見出し画像

ものの見方と聞き上手

ものごとの見方、考えかたと聞き上手の関係について考えたい。聞き上手になるためには、対象となる世界や人についてどのように把握するかがとても重要になるからだ。

ものの見方として、3つに分けて考えたい。なお、ロジカルシンキング/クリティカルシンキングも非常に重要な思考法だが、ここでは対象のとらえ方に着目するため、またそれについて書かれた記事は豊富に存在するため、省く。

ここで「見方」という言い方をしているが、実のところ見方とは考え方であり、話を聞くときにどのようにイメージするか、という意味を内包する。以下の説明では見方という表現で人の話を聞く例が出てくるが、物事の理解の仕方として読み進めてほしい。また、ビジネスの観点での物事のとらえ方を「論理的理解」、聞き上手による物事の理解を「共感的理解」と分類している(過去の記事「2つのわかる」も参照されたい)。そしてそれぞれの理解にとって、3つの見方がどのように活用されるかを考えた。

2つのわかる


ものの見方の3類型

ここでは、ものの見方を以下の3種類のアプローチで考えたい。
① 視点の移動:上下と平面方向
② 具象と抽象:タロウ⇔犬⇔生き物
③ メタ認知:自分の認識を認識する

①は見る場所の移動、②はものへの焦点の当て方、③はものを見ている自分を見る、と考えるとわかりやすいだろうか。

sお

聞き上手で 考える (9)

聞き上手と密接にかかわっているし、気をつけるべき点もある。一つずつ見ていきたい。


① 視点の移動:上下と水平方向

視点を移動すること。ものを見る場所を変えることだ。

聞き上手で 考える

この時に意識したいのは、見る対象の位置を変えるのではなく、見る側を移動させる、つまり自分が動くことだ。

仕事の話に例えよう。聞き手が経理部で、営業部の人から話を聞いていたとする。ただ漫然と営業部について話を聞くと、経理部の立場からものを見てしまう。すると伝票のミスが多いとか、ルールを守っていない、といった事象だけが見える。

ここで、聞き手が営業部の中にいるようにものを見る。すると、月末に予算を達成するために必死になって顧客に電話しないといけないこと、その手間をぬって経理から催促の来る伝票を書かなければならないこと、上司からはそんなことをやる暇があったら1円でも稼げと言われること、などが見えてくる。すると、経理部の立場だとしても、とにかくルールを守れではない解決策を思いつくかもしれない。例えば前もってフォーマットに入力できるものを入れておき、確定した数字だけを入力することは、締め切りを半日ずらして月初にする、などだ。

聞き上手においては、「相手の立場にたってものを考える」ことでもある。誰かの話に共感するためには、この視点移動が必須だ。

上記はいわゆる水平の視点移動だが、垂直方向の視点移動もある。経理部のいち担当の立場でなく、経理課長の立場でものを見る。または経理財務部長の立場でものを見る。すると、伝票自体は月次決算処理の中の優先順位としてどの程度重要視するかが変わり、優先順にが下がるかもしれないし、逆に経理財務部長から見たら、会社のガバナンスとしていかにルール通りに処理ができているかの指標として、むしろ重要になるかもしれない。

ビジネスマンであれば2つ上の立場でものを見ろと言われる。それは垂直方向を上に上がることは、視野を広く、より全体的にものを見ることになるからだ。すると、自分のやるべきことや観察している事象が全体に対して持っている意味や、向かうべき方向が明らかになる。部分最適に陥らないために、この視点は重要だ。

聞き上手においては、まず相手の気持ちを共有するという水平と同じ意味で、垂直の移動も重要だ。部長の気持ちを知るためには部長の立場を想像しなければならないし、逆に自分が上の立場になっても、部下の気持ちを理解しようとしたら部下の見ている景色まで降りていかなければならない。

さらに聞き上手においては、後述する具象ー抽象を行き来するためや、メタ認知を行ううえで、垂直方向の視点の移動が重要となる。物事を抽象的にみるためには、その対象が属する分野から視点を広げて、共通する特徴を抽出する必要がある。またメタ認知のためにも、それが置かれている状況を客観的にみる必要がある。

聞き上手で 考える (1)

② 具象と抽象:タロウ⇔犬⇔生き物

具象と抽象を行き来することだ。

聞き上手で 考える (3)

タロウという犬がいたとき、太郎を抽象化すると犬になる。犬の具象化した一つの例としてタロウがいる。

ここで重要なのは、具象ー抽象とは言葉が指し示す2つのものの関係性であって、「◎◎は具象である」や「◎◎は抽象的である」という使い方は正しくない。例えば「タロウ」はそれそのものであり、具象の極限のように感じるが、「昨日のタロウ」と比較するとどうだろうか。昨日のタロウのほうが具象である。このように、言葉には必ずそれより具体的なもの、抽象的なものがあると考えておくとよいだろう。少なくとも日常生活においては。

ビジネスにおいては、個別の事例とその一般化、という形で利用することが多い。暗黙知と形式知という言い方をしてもいい。暗黙知と形式知については別の場所に書いているので多くは触れないが、暗黙知を形式知に変えることで個別の経験を応用し、普遍的に活用できるスキルへ変えることができる。

ビジネスの世界ではそうした形で形式知化される側面が強調されがちだが、聞き上手においてはむしろ暗黙知を暗黙的に聞くことが重要となる。

聞き上手で 考える (4)

特に感情面での悩みなどを聞くときに、抽象度合いをあげて「悔しいんだね」の一言で済ませてしまうと、話し手は自分がステレオタイプに処理された、自分の気持ちを理解してもらっていない、となる。極力具体的に、気持ちをありありと感じられるように聞くことが重要だ。聞き上手の局面において、安易に抽象度を上げないこと。仕事熱心であるほど難しいので、気を付けたい。

③ メタ認知:自分の認識を認識する

最後はメタ認知だ。なかなか一般的にならないメタという言葉だが、「認識を認識する」と覚えてしまえばわかりやすいかと思う。

聞き上手で 考える (6)

「私はいま、考えている」といった、自分の認識に関する認識だ。例えば上記について言えば、「私は「私は「私は私について考えている」について考えている」について考えている」となる。もちろん、「考えている」だけでなく、「怒っている」や「痛い」もメタ認知だ。マインドフルネスやアンガーマネジメントにおいては、メタ認知を使うことで心を平静にしていると言えるだろう。

そして、いま「自分の認識」と書いたが、「自分がそう思う」という前提を取り払って、相手に対する認識事態もメタ認知の一部として取り扱うことが可能である。つまり、「相手が◎◎と言いながら△△と感じている(と私が感じている)」という認識だ。

6_受容

そしてここでは、自分に関するメタ認知も引っ張り出すことで、より公平で、ただしい聞き上手に到達できるだろう。

7_メタ認知する

メタ認知については「聞き上手の脳内を図式化してみる」も参照されたい。

ビジネス面でのメタ認知は非常に有用である。相手と自分の認識双方をみることで、①相手に関しては、相手の発言内容だけでなく、相手の立場や付随する情報から、真意に近づいたり、重要度を客観的に評価したりできる。②自分に関しては、感情であったり思い込みを排除することで、正しい認識に近づけることができる。また、アンガーマネジメントがそうであるように、感情的になったり過度なストレスを負うことを避けることもできるだろう。

聞き上手に関しても、上記が基本的に当てはまる。相手の理解をより客観的に正しく行うことは、主観的な共感や受容を妨げるものではなく、むしろぜひ進めるべきものである。また自分の思い込みや立場を相対化することで、より相手の立場を優先した聞き方をしやすくなる。

まとめ ものの見方と聞き上手

以上、3つのものの見方と、それぞれの効果を見てきた。ビジネス面、聞き上手面それぞれからの効果をまとめてみた。

図2

どちらにもそれぞれ利用局面があるが、特にビジネス面ではより上位/抽象的な観点に軸足を移すことで付加価値が出ることが多く、聞き上手では逆に上位/抽象的になりすぎないよう、その場のそのもの/具体的な物事を暗黙的に聞くことに留意することが重要と言えそうだ。

そもそもが論理的理解と聞き上手(共感的理解)は、どちらかだけを使えばよいというものではない。双方の綱引きをしながら、両者を自在に使いこなせることで、付加価値を生み出し、人間関係も構築できる仕事時間にできるのではないだろうか。


神山晃男 株式会社こころみ 代表取締役社長 http://cocolomi.net/