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『子ども白書2022』ができました(5/5)先行公開 山崎ナオコーラさんインタビュー「Around20と語るコミュニケーションと責任」 

 1964年の創刊以来、今年で58冊目を迎えた『子ども白書』(日本子どもを守る会編)。児童憲章の精神に基づき、子どもたちが安心して暮らし、豊かに育ち合っていける社会の実現をめざして刊行を続けています。今年の特集は「オンラインで変わる子ども世界 コロナ禍からの問いかけ」。かもがわ出版のnoteで内容を一部公開していきます。今回は、山崎ナオコーラさんへのインタビューです。

山崎ナオコーラさんインタビュー
「Around20と語るコミュニケーションと責任」

コロナ禍で進むオンライン化のもとで自己責任をやめて、ゆるやかに子どもと共に生きる

 コロナ禍がはじまって丸2年以上、子どもたちはソーシャルディスタンスやステイホームと言われ、コミュニケーションにおけるオンライン化が一気に進みました。そのような生 活が続く中で、子育てをめぐって不安をあおるような言葉が巷にはあふれています。
 今回は、白岩玄さんとの往復書簡『ミルクとコロナ』(河出書房新社、2021年)を出版された山崎ナオコーラさんに、コロナ禍のもとでの子育てや子どもとの生活について、お話をうかがいました。インタビューにあたっては、子ども白書若者チームのメンバーと何度も話し合いを重ねた上で、若者としておとなに問いたいインタビュー項目はどのようなものか一緒に考えていきました。
(文責:阿比留久美・早稲田大学准教授)

山崎ナオコーラさん(右から2番目)を囲んで

コロナですすむ価値観やコミュニケーションの多様化

阿比留:『ミルクとコロナ』では、コロナ禍という状況の中で子どもとのかかわりを丁寧に紡いでいらっしゃる山崎さんの様子がとても印象的で、コロナ禍の子育てにおける新しい可能性を見出していこうとされているように感じました。現在は親や家庭に子どもの成長発達の責任が重く課され、その上親の不安をあおり、心配にさせるような情報ばかりが流されている状況があります。そのような中で、山崎さんは、新型コロナウイルス(以降、コロナ)の影響をどうとらえていらっしゃいますか。

山崎:コロナは病気ですから、プラスと捉えて良いのかどうか、悩むところではあります。でも、これまでの「外で遊ぶ元気な子がいい子だ」「外に出て実際に人と触れ合うことをコミュニケーションと呼ぶ」といった一面的な見方に変化が起きて、そこに関しては私としては嬉しく感じています。コロナ禍の外出自粛によって、「家にいる子もいい子だ」「家の中から、間接的に人と触れ合うことも、コミュニケーションになる」という考え方が広まった気がします。一律に「目を見て喋り、口元を形作ってにっこり挨拶」というやり方が強いられる時代が終わり、もっと多様なコミュニケーションの方法を模索できる世の中が始まったのでしょう。

オンラインの広がりと可能性

阿比留:学生の間には、コロナ禍に入って、オンラインでのコミュニケーションが一気に広がってきました。オンラインの可能性についてはどう考えられていますか?

山崎:今の子どもたちはオンラインのコミュニケーションが当たり前にある世界で生きています。親世代はその世界に不慣れなため、抵抗感を持つ人も多かったと思います。でも、コロナ禍になって、親も仕事などでインターネットを使う交流を経験し、抵抗感が少なくなったのではないでしょうか。インターネットではものすごく遠くにいる人とも繋がれるので、コロナ禍の今、むしろ人との距離が近くなったと捉えることもできます。たとえば、自分にマイノリティの属性がある場合、身近なところで自分と似た人を見つけられなくても、オンラインでのコミュニケーションによって、一人ではないと確認できます。ネット上で相談ができたり、ネットで得た情報から生き方のビジョンを描けたりもするでしょう。

八鍬(早稲田大学3年生):私自身ネットでのつながりをもっているのですが、普通では出会えないようないろんな年代、いろんなバックグラウンドの人と出会うことができます。恋人選びも、普段であれば外見から第一印象が決まってしまうことが多いけれど、ネットだと内面から知り合っていき、お互いの内面をよく知ってから実際に会うようになったりするので、ルッキズムを超える可能性があると思います。

山崎:確かに面白いですね。直接会うと外見の印象から受ける影響が爆上がりしてしまうけれど、ネットでは外見の印象なしに人と出会っていけるんですね。

SNSをいかすリテラシーの重要性

山崎:とはいえ、危険もたくさんある世界です。インターネットのマナーやリテラシーを身につけることはとても大事です。

阿比留:インターネットからのマイナスの影響を防ぐためのリテラシーだけでなくて、いかすためのリテラシーを知ることも大事ですよね。山崎さんが「#文学界に性暴力のない土壌を作りたい」 とつぶやいたことをきっかけに、文学界での性暴力に反対するメッセージが集まり、ハッシュタグで連帯が見える化されましたよね。

山崎:でも SNS で何かを言うと、悪意を感じるリプライもきます。SNSだけで人間関係をつくろうとするとしんどいことが絶対に起こりますから、SNSに対する距離感は大事だし、嫌な目にあった時に家族や誰か信頼できる人に相談しようと思っておくことも大事です。

 それと、子どもに自分を大切にしつつ相手を大切にするってことを親からも教えたいところですが、どんなに頑張っても教えきれることではないとも思います。親が子ども社会を全部面倒をみようとするのはおごりです。いつかは、「社会を信用して託す」ということになると思います。ですから、その社会の整備に対しての努力も必要ですね。

阿比留:社会を信用するってナオコーラさんのキーワードですよね。「社会を信頼したい」という山崎さんの思いは、社会に対するポジティブな信頼感とともに、自分たちの身を守るための大事な視点も入っているのではないかという気がしました。

山崎:リテラシーというと、「避けよう」「やめよう」ということの浸透になりがちですが、「素晴らしい考え方を見つけ出す方法」「うまく伝える方法」といったリテラシーも浸透するといいなと思います。

古賀(早稲田大学3年生):今のお話を聞いて、山崎さんの理想とするリテラシーはインターネットだけではなくて、物事一般に対するリテラシーとなるといいなと思いました。全てをマイナスから捉えるのではなくて、かといって無理してプラスに捉えるのでもなく、対立構造を作らずに受け入れていけるような姿勢を一人ひとりがもてたらよいと思いました。

山崎:すごくいい意見だと思いました。最初、コロナはただただ怖いもののような気がしていました。こういうふうに喋れば人を傷つけないとか、コロナに対するリテラシーはちょっとずつ浸透したのかもしれないですね。

続きは『子ども白書2022』でお読みください。

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『子ども白書2022』