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磁場、ZINE、同人誌

 少部数の自費出版。最近だとZINEともいうらしい。
 ZINE(ジン)とは? Googleで検索してみると、「ZINEとは、個人や小規模のグループが自主的に作成する冊子や出版物のことを指します。ジャンルや紙、製本方法などに関する定義はなく、マニアックなものから日記のようなプライベートなものまで、さまざまな種類のZINEが作られています」とのこと。
 十代のころから二次創作に浸ってきた身としては、「同人誌」という呼び名のほうが馴染み深い。ただ、その単語にも複数の意味が付与される。わたしが深く馴染んでいる同人誌は、仲間内ではいわゆる「ウスイホン」と呼ばれ、各人が逞しくも妄想した二次創作を懸命に綴り、自腹で製本したものである。学生時代、国語便覧の「○○(任意の作家の名前)は学生時代の同志と同人誌を制作」といった一節をみたときには、○○も二次創作を、しかも合同誌をつくっていたのか……と勘違いするほどだった。んなわけないだろ。
 ともあれ、同人誌は常にわたしの人生のすぐ隣にあった。一時期、もうオタクはせん、と強い気持ちで離れたこともあったが、磁石のN極とS極がスーッと引き寄せられるように、二次創作はわたしの隣に戻ってきた。否、わたしが二次創作に戻っていったのか?
 同じ作品、同じキャラクター、同じ二人を愛する同志の妄想の結晶——二次創作を読むことは、とてつもない快楽だ。それと同時に、自分自身もキーボードを叩き、妄想を絞り出し、結晶の元となる一文一文を抽出する作業は途方もなく苦しくとも完成したときの喜びもまた、比類なきものでもある。それに加え、体裁を整え、印刷所に入稿し、実際に製本された現物を携えて参加するイベントの狂乱たるや。一度本を作る喜びを知ってしまうと、本を作らずにいた前の自分には戻れない。火の通った肉が生肉に戻れない、みたいな構文だ。熱中症にはくれぐれも気をつけてください。
 そうして数年がすぎた。嘘です、もう同人活動を始めて十年は経っているはずだ。累計だと何年経ったか考えたくないほどだ。そうして、漫画やアニメをみて、小説を読んで、創作の端っこで楽しんでいれば十分だと思っていた。だが、わたしは欲深かった。
 もっと楽しいことがしたい。まだここにないものをしてみたい。なので、一次創作を書いてみることにした。それって小説だな。小説を書いてしまったのか? 自分が? まさか? 書いてみて、しかも製本された現物を手元に迎えているのに、まだそんなことを思っている。イベントに参加するときの、ジャンル選択を「純文学」にして後悔したくらいだ。
 しかし、書いてしまいました。
 結論からいえば、とても楽しかった。もうここで終わりにしたい。けど、自分とは欲深いがために、まだ書きたい、とも思っている。このアンビバレントさは、自分を守るための盾なのだけど。それを理解しながら、じりじりと創作に引き寄せられていく自分に、自分を任せてもいる。創作という大きな磁石を前に、わたしはまた、スーッと引き寄せられていく。

 イベントに出ます。よろしくね。

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