見出し画像

ショートショート:「ゆっくりと空を見てる」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は、〝思春期の少年とお姉さん〟のやり取りです。
大人の線引きって今となっては「あるようで、多分もうない。」と思っているのですが。そういった気持ちが届けばいいなと思って書いてみました。


【ゆっくりと空を見てる】

作:カナモノユウキ


良い大人が、ジャングルジムのてっぺんで腕を組み仁王立ちしてる。
スーツ姿で長髪のお姉さんだ、何してるんだろう……正義のヒーローかな?
「お姉さん、危ないですよー?」
「なんだ少年、あたしのパンツでも見たいのか?」
「そこで仁王立ちしてれば、見せてるようなものだと思いますがー?」
「なんだ、可愛くないな―君は。」
多分、誰が見ても美人って言うんだろうけど。
そのいで立ちからは〝大人の色気〟っていうものは感じないから。
思春期の僕でも、そのお姉さんのパンツには引かれない。
「君こそ、こんな誰も来なくなった公園で何の様だい?」
「たそがれに来ただけです。」
「ますます可愛くないな、たそがれたいならこっちにおいでー。いい景色だぞー。」
特に断る理由もないので、ジャングルジムを上り横へ行く。
高台の一番上にある人気のない公園の正しくてっぺん、そこからは街が一望できた。
「いい景色ですね。」
「そうだろう?最高の景色なのに、誰も見に来ないとは残念な公園だよね。」
「僕もそう思いますけど、お姉さんは何をしに来たんですか?」
「あたしか?あたしはここに〝ゆっくり〟しに来たのさ。」
「……なんですか?〝ゆっくり〟って。」
「君のたそがれるよりは、ポジティブな意味だよ。」
「別にネガティブな意味なんてないですけど……。」
「君はなんでここにたそがれに来たんだい?」
「……早く、大人に成りたくて。」
「ップ‼フハハハハハ!何だいそれ、意味不明なのわかっているかい?」
「わかっていますけど、大人の皆さんは大体たそがれたりするじゃないですか。」
「だからやってみようとでも?」
「……ハイ。」
「バカだな君は、そんなことで大人に成れるわけないだろ。」
「じゃあなんで、大人はたそがれてるんですか?」
「どいつもこいつも自分勝手に急いで疲れて、あげくに劣等感に苛まれて、落ち込んでたそがれるのよ。」
「……僕たちと変わらないですね。」
「そうだよ、大人に成るなんて言うのは建前なんだから。」
「じゃあどうすれば、大人に成れるんですか?」
「そんなの簡単だよ、先ずは〝ゆっくり〟すればいいんだよ。」
「さっきから言ってる、その〝ゆっくり〟って何ですか?」
「大人の特権だよ。」
「特権?」
「子供のころは実際ゆっくりできないもんでね、みんな慌ただしく好きなことを見つけようとしたり忙しいだろ?」
「そうかも、しれないですね。」
「大人になったら、そのみんなの流れから外れて一人になるんだ。そうすればこっちのもんで、好き放題できる。」
「だから、〝ゆっくり〟できると。」
「そう、自分の時間をゆっくりと使えるようになるんだよ。」
「……そう、ですか。」
「まぁピンと来ないよな。」
「はい、まったく。」
「じゃあ、このまま何も考えないで空を見てごらん。」
「空ですか?」
「何も考えずにだよ?」
「……はい。」お姉さんに言われた通り、何も考えずに空を見てみた。
凄い高さの青に、雲の流れはうやむやに四散して青に溶けて行った。まるで教室で聞こえる会話みたいだ。
それから徐々に、頭の中身が水蒸気のように上っていく感じがする。
ゆっくりと昇って行って、ゆっくりと頭の中が白くなっていく感覚がする。
「お姉さん、頭の中が白くなっていきますね。」
「そうだろ?それが〝ゆっくり〟だよ。」
「お姉さんは、コレをしにここに来たんですか?」
「そうだよ、特権を使いにね。」
「何かあったから、コレをしに来たんですよね。」
「君に言っても分からないだろけど、あたしみたいなのは定期的にコレをしないと息抜きが出来ないんだよ。」
「そうなんですね。」
「そう、大人だけに許された〝ゆっくり〟なんだよ、この時間はね。」
「僕もコレが出来たってことは、大人に成れたんでしょうか?」
「そんな訳ないだろ、君はまだまだ子供だよ。」
「〝ゆっくり〟が出来たら、大人じゃないんですか?」
「それだけじゃ足りないさ、もっと色々知らないと。」
「何を知ればいいんですか?」
「あたしに聞いてばかりいないで、自分で考えてごらんよ。時間は沢山あるんだし。」
「……じゃあ、何かヒントとかありませんか。」
「そうだな……、そしたら目をつぶってごらんよ。」
「わかりました。」
瞼を閉じると、さっきまで目の前に広がっていた青が焼き付いていて。
静かな風をほほに感じた後、なにかが顔に近づいてくるような感じがして。
直後に、唇に温かいぬくもりが押し付けられた。
〝ゆっくり〟じゃない、〝時間の停止〟を感じた。
「…え?」
「どうだい?大サービスだぞ。」
「今のが、ヒントですか?」
「そうだよ、今のも含めて〝ゆっくり〟考えてごらんよ。」
「…ハイ。」
さっきとは違う水蒸気が頭から昇っていく感じがして。
この分らないを知りたくなって。
より一層、大人に成りたくなった。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

昔、家を出て行った父親に「大人には〝自由〟と〝責任〟が生まれて、それをどうするかで〝一人前の大人〟になれるかどうかが決まる。」と言われた気がしているんですが。正直その父親は今となっては嫌いですが、その言葉だけは〝真理の一つ〟と思って、色んな意味での教訓にしています。
その教訓が、このお話で少しでも表現できていたらと思います。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


《作品利用について》

・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
 そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
 ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。

  1. ご使用の際はメール又はコメントなどでお知らせください。
    ※事前報告、お願いいたします。

  2. 配信アプリなどで利用の際は【#カナモノさん】とタグをつけて頂きますようお願いいたします。

  3. 自作での発信とするのはおやめ下さい。

尚、一人称や日付の変更などは構いません。
内容変更の際はメールでのご相談お願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?