Kamatic

デジタルコラージュアートを作る三十路手前の関西人の女です。 エッセイとたまに短編小説を…

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デジタルコラージュアートを作る三十路手前の関西人の女です。 エッセイとたまに短編小説を。 Suzuriにてコラージュアート作品グッズも販売中 https://suzuri.jp/Kamatic Instagram:@kamatic23728

最近の記事

月が綺麗だと思えた頃

息を吐いて、突如湧き出す怒りや愛とも憎しみとも呼べないものなどの全てを圧縮して北東へひたに飛ばして。 悪夢の端くれにいつも私が映り込むようになるのだと、棚上げをして膨張しゆくヘドロを気化するのです。なんと平和的な対症療法でしょう。 北西に張り付くように浮かんでいた金星はいつしか私の目には映らず、死角で見えない月に不意に出くわす度に美しかったはずの一曲が頭の中に流れ込みます。かつて鎮痛剤となり、もうしばらく聴いていないはずの音色が勝手に再生され、私はまた息を吐きます。 これ以

    • 世界へのいたずら

      姫昔蓬(ひめむかしよもぎ)という名前を知らずとも、もし興味のある方が画像検索をすれば誰しもが必ずと言っていいほど見たことがある、背の高い雑草が出てきます。都会の少しの隙間でも屈強に伸びるほど生命力が非常に強い植物です。 6月から背丈の高さが目立ち始め、7月の空き地では身長をゆうに超えてしまう程のものもいます。そんな姫昔蓬にとっても今年の夏は大変暑かったのか水不足なのか、葉焼けしたり萎れたりしているものもいました。 初夏の住宅街を無心で歩いていた私はふと、この植物の先端を切

      • 獣とゆく細道

        実家の愛犬、ビート君は純ヨークシャテリアでありながらとてもデカい。 決しておデブちゃんではないのです。小型犬は短足故の愛らしさがありますがビートはすらりと脚が長く、そもそもの骨格が大きいのでサイズとしては小さめの中型犬ほどあります。毛は成犬になってもシルバーにはならず、配色がスターウォーズのチューバッカと同じです。丁寧な対応のブリーダーさんから譲っていただきましたが実は惑星キャッシークのウーキー族ではないかと睨んでいます。 おやつの時の待て、お手、おかわりしか芸はできません

        • terrorist

          淡い夢でも目を覚ましても終わりを悟りながら頭を巡る冷たく沸騰する、あの感覚が付き纏う。 未来など当然誰にも分かりはしない。 しかしながら、少しばかり歳を取れば叉の分かれたいくつかの道が選択肢として足元だけを照らされ見えるようになる。いっそギャンブルのように目隠しをして確率だけで全てが決まれば受け入れたり恨んだりできただろうに、人の生き方や自由とは厄介極まりない。 “自分らしく生きなさい” 癇癪を起こさない為に日々錆びた小さな刃物で滅多刺しにしてきたものを、今更そんな風に言

        月が綺麗だと思えた頃

          小説:天使と悪魔を抱えて

          “ああ、知っていたのに。もっと早く動くべきだった” その後悔と絶望に関してはよくよく知ってるので人に感じさせまいと待ってた。ずっと待っていた。待つ為に少し生きた。しかし、お人よしが過ぎたかもしれない。 葉焼けで株ごと枯れかかったセージの仲間を見つけて、素直で羨ましいと思った。 「待つ必要なんてどこにある?お前はもう少し時が過ぎれば本当に無かったことになってしまったことにまた絶望するんだろう? お前は自身の為の報復も誰かの遺恨も望んでいない。誰彼もお前のことをあっさり忘れゆ

          小説:天使と悪魔を抱えて

          もう、行けない

          些細なことで一番の楽園を失った。 今までは散々一人で行っていたそこへ行こうと思うと、酷く悲しい気持ちと虚無感が広がって到底行ける気がしない。その場所に罪は無く何なら私にとって最大の癒しの園であるはずなのに、今までと何ら変わりないはずなのに、そこを1人で歩く私は蔑ろにされた何かについてずっと考えているのだろうと予想がついてしまう。一つから過去の全てをきっと辿ってしまう。 安易に「別に平気だから」と言って流してしまったせいか。その後結果的に生まれた嘘も何もかもその場所に紐付けて

          もう、行けない

          もし問われれば

          運命を信じるかと問われれば私は迷わずノーと答えます。 誰かの運命の存在自体は否定しません。 何かを信じたい時、または真逆に諦めたい時に「これは運命だ」という人がいます。紆余曲折を経て結ばれた愛も、不意に割れてしまった思い出のマグカップもその人にとってはそれが運命であることが当人の真実なのです。 なので私はノーと答えます。 あれもこれも運命だった、と結論付ける自分を許せそうにないからです。そして運命だと感じて後先考えず行動して失敗することを恐れるからです。 物事には起因がある

          もし問われれば

          正しい愛し方

          もうこれ以上の行き場が無い気がするほどに煮詰まったので窓を開けてみると、外の世界は実在していて私の家族や友人たちはそれぞれの幸せを懸命に盲信的に守っていた。 随分昔、学生の頃の恩師と酒を飲み交わした日に彼は言っていた。 「自分を愛せない人が他人を愛すことはできない。自分すら愛せないと正しい愛し方を知らない」 最近彼女にプロポーズしたという彼は私を諭すように話し、これが最後の授業なのだと感じた。今まで他から似たような言葉を聞いたことはあったけれど、若い私に向かってきちんと教え

          正しい愛し方

          ウクライナで燃えた絵

          私は絵が下手です。謙遜ではなく、かと言ってはいだしょうこ画伯の伝説のスプーの絵ほどでもなくごく普通に下手です。 小学校1.2年生の頃の担任のいつもピンクのひらひらの服を着たおばさんの先生は絵が大好きな人でした。美術の時間や他の空き時間にも何かと生徒に絵を描かせては先生がピックアップした絵を校内外問わずいろんなコンクールやイベントに出してくれました。 おかげで他の子も何人かはそうでしたが私も担任してもらった2年間の中でもらった賞状の数は両手の指を超える枚数になりました。大抵佳

          ウクライナで燃えた絵

          ファッションごと愛せ

          先日京都の河原町を買い物がてら散歩していました。 京都出身の私にとっては府内随一の繁華街であるこの場所ではたくさんの甘かったり苦かったり青かったりする記憶がちらりと脳裏を過ります。 現在は資本主義を象徴するような大阪市内の繁華街近くに住んでいてそちらで全て事足りるので、わざわざ河原町で買い物をする機会はめっきり無くなりました。 実家近くや石清水八幡宮から嵐山までの河川敷のサイクリング、寺院仏閣を見に京都にはそれなりの頻度で訪れていますが此処を訪れるのはいつぶりだろう、と寺町通

          ファッションごと愛せ

          メレンゲ・メリーバッドエンド

          月が見えない夜、拾い上げられた救いを大切に抱いて温め直すのは眠るにはまだ勿体無い気がしてしまうからでしょう。眼前の視界よりも薄い夢の断片よりも、焦げた記憶に執着してしまうのはそこから何か一つでも見出せるものがないと自分は途轍もなく無責任な人間だと感じたり、降りかかった理不尽を理不尽としてラベリングすることを受け入れたくないからでしょう。 私は加害者にも被害者にも成りたくなかったのです。 これが私の自己愛だと気付き言語化できるまで随分と長い時が経ったものです。 全ては変化して

          メレンゲ・メリーバッドエンド

          雨の日のカヌレ屋にて

          読まなくても差し支えないですが一応こちらの後日談にあたります。 ____ 小雨が降る午前に私は最寄りの地下鉄の駅に向かっていました。途中で通り道にある、人1人が入れるような小さなカヌレ専門店に立ち寄りました。 いつもは店の前に数人の列ができていますがその時は時間と天候も相まってか誰も並んでいませんでした。 こんにちは、と挨拶してくださった店主のお姉さんは眉毛より上の短い前髪、丸メガネの似合う可愛らしい女性でした。 「季節の商品が2種類、それから本日の気まぐれカヌレはチョ

          雨の日のカヌレ屋にて

          小説:髪を切る理由

          軽快なEDMが流れるヘアサロンに居た。 「急なのにありがとうございます」 「ううん、時間はあったから大丈夫。こちらこそありがとうね」 後輩の裕太くんは若い美容師のアシスタントで、前にも一度毛先を整える程度に髪を切り染めてもらった。今日来店できるカットモデルを探しているとSNSで見かけて連絡をしたのだ。 「今日はどうします?」 「特に決めてないのよね。前みたいなのでもばっさりいっちゃっても、裕太くんが似合うと思うように好きにしてくれていいよ」 「え、ショートとかでもいいんですか

          小説:髪を切る理由

          群青の日-2012.04.21

          私がnoteを書き始めた頃、いつかこの出来事を書く日が来るのだろうとは思っていました。遂にその日が来てしまったようです。 中学3年生を迎える春、私にとって初めての彼氏が出来ました。幼稚園から中学まで一緒で中学2年生の時に初めて同じクラスになったバスケ部の男の子です。いつも人の輪の中心にてツッコミ役をしているような、背の高く彫りの深く整った顔立ちの人でした。 もう少し遡って2年生の冬。彼に片想いしていた私はガラケーを握りしめ毎晩彼とメールをしていました。キャリアの受信センタ

          群青の日-2012.04.21

          北西の夜空に中指を立てる

          生産性の無い強い愛着がいつの間にか手元から離れていたことに気付いた日にはそれを実感してしまう瞬間がたまらなく恐ろしくなるものです。 外では強がった顔をしたり余裕のあるような文面を誰かに返信し、そして1人の部屋で大きな声で泣きじゃくり「ばか、ばか」と誰に対してでもない無意味な言葉を繰り返し吐きます。 愛着なんて持たなければ良かったのか。執着があるから苦しむのだ。そんなことは短くはない人生で繰り返し考えました。 それでも人は何かに情を注いだりふと惹かれてしまうということは、これ

          北西の夜空に中指を立てる

          小説:第n次自己内大戦

          己の憎さを自覚したその瞬間から長い長い冷戦が続いた。 「さあ、今こそ変革の時が来た!思考を変えるのです!これらは貴方の思い込みに過ぎないのです!不安から解放されましょう!私たちは自由なのです!」 声高な改革派の刃がスピーカーから響く。不気味なほどに足並みを揃えた行列は正論のタスキを身につけて根拠のプラカードを掲げて逃げ道を封じてゆく。 私たちは怯えていた。天動説から地動説が常識になったように、ストリーミングが主流になりディスクの流通が減るように、命が老いるように、不変など

          小説:第n次自己内大戦