲー伝わりました。」
『そういった気持ちを、色んな人と共有しながら映画を観て欲しいんだ。優しい時代を思い返しながらね。』
「それを、天満月さんも願っているっと。」
『そう、皆の笑顔が好きだからさ。そんな元気な時代を、もう一度見たいんだ。』
「わかりました。僕、やってみますね。映画館の館長。こういう時代ですから、需要あると思いますし。」
『……雄大くん、ありがとう。』


――――こうして、僕は本格的にこの映画館を引き継いだ。
今は映写機の使い方を勉強したり、色々と試行錯誤をしている。
じいちゃんの為にも、不思議な映画館の主〝天満月さん〟の為にも頑張らないと。
自我を持った不思議な映画館、【シネマ天満月】で一人でも多く、過去を振り返られるように。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

正直この題材で色々書いてみたくなってきて、割と〝プロローグ〟的な感じで纏めてしまいました。なのでこの後に続き書いて出します。
とりあえず、今回はここまで。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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