マガジンのカバー画像

機械仕掛けの街【有料】

8
この街は機械で動いている街。 住んでいる者も機械人間。食べているものや生活も普通の人間とは違う。 その中で唯一の人間である「俺」はそんな機械人間から「人間様」と呼ばれている。 こ… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

機械仕掛けの街8

機械仕掛けの街8

 デルタは目を開ける。
 しばらくぼーっとしていたが、突然その目から油が流れる。溢れるように。
 止める間もなかった。ただ、何があったのかは知らない自分が止めるのもお門違いだとも思い、そのままにしておくことにした。
 星野瞳とアルファはそっとデルタの部屋から出る。

 突然訪問し、自身の目的のために入ったデルタの家。
 慌てていたということもあり、じっくりと見ていなかった。一旦落ち着いたため、周り

もっとみる
機械仕掛けの街7

機械仕掛けの街7

 その機械はアルファのような人型とは違い、所謂4足歩行の動物の姿だ。猫型と言っていたから驚きはしなかった。と言っても、星野瞳にとって機械は猫か犬かの差がない。「にゃー」と鳴くのだろうか。
「アルファじゃないか、何しに来たんだい? また紙でも調達に来たのかい?」
 「にゃー」ではなかった。人の言葉を発していた。意思疎通ができるということがわかって安堵する。
 アルファは首を横に振りながら星野瞳を見る

もっとみる
機械仕掛けの街6

機械仕掛けの街6

 昨日の出来事について聞きたいことは山ほどある。
 なぜアルファは異常事態に陥ったのか。なぜ記憶抹消をしなければいけないのか。ベタ……というのは何なのか。そして事の発端は何なのか。自身の花のせいなのだろうか。そうであれば謝らないといけない。
 星野瞳は一人でぐるぐると考えている。
 人間様の家にて、ベッドに横たわるアルファを不安そうに、心配そうに見つめる。アルファの傍では人間様が座っている。昨日の

もっとみる
機械仕掛けの街5

機械仕掛けの街5

「あ、アルファ?」
 星野瞳はカゴいっぱいに花を敷き詰めて抱きかかえ、街を歩いている。道は殺風景で、植物一つもなく、金属で作られていて無機質だ。建物は機械仕掛けで歯車が回っている。街の中央には大きな時計塔が聳え立ち、その大きな建物も大小様々な歯車で動いている。
 その時計塔の傍では唯一知っている機械人間。確かアルファと呼ばれていた。その影に気づき、近づいてみる。
 相変わらず、紙が大好物のようで紙

もっとみる
機械仕掛けの街4

機械仕掛けの街4

「いらっしゃいませー!」
 家に帰ると、早速嗅いだことのない芳醇な香りが鼻をくすぐる。と同時に、星野瞳の明るい声が出迎える。
「え?」
 見ると、見慣れているはずの自身の家が、小さな花屋になっていた。殺風景だった壁には華やかな花が鎮座している。大小様々でカラフルになっていた。芳醇な香りはこの花達から香ってきているのだろう。
 おそらく初めての表情をしているだろう。驚きと困惑がないまぜになっている。

もっとみる
機械仕掛けの街3

機械仕掛けの街3

 目の前の女性は、机の上に置かれたココアを見つめて動かない。
 俺の隣ではアルファがこれでもかと紙を食べ続けている。時折、紙片が飛び散って、俺のココアの中に様々な色をした紙屑が入っていく。さりげなく女性の方のコップ上に手をかざしておく。

 機械仕掛けのカフェは音楽もなく、紙が破れる音と機械音しか響かない。
 カチッカチッカチ……。
 心地よい音が、今では煩わしく思う。
 女性は言葉を発するでもな

もっとみる
機械仕掛けの街2

機械仕掛けの街2

「これでいいだろう。もう一度動いてみて」
 目の前の女性は頷いて、腕を動かす。
「問題ないみたいだね。念のため、あまり動かさないことをお勧めするよ。あと、これを。また不調を感じた時はこのパーツを体に埋め込んでみて。良くなるはずだから。それでもダメなら、また俺のところに来て」
「ありがとう、人間様。では、お礼にこれを」
 女性は自身の腕から紙を数枚出して、俺の目の前に差し出す。
 慣れては来たが、や

もっとみる
機械仕掛けの街1

機械仕掛けの街1

目の前の男は、必死に自身の手で紙を掴んでは口へ運ぶのを繰り返している。口に紙が入るたびに機械音が響き、紙が取り込まれていく。
「やっぱり無地に限るよ。シンプルでさっぱりしていて美味しい」
「そうか」

もっとみる