”たった1本のアニメ”に長年の人生観を崩壊させられた話
僕はずっと間違った考えを持っていた。その考えは先日、覆った。
あなたは映画やアニメ、小説など同じ作品を繰り返し見るだろうか?僕はというと繰り返し見る方ではない。
幼少の頃は自分が気に入った作品があれば繰り返し見ていたが、高校時代あたりからそうではなくなっていき、同じ作品を見ることを恐がるようになった。
すごく面白い作品に出会えば大きな感動をする。それは幼少の頃から変わらない。そして、その感動を与えてくれた作品を自分の心の中の棚に大切な作品として収める。
僕は作品を何度も取り出していくうちに、この棚に取り出したものをしまえる自信がなくなっていた。
作品を何回も取り出していくうちに、自分にとって大切な作品にならなくなって、どうでもよくなってしまうのではないかと恐くて恐くて仕方がなかった。
人はよく「記憶をなくしてもう一度見たい」という言葉を気に入った作品に対して思う。僕もそう思う。初めて見た時の衝撃や感動を新鮮な気持ちで受け取りたくなる。
けど、この言葉って初めて見た時が一番面白いということなんじゃないか。見る前は展開を何も知らないから、色々な驚きに出会い作品を面白いと感じる。それは人間として当たり前のこと。
でも2回目は?2回目はすでに話の展開を知っている。驚くことは1回目の時のようにないだろう。もう一度みても面白いとは感じるはずだ。
でも1回目に感じた感情と比較すると1回目が上回るに違いない。じゃあ、3回目は?2回目は1回目に逃した部分について気づいて面白いと感じたかもしれないが、3回目ともなると、もう新しい部分を発見するのは難しい。
2回目よりも見た時の評価は下がるかもしれない。そして作品自体の評価が自分の中で下がるかもしれない。これが僕は怖い。
見れば見るほど作品の評価が下がってしまうかもしれないのが。
音楽もそう。良い曲を発見した時は一日中その曲を聴く。何度も何度も。
けど翌日目覚めて、聴いてみると新鮮さが失われて昨日のように心に響かなくなっている。
昨日までは特別だったのに、もう他の音楽と同じ扱いになっている。
人は慣れてしまう。
そして慣れてしまうと、それに対する感情も薄くなってしまう。
なんでもそう。恋愛も同じ。
好きになったばかりは小さなことでドキドキしても、だんだん慣れていって最終的には以前のように脈打たなくなる。
だから、今まで同じ作品をあまり見ないようにしてきた。
見れば見るほど感情が薄れていってしまうのが恐かったから。
そう思っていたのに違った。例外もあることを知った。
先日、『四月は君の嘘』というアニメを視聴した。有名なアニメだから知っている人は多いと思う。感動的なアニメだ。泣いた人も多いだろう。もう10年ほど前のアニメになる。僕が初めて視聴したのは4年前だったと思う。
正直言ってしまえば、この作品は凄く面白いと感じたものの、なぜか自分の心の棚には入らない作品だった。
一回見て面白いと感じて、すぐに気持ちを切り替えて別のことに取り掛かれるような位置付けだった。
だから複数回見ることに抵抗を感じていなかった。
先日で4回目だったと思う。無性に再び見たくなって見始めた。初めて見た時は作品を通して泣いた回数は2回ぐらい。2回目と3回目は1回ずつ。
だったら4回目ともなれば泣かないに違いない。もう展開は完全に知っている。もう感動することはあまりないだろうな、と思いながら再び見始めた。
結果、6回泣いてしまった。
展開は完全に知っていたのに。会話もある程度覚えている。なのに4回目が一番泣いてしまった。それに虚無感がすごい。
良い作品に出会って見終わったら胸がぽっかり空いてしまったような、自分の人生で大きな何かを失ってしまったような虚無感に襲われると思う。
こういった経験になるのは基本的に1回目のときだ。けど今回は4回目が一番虚無感に襲われた。しかもその日寝て終わりではない。
日曜日に見終わって、現在火曜日だが未だ引きずっている。1回目では、もう数十分後にはケロッとしていたはずなのに。
以前は特に何も感じなかった些細な会話で泣いてしまったりした。
1回目よりも今回の4回目が一番良かった。一番心に残った。本当に不思議なものだ。こういう感動系の話は1回目が一番泣くものだ。なのに4回目だなんて。
今まで繰り返し見ることで、自分の中で評価がだんだん下がっていってしまうことに疑いをもっていなかった。けど必ずしもそうではない。むしろ評価が爆上がりすることもある。
1回目が一番面白いとは限らない。多分、以前よりも成熟したから新しい見方ができたのだろう。
以前は主人公とメインヒロインにばかり焦点を当てて物語を見ていたが、今回は他のキャラクターの感情を想像して見れるようになっていた。それが自分にとって物語の厚さを変えていた。
繰り返し見ることは、思っていたほどヒドイものじゃなかったみたいだ。
作品は変わらなくても人は変わっていく。人が変わると作品の受け取り方が変わる。それが以前よりも自分に大きく響くことになる。
これからもっと色々な経験を積んでいこうと思う。そうして自分の感性を磨いていって、もっと色々なものを感じ取って楽しい生き方を目指したい。今よりも楽しめる作品は増えて人生は豊かになるはずだ。