ナカモトジュンヤ@かまくら国語塾

“国語”や“おはなし”について書くなど。小説「漣の果てに。」Amazonで販売中。柳は緑、花は紅。かまくら国語塾、始めます。https://kamakura-kokugo.education/

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    マガジン

    • 中編小説

      3000~10000字の中編小説を収めています。

    • 漣の果てに。

      連載小説「漣の果てに。」のマガジンです。 「さざなみのはてに」は2012年に執筆しました。当時闘病中だった亡き父へのエールとして書き始めたもので、エールではありますが、テーマはまさかの「親殺し」。 大手ゼネコンに勤める父親とメーカー勤務でくすぶっている息子が、いつのまにか大きな流れに巻き込まれ追い詰められていく話。 自叙伝的な要素も多少はありますが、あくまでフィクションです。主人公の家族含めて登場する人物や設定は、実在の人とは関係ありません。念のため。 Kindle版でも販売中 https://amzn.to/3czCyD5

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    『僕たちは嘘をついている。』

     嘘が僕を作っている。言ってしまえば、僕は嘘だ。  親子ほど離れている僕たちは、まぁうまくやっている。過去は気にしないし、嘘をつくのは、簡単だ。  夕方チャイムが鳴り響く。このチャイムって全国共通なのかな。メランコリックなメロディをかき消す喚き声が聞こえたので、読んでいたカフカの「変身」から視線を上げた。小学校の教室にいたような気がする数名が、滑り台やらブランコやら鉄棒やらで駆け回って遊んでいる。四年生にもなって恥ずかしくないのだろうか。  二時間ほど前に公園に足を踏み入

      • 線の引き方

           ぼくは、人生十年目にして早くも警察に追われている。誘拐する側される側。不幸なのはどっちだろう。  ダンボール内の捨て猫のようにこちらを見つめる瞳。アルカイックな微笑みが張り付いた顔。そして、弱い握力で強く握りしめてくる小さな手。 「おなかすいた。豆乳ヨーグルト食べたい」  さっきから五度目の発言。  とにかく遠くへ──。無心で歩いてきたが、落ち着きを取り戻した幼稚園児は、空腹を思い出したらしい。犬の散歩をしている人とやたらとすれ違うし、気づけば僕らの影も長く伸びて

        • 『藤沢さん』

          ----------------------(2607文字) 藤沢さんについて書こうと思う。 30年近く前のことだろうか。吹きすさぶ風が外を灰色にする、そんな1日だったと記憶している。当時独身だった藤沢さんは、父の同僚である。 「いいねぇ」が口癖だった。だから、藤沢さんがウチに遊びに(多くの場合は食を求めて)来た時、取り敢えず今ハマっていることを報告して「いいねぇ」をもらいたかった。承認欲求を満たしてくれる人間SNSである。 ミニ四駆に耽溺していた僕は、手に入れたばか

          • 『漣の果てに。』が紙で読めるようになりました

            noteで連載していて好評だった『漣の果てに。』がAmazonペーパーバックで読めるようになりました。(ペーパーバックはソフトカバーの単行本です。表紙の肌触りがいいです) 『漣の果てに。』について本作は闘病中だった父に向けて書いた小説です。聡明で博識でクソ真面目で仕事人間。不器用で部下思いでグウタラ亭主で金の使い方が下手で、でも静かに優しかった父親。 膵臓癌がステージⅣで発見され、悩み、苦しんでいる父親に対して、親譲りの無鉄砲仕事馬鹿な息子は、何もしてあげることが出来ませ

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          • 漣の果てに。
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            『海賊と山と薬と。』

            ----------------------  今日も船長に怒られた。自分では一流の海賊だと思っているのに、なかなか認めてもらえない。同じタイミングで今の船に乗るようになった奴は、いつの間にか船長の補佐役として出世した。俺が認められる日は来るのだろうか。  悶々と考えていたら眠れなくなった。船室から外に出ると冷たい夜風が吹き抜ける。月の光が海面に水平線までの道を作っている。  もう、この船を降りよう。  月の道に誘われるように、俺の気持ちが決まる。この船に俺の未来は、

            『USAKAME2020』

            「亀、すごすぎ」 「不可能ってないんですね」 「ウサギwww」 こんもりと盛り上がった丘の上。集まる動物たち。 歓声とも揶揄ともつかぬざわめきが広がる。 風はなく、照りつける太陽は光と影を作った──。 「どうして──」 俺はただ呆然と亀の勝利に沸く森の仲間たちの姿を見ていた。 満面の笑顔の熊、チラチラと俺の顔を見て嘲笑する鹿、亀の甲羅に頬ずりするリス。 あいつら……。 自分の敗北がこんなにも笑顔を生むなんて──。 視線を感じた。亀がこっちを見ている。一万年生きている

            『七色温度計』

            雨が上がったみたい。少し明るくなってきた。 「ひかり、今年の誕生日プレゼントはこれだ。10歳の誕生日おめでとう」 パパの顔に張り付いた笑みは、私が喜ぶことを確信している。手渡してきたのは、シンプルに包装された手のひらサイズの箱。開けてみると、少し液晶が大きめなスマートフォン風温度計だった。 「はぁ? ワケわかんないし。もっとこう、あるでしょ。10歳の女の子が喜びそうなプレゼントが」 全然納得がいかない。我が家では誕生日プレゼントのリクエストはできない。いつもパパが決め

            『しゃもじのおびえ』

            ---------------------- 迫りくる複数の足音──。 そして、私は囲まれた。 その中の一人が私のくびれを力強く掴んだ。 「やめて!」 絞り出そうとするが、想いは声にならない。 飢えた獣たちが、よだれを垂らして私を見る。 せめて、せめてシャワーを浴びさせて。 そうすれば、我慢が出来るかもしれないわ。 もう耐えられないの。 あの“白い粘り気”が私の身体にまとわりつくことが。 でも、欲にまみれた彼らに私の願いは届かない。 そして、私は無抵抗のまま放り

            漣の果てに。 第20話(了)

            澎湃たる波浪もいつしか収まり凪が来る。然あれども、爪痕はそこかしこに残り、あるいは日常を違うものにしていく。 「退屈」が再び俺の人生の主役を狙ってひやうと矢を放つも、俺は浮きぬ沈みぬ揺られける半透明の抜け殻。 何度かは会社に行った。もちろん、仕事は手につかない。父親が亡くなったということで、最初は同情もあったが、回復する様子を見せない俺に周囲は苛立ち、非難の目を向けるようになる。 「杉森さん、おかしくなっちゃったね」 そんな声も俺の身体を通過する。 しばらく会社を

            漣の果てに。 第19話

            俺は見上げたまま目を閉じ、呼吸を整える。 汗が引き、唇の渇きを感じる。 「いい眺めだなぁ。ほら、圭司来てみろ。ドイツを思い出すじゃないか。ガスもほとんどないし、こんなに遠くまで見渡せることなんて滅多にないぞー」 空の何処からか、のんきな声が聞こえる。目を開き、首と顎の角度をやや鋭角に戻し、親父の方を向く。セミプロのお父様も肩が上下し、やや息が切れている。それもそのはず、かなり速いペースで登ってきた。 開けた頂上付近からの絶景と、絶好の天気にはしゃぐ親父。腕を広げて深

            漣の果てに。 第18話

            「人生に頂上はない」 よく聞く言葉だが、俺はそうは思わない。誰の人生にも頂、頂点がある。そこに向かって暗中模索、紆余曲折を経ながらも登り続けるのが人生だ。 長き道になる。間違うことも、見失うこともあるだろう。一歩を踏み出すのがつらくて億劫になることもあるだろう。時には歩みを弱めてもいい。時には足を休めてもいい。そしてそんな時は、上ばかりを見る必要はない。足元を、確かな足元を踏みしめていく。 そこには、自分がここまで登ってきた両足があり、誰かが通ったはずの足跡がある。勇

            漣の果てに。 第17話

            朝は来る。 七十億分の一の男が苦悩を抱えていたとしても、違わず朝はやって来る。 神奈川の屋根、丹沢山。 一ヶ月前親父に山登りを提案したら、丹沢山を指定してきた。何でもこの山は俺と登るために、今まで一度も登らずに残しておいたらしい。 親父との待ち合わせは朝6時20分。人影も見当たらない始発直後の日吉駅から小田急線渋沢駅まで向かう。早朝の渋沢駅前は人影もほとんどなく、ロータリーは閑散としている。 随分さびしげな駅だな……と思い、左を向くとモンクレールのダウンベストを誇ら

            漣の果てに。 第16話

            十日が経った。 ここというどこかに、まだ、俺はいる。 頬はこけ、目の下にはいつも以上の隈ができた。心が侵されると身体は蝕まれる。雫には病院に行けと言われているが、診断は不要だし不能だ。 土曜18時。いつもならJリーグを見ながらコーヒーでも飲んでいる時間だ。だが、この一週間まったくと言っていいほど仕事が手につかない。 少しでも消化しようと持ち帰ってきたノートPCを開き、企画書ファイルをクリックするも指は微動だにしない。画面はいつの間にかスクリーンセイバーに切り替わり、

            漣の果てに。 第15話

            「なんで? なぜ、私なんですか? 父は何をしたのですか?」 気持ちが昂ぶり、声は裏返る。 「お父様がやったことは他の人もやっていることです。ただ今回は相手が悪かった。ご愁傷様です」 おい、勝手に殺すな! その相手は誰なんだ!  声高に叫ぼうと思ったが、すぐに渋く低い声で妨げられる。 「依頼人の方は明かすわけにはいきません」 こいつ、心が読めるのか? 「守秘義務です。そして、なぜあなたがお父様を殺さなくてはならないか、という疑問に対しては、お答えした方がよろしい

            漣の果てに。 第14話

            落ち着け、俺。落ち着くんだ、俺。 何度だって落ち着きを失いかねないが、今のこの状況を何とか整理しろ。できるだろ? この男たちは"誰か"に頼まれて俺を脅迫している。雫に害が及ぶことは、ない。脅迫の内容は、俺に親父を殺せ、というもの。親父を殺さないと俺の命も、ない。そして、親父の死は日本を救う。親父を殺せば俺は生き残れる。脅迫グループの雰囲気は、さほど怖くはない。業界の人、という感じもしない。脅迫の教科書に載っているような手口。乗せられた車種はプリウス。 ……しかし、親殺

            漣の果てに。 第13話

            社長に内線で呼ばれたので、社長室に向かう。靴紐がほどけていることに気づき、しゃがんで結びなおす。リーガルの黒いストレートチップには、埃と汚れが付着していた。紐はなかなか上手く結べなかったが、短く息を吐き落ち着いて蝶々結びにきつく締める。 ノックをして少し大げさな装飾の入ったマホガニーのドアを開ける。 大開口の窓からは夏の到来を全力でアピールするかのごとく強い日差しが差し込む。空調のおかげで暑さは感じないが、あまりのまぶしさに思わず目を細める。 社長の姿を探すと陰翳が