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『子ども白書2022』ができました(2/5)先行公開 巻頭言「子どもたちの手には食器と楽器と文房具を」

 1964年の創刊以来、今年で58冊目を迎えた『子ども白書』(日本子どもを守る会編)。児童憲章の精神に基づき、子どもたちが安心して暮らし、豊かに育ち合っていける社会の実現をめざして刊行を続けています。今年の特集は「オンラインで変わる子ども世界 コロナ禍からの問いかけ」。かもがわ出版のnoteで内容を一部公開していきます。今回は、巻頭言です。

巻頭言「子どもたちの手には食器と楽器と文房具を     決して武器をもたせてはならない。」            (増山均・日本子どもを守る会会長)

 今年2022 年は、日本子どもを守る会結成70 周年にあたります。太平洋戦争の悲劇と焼け跡のなか、平和憲法に根ざしてつくられた児童憲章(1951 年)の完全実現を目指して、日本子どもを守る会は1952年5 月17 日に発足しました。

 先人たちは、再び戦争を起こさないという固い決意を胸に、内外に戦争放棄を約束した新憲法のもと「教え子を再び戦場に送るな」と宣言した教職員とともに、「花には太陽を子どもには平和を」のスローガンを掲げて子どもを守る運動をスタートさせたのです。世界の平和秩序をさだめた国連憲章と世界人権宣言(1948 年)児童の権利宣言(1957 年)、そして国際条約に高められた子どもの権利条約(1989 年)のもとで、世界中の子どもたちが平和で安心した環境の中で健やかに幸せに育っていける地球社会が実現することを願って歩んで来ました。

 経済発展・開発による気候変動と環境破壊の進行を食い止めるSDGs の実現と、現在直面しているコロナパンデミックは、まさに地球的規模で解決すべき課題を投げかけており、ようやくたどり着いた核兵器禁止条約のもとで核兵器による威嚇や戦争への不安のない地球社会の実現に向けて、国境を超えて協力しあう「地球市民社会」の実現へ、人類の希望の未来へと進みゆく途上にありました。

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 しかし、あろうべきことか。今年の2 月24 日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の開始は、人類の歴史を一気に一世紀も前に引き戻し、地球時代にむけて世界の平和と民主主義の実現を目指す夢を打ち砕くものでした。戦車やミサイルによる無差別砲撃のなかで、多くの市民と子どもたちの尊い命が失われました。子どもの権利条約の前文にも明記されているように、すべての国の子どもたちが「特に平和、尊厳、寛容、自由、平等および連帯の精神に従って育てられるべき」です。

 ロシアの軍事行動は、国際法に反した侵略行為であり、ウクライナの主権及びウクライナの人びとの人権を著しく侵害するものであり、国連憲章第2 条の「武力行使の禁止原則」に反し、第2 次世界大戦後の世界平和の秩序を根底から覆す暴挙です。ロシアの侵略行為は、ウクライナとヨーロッパ周辺国の問題にとどまらず、世界の人々に影響をもたらしています。日本国憲法において「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、これを永久に放棄する」(第9条)を謳った国民として、ロシアのウクライナへの武力侵略を容認できません。

 ロシアによる戦闘行為によって、500万人を超える人々が避難民となり、子どもたちは、命と生活の危機に晒され、心理的な不安・恐怖に投げ込まれました。食料や保健衛生面のレベル低下とともに、教育や遊び・文化の機会が奪われ、その結果、子どもたちの発達と幸せな人生づくりが破壊されました。いかなる理由があるにせよ、武力に訴えて戦争をすることは許されません。

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 世界中の多くの人々による即時停戦と休戦への願いも空しく、ウクライナでの戦闘はいまもなお続き、長期的な戦争にならんとしています。アメリカとNATO 諸国そして日本によるロシアへの経済制裁は、同時にロシアに依存するエネルギーや肥料・食料の安定確保を危うくし、世界中の人々の生活を不安定化させ、すでに経済危機に陥る国々や貧困弱者への犠牲が生み出されています。

 フェイクニュースが飛び交う情報戦は、経済的な制裁も含めてさながら世界を巻き込んだ「第3 次世界大戦」の様相を呈しています。ウクライナへの武力攻撃を続け占領地域の拡大をめざすプーチン大統領は、戦局の推移の中で、生物化学兵器や核兵器の使用にも言及しており、予断を許さない危機的状況が続いています。またロシア国内では、言論の自由が奪われ反戦の声は弾圧され、かつての軍国主義日本がそうであったように、国民と世論が戦争支持に動員されています。ロシアによるウクライナ侵略は、結局これまでの戦争と同じように、内外の人々への悲惨な人権侵害と生活破壊の道に陥ることでしょう。戦争は人と人が殺し合うことであり、ひとたび戦争が始まってしまうと、止めることが難しくなり、勝っても負けても、結局のところ大きな犠牲と、甚大な被害・悲劇が待っています。私たちは、子どもたちの未来に向けて、何を教訓として学ぶべきでしょうか。

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 ウクライナの状況を見て、いま日本政府や国民の中には戦争への抑止力を高めるために、敵基地先制攻撃能力のある防衛力の整備と軍事費増強、日米安保体制を強化してアメリカと核兵器を共有しようという危険な声があります。そのために平和憲法の前文と9 条を変えるべきだという改憲論が勢いを増しています。

 こうした見解は、ウクライナ問題から学ぶべき方向が根本から間違っています。核兵器を持ち、核を脅しとして使い、強大な軍事力を誇るロシアが、民族の誇りと主権を守ろうとするウクライナの人々を屈服させることが出来ず、戦争が泥沼化し、世界からの信頼を失っています。もはや軍事力に頼る国家の在り方は破綻しており、抑止力論は際限のない軍拡競争に陥り、国民生活を危うくして悲劇をもたらすだけです。

 平和憲法を持つ日本は、憲法9 条の精神を世界に発信すること、唯一の被爆国として核兵器禁止条約を速やかに批准し、核なき世界の実現を推進することこそが今後の進むべき道です。創立以来、「花には太陽を子どもには平和を」と叫び続けてきた日本子どもを守る会は、さらに声を大にして、「子どもには平和を!」と呼びかけます。

 子どもたちの手には安心した生活を支える食器と、豊かな文化を創造する楽器や学びを保障する文房具こそが必要であり、絶対に武器を持たせてはなりません。

 2022 年5 月5 日(こどもの日に)

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 『子ども白書2022』