Kamatic

デジタルコラージュアートを作る三十路手前の関西人の女です。 エッセイとたまに短編小説を…

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デジタルコラージュアートを作る三十路手前の関西人の女です。 エッセイとたまに短編小説を。 Suzuriにてコラージュアート作品グッズも販売中 https://suzuri.jp/Kamatic Instagram:@kamatic23728

最近の記事

正しい愛し方

もうこれ以上の行き場が無い気がするほどに煮詰まったので窓を開けてみると、外の世界は実在していて私の家族や友人たちはそれぞれの幸せを懸命に盲信的に守っていた。 随分昔、学生の頃の恩師と酒を飲み交わした日に彼は言っていた。 「自分を愛せない人が他人を愛すことはできない。自分すら愛せないと正しい愛し方を知らない」 最近彼女にプロポーズしたという彼は私を諭すように話し、これが最後の授業なのだと感じた。今まで他から似たような言葉を聞いたことはあったけれど、若い私に向かってきちんと教え

    • ウクライナで燃えた絵

      私は絵が下手です。謙遜ではなく、かと言ってはいだしょうこ画伯の伝説のスプーの絵ほどでもなくごく普通に下手です。 小学校1.2年生の頃の担任のいつもピンクのひらひらの服を着たおばさんの先生は絵が大好きな人でした。美術の時間や他の空き時間にも何かと生徒に絵を描かせては先生がピックアップした絵を校内外問わずいろんなコンクールやイベントに出してくれました。 おかげで他の子も何人かはそうでしたが私も担任してもらった2年間の中でもらった賞状の数は両手の指を超える枚数になりました。大抵佳

      • ファッションごと愛せ

        先日京都の河原町を買い物がてら散歩していました。 京都出身の私にとっては府内随一の繁華街であるこの場所ではたくさんの甘かったり苦かったり青かったりする記憶がちらりと脳裏を過ります。 現在は資本主義を象徴するような大阪市内の繁華街近くに住んでいてそちらで全て事足りるので、わざわざ河原町で買い物をする機会はめっきり無くなりました。 実家近くや石清水八幡宮から嵐山までの河川敷のサイクリング、寺院仏閣を見に京都にはそれなりの頻度で訪れていますが此処を訪れるのはいつぶりだろう、と寺町通

        • メレンゲ・メリーバッドエンド

          月が見えない夜、拾い上げられた救いを大切に抱いて温め直すのは眠るにはまだ勿体無い気がしてしまうからでしょう。眼前の視界よりも薄い夢の断片よりも、焦げた記憶に執着してしまうのはそこから何か一つでも見出せるものがないと自分は途轍もなく無責任な人間だと感じたり、降りかかった理不尽を理不尽としてラベリングすることを受け入れたくないからでしょう。 私は加害者にも被害者にも成りたくなかったのです。 これが私の自己愛だと気付き言語化できるまで随分と長い時が経ったものです。 全ては変化して

        正しい愛し方

          雨の日のカヌレ屋にて

          読まなくても差し支えないですが一応こちらの後日談にあたります。 ____ 小雨が降る午前に私は最寄りの地下鉄の駅に向かっていました。途中で通り道にある、人1人が入れるような小さなカヌレ専門店に立ち寄りました。 いつもは店の前に数人の列ができていますがその時は時間と天候も相まってか誰も並んでいませんでした。 こんにちは、と挨拶してくださった店主のお姉さんは眉毛より上の短い前髪、丸メガネの似合う可愛らしい女性でした。 「季節の商品が2種類、それから本日の気まぐれカヌレはチョ

          雨の日のカヌレ屋にて

          小説:髪を切る理由

          軽快なEDMが流れるヘアサロンに居た。 「急なのにありがとうございます」 「ううん、時間はあったから大丈夫。こちらこそありがとうね」 後輩の裕太くんは若い美容師のアシスタントで、前にも一度毛先を整える程度に髪を切り染めてもらった。今日来店できるカットモデルを探しているとSNSで見かけて連絡をしたのだ。 「今日はどうします?」 「特に決めてないのよね。前みたいなのでもばっさりいっちゃっても、裕太くんが似合うと思うように好きにしてくれていいよ」 「え、ショートとかでもいいんですか

          小説:髪を切る理由

          群青の日-2012.04.21

          私がnoteを書き始めた頃、いつかこの出来事を書く日が来るのだろうとは思っていました。遂にその日が来てしまったようです。 中学3年生を迎える春、私にとって初めての彼氏が出来ました。幼稚園から中学まで一緒で中学2年生の時に初めて同じクラスになったバスケ部の男の子です。いつも人の輪の中心にてツッコミ役をしているような、背の高く彫りの深く整った顔立ちの人でした。 もう少し遡って2年生の冬。彼に片想いしていた私はガラケーを握りしめ毎晩彼とメールをしていました。キャリアの受信センタ

          群青の日-2012.04.21

          北西の夜空に中指を立てる

          生産性の無い強い愛着がいつの間にか手元から離れていたことに気付いた日にはそれを実感してしまう瞬間がたまらなく恐ろしくなるものです。 外では強がった顔をしたり余裕のあるような文面を誰かに返信し、そして1人の部屋で大きな声で泣きじゃくり「ばか、ばか」と誰に対してでもない無意味な言葉を繰り返し吐きます。 愛着なんて持たなければ良かったのか。執着があるから苦しむのだ。そんなことは短くはない人生で繰り返し考えました。 それでも人は何かに情を注いだりふと惹かれてしまうということは、これ

          北西の夜空に中指を立てる

          小説:第n次自己内大戦

          己の憎さを自覚したその瞬間から長い長い冷戦が続いた。 「さあ、今こそ変革の時が来た!思考を変えるのです!これらは貴方の思い込みに過ぎないのです!不安から解放されましょう!私たちは自由なのです!」 声高な改革派の刃がスピーカーから響く。不気味なほどに足並みを揃えた行列は正論のタスキを身につけて根拠のプラカードを掲げて逃げ道を封じてゆく。 私たちは怯えていた。天動説から地動説が常識になったように、ストリーミングが主流になりディスクの流通が減るように、命が老いるように、不変など

          小説:第n次自己内大戦

          切って、結んで

          安井金毘羅宮という名前を知らずとも“京都の縁切り神社”と言えば強烈なご利益や不穏な願いで満ちている場所として耳にしたことのある方も多いのではないでしょうか。 切りたい縁など特にはなかったのですが。 そもそもの始まりは絶賛婚活中女性である前職での先輩から地主神社に行こうと誘われたのです。清水寺の敷地内にある、こちらは縁結びで有名な神社です。距離の空いた石と石の間を目を瞑って歩き、辿り着けば恋が叶うといわれる恋占いの石があり私も学生の頃に2度ほど訪れた場所です。 事前にホーム

          切って、結んで

          小説:浸

          もう二度と味わいたくない感覚とは貴重な学びの瞬間である。私はそれを金属の箱に丁重に鍵をかけて身の内に仕舞い込み、金属はいつしか血液に溶け出し身体中を巡る。 最善と思える道筋へせっせと準備を施しても予想もしない方向からそれは崩されることもある。合理性を最優先させたくとも御膳立てまでされてしまい最大のメリットが潰れると善意を無下にはできない。これは自分本位な業だったのだ、そう言い聞かせてようやく私が定めた“自由”のうちの一つの扉を諦めようと努める。 結局、人の言葉を生きる理由に

          選んで、選んで、選んで

          精神状態やこう在るべきと己で定めた定義と視界に映るもののギャップが大きいほど人はそのアンバランスを不快に感じるのだと思うのです。 でなければ殺人鬼の魂が入った人形がナイフ片手に殺戮を繰り返すあの映画はシリーズ化されなかったでしょうし、クラスのちょっと嫌われ者のラブレターが無闇やたらと気持ち悪がられることもないでしょうし、私は近くの中華屋の酢豚にじゃがいもが入っていることも許せるのでしょう。あれは昔食べていた酢豚に入っていなかった上にもさもさするので個人的にはとても好きじゃない

          選んで、選んで、選んで

          眠れない夜に飲むお茶は

          眠れない夜はぐるぐると思考が渦巻く、なんて言いますが実際には記憶や断片的な思考のかけらという映像を自分のものにできないまま、ただランダムに無理矢理見せられている様な状態に近いんじゃないかと最近思うのです。文章にすると時計仕掛けのオレンジの人格矯正プログラムのシーンを思い起こさせてしまいますね。 漠然と浮かぶ思考の表面だけをなぞっていて、それが考え事をしている錯覚に陥る。とはいえ人は1日に約3万回思考するそうですから仕方のないことかもしれません。 幸いにも青島刑事の名台詞のお

          眠れない夜に飲むお茶は

          Nobody’s Home

          先日友人と電話をしていた時のことです。 「会いたい人にはちゃんと自分から会いに行かなくてはいけない」という旨の話を友人はしていました。 それに対し私は「スケジュールが合わないとかはともかく、普通に誘って断られたらちょっとショックじゃない?」と返すと友人は驚いたように「え、そんなことある?」と言いました。 逆に、世の中そういうことってあまり無いのか?と思いました。 言われてみれば確かに昔は苦手だったり薄い関わりだったはずの知人と大人になって再会して皆んなで酒を飲んでみればお互い

          Nobody’s Home

          朝日+思い出=肴

          朝日が昇る様を見て時々思い出すことがあります。 19歳になる歳の専門学生だった頃のその日、私は小・中学校の同級生の2人の男友達と一緒にカラオケで歌い続け笑い続け夜を明かしました。地元で仲の良い友人グループのうちの2人でした。 京都にある私の地元はここ数年でこそ有名カラオケチェーン店が駅近くにできましたが、それ以前はカラオケに行くとなれば自転車で3.40分はかかる距離にありました。 そういった場所が方角が違えど数件あったのですがその日は六時蔵というベッドタウンの片隅の古くて

          朝日+思い出=肴

          小説:徳利のちっさいおっさん

          ホームセンターの帰りに大きな公園を散歩していると骨董市が行われていた。透明な翡翠色が美しいガラスの徳利が目について思わず買ってしまった。 家で買ったものを荷解きしていると後ろから声がした。 「我は願いを叶えし魔人。さあ、そなたの願いを聞かせてみよ」 振り返るとちっさいおっさんがいた。 身長160cm台の小柄な不審者というわけではなく背丈12.3cmほどの、アロハシャツにタイガースのキャップを被ったおっさんが徳利の上に腰掛けていた。 「あ、うちそういうの結構です」 反射的に

          小説:徳利のちっさいおっさん