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上久保の理論(3)「シン野党連合」は政権交代を実現する

以前、「上久保の理論」として紹介した「デジタルイノベーショングループVS社会安定党」の新しい政治の対立軸は、既にその萌芽は現れているものの、まだ先の中長期的な展望だ。
 

 
そこで、今回は、その1つ前の段階として、現在の「立憲共産党」と揶揄されてパッとしない「野党共闘」とは異なる、政権交代を勝ち取るポテンシャルを秘めた「シン野党連合」の体制・政策・リーダーを大胆に提言してみたい。
 
野党は自民党の補完勢力となっている
 
自民党の支持率低下が著しいが、野党もパッとしない。立憲民主党(以下、立民)の泉健太代表が、次期総選挙で単独過半数に達しなくても、特定の政策に絞って他の野党と手を組む「ミッション型内閣」を目指す方針も掲げたが、日本維新の会(以下、維新)・国民民主党(以下、国民民主)・日本共産党(以下、共産)といった野党は否定的な態度を取っており、「総スカン」といえる状況だ。自民党のピンチに乗じて野党が結集する事態は、今のところ訪れていない。
 
また、野党が打ち出す政策面に目新しさがないことも問題だ。というのも、自民党は日本国民のニーズに幅広く対応できる、政策的には何でもありの政党だ。野党との違いを明確にするのではなく「野党と似た政策に予算を付けて実行し、野党の存在を消してしまう」のが自民党の伝統的な戦い方だからだ
 
 現在の岸田文雄内閣も、野党が「弱者救済」を訴えれば、「野党の皆さんもおっしゃっているので」と躊躇(ちゅうちょ)なく予算を付けて実行できる。立民党が訴える「子ども・若者応援」「教育無償化」も、細部の差はあれど、すでに自民党が取り組んでいる。野党がそれらの必要性を叫んだとしても、実現すれば「自民党の手柄」になるだけだ。つまり、左派野党は事実上の「自民党の補完勢力」となっているのだ。
 
無党派層は「サイレント・マジョリティ」
 
このように与野党の双方に期待できない現状を憂慮してか、各種世論調査では「支持政党なし」の無党派層が5-6割を上回る状況となっている。
 
私は、こうした無党派層を「サイレント・マジョリティー(物言わぬ多数派)」と呼んできた。中道的な考え方を持つ現役世代、子育て世代、若者らに加え、都市部で暮らすサラリーマンを引退した高齢者などがこれに含まれる。
 
 ただし、イデオロギーに強いこだわりがなく、表立って声を上げないとはいえ、サイレント・マジョリティーが投票行動を一切しないわけでもない。常日頃から支持している政党はないものの、時流や政局に応じて一票を投じ、選挙の結果を事実上左右する力を持ってきた。
 
例えば、かつて民主党への政権交代を支持したのはこの人たちだ。また、第2次安倍晋三政権は、経済政策「アベノミクス」や、弱者を救済する社会民主主義的な政策でサイレント・マジョリティーの支持を獲得し、憲政史上最長の政権を実現した。
 
ところが現在のサイレント・マジョリティーは、自民はもちろんのこと、野党第1党でいせある立民にも満足していない。自民、立民ともに支持が減り、無党派層が増加する現状が示すものはなんであろうか。
 
それは、自民党とその「補完勢力」の野党による「バラマキ」を是としないということだ。成長がなく、円安、インフレに苦しみ国力が落ちる一方の日本の現状に不満なのだ。サイレント・マジョリティーはデジタル化・地方分権・行政改革・規制緩和などを志向する政策を求めているのではないか。
 
だからこそ、私は以前、立民・泉健太代表に「党内に存在する『共産党との選挙協力を模索するグループ』と縁を切り、党を割るべきだ」と提言したことがある。
 
「シン野党連合」の政策・第一の矢「地方主権」
 
では、立民と維新を中心とする「シン・野党連合」が成立した場合、政権交代を目指すにはどんな政策が必要なのか。今回は実現可能性を度外視して「三本の矢」を提案したい。
 
旗頭となる「第一の矢」は「地方主権」だと考える。自民党が掲げる「中央集権」への明確な対立軸となるからだ。
 
「地方主権」を掲げる政策では、単に国から地方への権限移譲を進めるだけでない。これからの時代は、地域同士が国境を越えて直接結び付き、経済圏を築く「コンパクト・デモクラシー」が当たり前になっていく。その動きを加速させるのだ。
 例えば、関西・九州・四国などの地方都市に経済特区を設け、外資を呼び込み利益を上げる。日本の各都市が、シンガポール・香港・上海といった成長著しい国や地域と直接結び付けば、経済成長のスピードは加速するはずだ。
 
 現実化できるかはさておき、現在の日本では当たり前の「中央政府が地方を規制で縛り付け、全てが首都に集中する経済システム」に疑念を呈する活動を、もっと大々的に行ってもよいのではないか。
 
「シン野党連合」の政策・第ニの矢「地方を巻き込んだ政治改革」
 
「第二の矢」は「地方を巻き込んだ政治改革」である。自民党を揺るがす「政治とカネ」の問題は、国会議員の地方での活動量の多さが根底にある。かねて国会議員は選挙で票を得るために、地元の支援団体・地方自治体・地方議会議員など、さまざまな地元の支持者に便宜を図ってきた。
 
 そうした癒着を避けるため、約30年前に「選挙制度改革」が行われた。だが「小選挙区比例代表並立制」の導入後も、国会議員の活動が地元中心から議会中心へと変化することはなかった。それどころか、議員と地元の関係はより密になった。議員は政治資金のやりくりに苦しみ、派閥や地元の指示に従って、抜け道を探して裏金を受け取るなどの行為に走らざるを得なくなった。
 
「政治とカネ」の問題の解決には、1990年代の政治改革がやり残した「議員の地元活動」の縮小が必要だ。そうでないと、地元対応にカネがかかる状況は変わらない。議員は新たな錬金術を考え出すことに必死になるだろう。
 
 そうした観点からも、「地方のことは首長・地方議員が担う」「国会議員は地方から切り離され、国会での政策立案に集中する」といった、地方を巻き込んだ大胆な切り分けが必要だといえる。
 
「シン野党連合」の政策・第三の矢「地域に応じた育児・教育支援」
 
「第三の矢」は、「地域に応じた育児・教育支援」である。大阪府知事・維新共同代表の吉村洋文氏は、大阪市長時代の2018年に、大阪市の待機児童を「325人→37人(旧基準に準拠。新基準では67人)」に激減させることに成功した。一方、当時の自民党は「待機児童対策よりも教育無償化」を志向し、優先順位が逆だと一部で猛批判された。
 
 今思い返せば、当時の待機児童は都市部に集中していた。自民党が「集票基盤」とする地方の多くでは保育所には空きがあり、都市部と比べると待機児童は少なかった。ゆえに、自民党は「無償化」を優先したと考えられる。結果、中央集権国家で地方の事情が考慮され、首都圏や主要都市での待機児童問題が改善されないという逆転現象が起きた。
 
 これこそが「全国一律」の自民党政治の限界ではないだろうか。その状況を改善するに当たっては、教育関連の施策も「地方主権」の下、各地域がそれぞれの課題に応じて推進するべきだといえる。
 
 なお、維新は2024年度から、大阪府内の高校を対象とした「授業料完全無償化」に踏み切る。この施策を決定した昨年には「拙速」との批判が出たが、地方で独自に財源を確保し、国に先行して教育支援を進めることは注目に値する。政策の財源を中央から地方に移転し、地方の自主財源を増やすことができれば、岸田政権で強まる「財務省支配」への対抗策や、将来の「増税」の不安への対案にもなる。
 
 このように、地方主権を軸として自民党と異なる「国家像」を提起すれば、政権交代への期待が高まると、私は考える。
 
「シン野党連合」は強力な指導者が必要
 
 私は「シン野党連合」は、そんなに難しい話だと思っていない。改革と地方主権を掲げる馬場伸幸・日本維新の会代表。消費増税を封印し、安全保障政策などで現実路線を志向する泉健太・立憲民主党代表。「中道路線」を貫く玉木雄一郎・国民民主党代表。そして、かつて民進党を希望の党に合流させて政権交代を狙った前原誠司氏(新党「教育無償化を実現する会」代表)。
 
 彼らには過去のさまざまな因縁がある。それはわかるが、政策志向は中道の現実主義でそれほど変わらない。一緒にやれない理由はシンプルに言って「共産党の存在」だ。
 
 要するに、共産さえ切れれば、一緒にやれる。それは、馬場代表、玉木代表、連合の芳野友子会長らの発言を聞けば、明らかなことだ。
 
そして、共産との関係を絶ち、中道勢力をまとめ上げるには、新しい、強い、決断力、実行力を持つリーダーが必要だということになる。
 
 その適任は、立民の泉代表や、維新の馬場伸幸代表・吉村共同代表ではない。元々は、小池百合子東京都知事を想定していた。ではないか。小池氏は悲願の「日本初の女性首相」に向け、最後の挑戦をするとうわさされていた。だが、国政復帰の機会を逸し、都知事選への出馬を表明した。
 
 今、可能性があるとすれば、野田佳彦元首相ではないか。野田元首相は、保守派からも信頼が厚い。保守派さえもが自民への不信感を高める状況である。日本を取り巻く安全保障環境の悪化に国民が不安を高める状況で、保守的なスタンスの野田元首相ならば保守派も安心できるという存在である。
 
 共産党を切り、中道勢力をまとめ、保守派からも一定の信頼を得て、政権担当をまとめられる。それは、野田元首相にしかできないように思う。秋には立民の代表選があるが、野田元首相は立ち上がるだろうか。
 
参考となる過去の論考


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