石川加茂
生活、映画・本・漫画の感想っぽい
小説っぽい
熱を出した。 我が家にある古い体温計は36.7度と高くもなければ低くもない温度を表示した。だが、これは故障ではない。 年に数回、特に風邪というわけでもなく、内にこもるような熱と怠さを感じることがある。これは家系(と一括りに言っていいものかわからないが)の体質のようなもので、母も、そして母の母もそうした体質だったそうだ。身体の内側に熱がこもり、空咳が出て、妙な空腹感がある。受け継がれてきた体質なので、もちろん受け継がれてきた対処法もある。内熱を冷まし、熱を発生させている大
【文学フリマ札幌9】に出店します。 日時:9/22(日) 11:00〜 場所:札幌コンベンションセンター 大ホール ブース:え-25 小説を一種類持っていきます。 画像のサンプルで確認したい場合は以下のリンクを、文字のサンプルで確認したい場合はこのままスクロールしてください。 〈持っていく本〉 『呵』 石川加茂 A6(文庫)70P 500円 北の大地の山での話。 ※軽微な出血・殺傷表現、性交表現が含まれます。 〈以下本文サンプル〉 黒々とした船団が港を慄
少部数の自費出版。最近だとZINEともいうらしい。 ZINE(ジン)とは? Googleで検索してみると、「ZINEとは、個人や小規模のグループが自主的に作成する冊子や出版物のことを指します。ジャンルや紙、製本方法などに関する定義はなく、マニアックなものから日記のようなプライベートなものまで、さまざまな種類のZINEが作られています」とのこと。 十代のころから二次創作に浸ってきた身としては、「同人誌」という呼び名のほうが馴染み深い。ただ、その単語にも複数の意味が付与され
頭のなかには声があった。あまりにも近くに、そして初めからあったので、それを声だと気づくのにずいぶんと年月が必要だった。自分の声であったり、誰かが放った言葉であったり、この世界にはいない誰でもない言葉であったりするそれは、頭蓋骨のなかで果てしなく反響し、ぐるぐると巡りつづけた。こうしてわたし自身の状態を描写することで、診断ごっこはしないでほしい。そのうえで、続ける。 本を読む、テレビを見る、ラジオを聴く、スマホを触る、などのことをすると、頭のなかの声が淘汰されるのか、とても
考えがまとまらなくて眠れなかった夜、動悸にのまれて眠れなかった夜、喘息で息ができずに眠れなかった、胃痙攣の痛みが引かなくて眠れなかった夜。 うまく眠れた日のことはよく覚えている。目覚ましのスヌーズに至らず、一回目で体を起こせた日のことも。 それぐらい、夜に眠ることはわたしにとってチャレンジングなできごとで、毎日祈るように布団に潜るのだが、うまくいかないことの方が多いから、宝物のように「うまく眠れた日」のことを抱きしめている。「うまく」「失敗」という感覚で睡眠を捉えるから
コートは重いものにしなさい。それが祖父の、そして母の、防寒着についての指針だった。 祖父は秋田生まれの満州育ちで、そんな人が防寒着についてそう言うのだから、至極もっともだと頷ける。しかしながら、安穏と暮らすボンクラにとっては、重いものは悪いものだし、コートは最低限しのぐものでありながらファッションの一部でもあり、衣服に興味のない私にとってはさほど重要なものでもなかった。防寒着が心底必要だと実感したのは、それ相応の環境に居住を移してからだ。 新しく腰を据えた地域は、寒冷地
朝は、うっすらと体調が悪く、機嫌も悪い。 液体か、液体に限りなく近い流動食しか受けつけられない気分が立ち込めている。しかし、社会の歯車である労働者には出勤という朝の一大行事が待ち受けているため、そんなことも言っておられず、固形を液体と共に摂取しながら、嚥下することになる。 粘り気のある米は、相当元気でないと食べられない。腹持ちがよく体質にも合っているため、できれば米ないし粥を食べたいところだが、体調にも時間にも余裕がないヨロヨロとした成人人類には、休日の二度寝三度寝した
山に行った。お目当ては春の山菜、ギョウジャニンニクである。 推奨されるルートを経て山頂を目指す登山とは違い(藪漕ぎや沢登りなど、既存のルートではない道を選んで登る登山のジャンルがあることは存知)、山菜採りに道は無い。山頂は目指さず、山菜が生えていそうな沢と法面をひたすらに探す。 人の道は無いが、獣の道はそこらじゅうにある。目が慣れてくると、斜面に走る轍や、沢にかかる倒木や中州を越える筋が見えてくるようになる。その獣道に鹿の足跡や、フンがあれば大正解で、そこに足を置きおき
てんでダメな時期というものがある。 きっかけは時によって変わる。気候だったり、仕事だったり、プライベートだったり、多岐にわたる。よくもまあ、ここまでダメになるな、というほどダメになる。このシーズンを迎えてしまうと、生活の中でのリカバリを図ろうとも難しい。なにより生活が崩れはじめるのだから、その中で回復などできなくて当然ともいえる。食事に気を使えなくなるし、風呂に入ればネガティブな思考に潰されそうになる。このループ思考は就寝前などには殊更ひどいのだが、酒の力を借りることがあ
わたしにとって、その街は憎しみの形をしていた。 日本国の首都であって、一千万超の人口密度、ビルとマンションと狭小住宅がひしめき合るのを横目に、どんと門構えのいい屋敷が一部の区画に並んでいる土地。上から下までのありとあらゆる経済状況の人々を、手広く受け止めている土地といえば聞こえはいいが、ともすればその様相は給餌機を咥えさせられている鵞鳥を彷彿とさせる。 東京生まれだというと、それだけで突き立てられる棘の数は増える。勝ち組、ガチャ成功、強者、等々、反論したこちらが劣勢に