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『あやとり』

 だって、決められない。私が私であるために。

 中学生になって三か月。私にこんなイベントがやってくるなんて、想像力が追いつかない。

 陸上部の練習が終わって帰ろうとしていると、部室前でいつの間にか仲川先輩と二人きりだった。いい雰囲気だったということもなかったのに、挨拶をするように先輩から好意を告げられた。

「今度、彩の返事を聞かせてほしい」

 そう言い残して、先輩はそそくさと帰っていった。

 どうしよう。
 部室前に一人残された私の脳内はパンク寸前だった。

 私にとって人生初めての(そして、これからあるか分からない)素敵な瞬間は、極めて悪いタイミングで訪れたと言っていい。先輩のことがどうでもいいわけではないけど、私の頭はK-POPでいっぱいで、そしてあまりにも時間がなかった。

──誰を、推すか。

  

 その日のホームルームは、二週間後に控えた鎌倉遠足の班決めだった。

「新しい仲間を増やす機会です。普段仲良くしている人とは違う人と組みましょう」

 まさかの決め方に教室は一時騒然とした。足立先生は、いつもわざとじゃないかってくらい華麗に、私たちの地雷を踏んでいく。

 気軽に「えー、最悪」と口に出せればいい。でも、声にならない圧倒的多数の悲痛な想いが、重たい空気の渦となって教室を覆う。程なくして、それを打ち破るカラッとした甲高い声が教室に響いた。

「私たち、普段そんなに仲良くないもんね」
「ねー」
 アハハ、ウケるぅ。

 カースト最上位の美香ちゃんたちグループは、ちゃっかりいつもの四人組を作った。強い。
 〝中の上〟の比較的良い子である私は、先生の言いつけを破るのが怖い。「先生の言う通り」がいい結果を生まないことなんて分かってる。知ってる。でも、自分に自信がない。逆らってまで意志を貫けない。

 奈津とアイコンタクトをして、同じ班になることを諦めた。奈津はしばらく教室をうろうろしていたけど、なんとなく五人グループを作れたみたい。良かった。奈津を目で追っているうちに、班はみるみる出来上がっていく。遅かった。

 あれ、まずい。
 私、一人だ。

 再度教室を見回すと、どうやら私に残されたのは、考えうる最も茨の道だった。

 美香ちゃんたちの班の五人目──。

 自分の運命を呪った。けど、仕方ない。コミュ力はある方だから、と自分に言い聞かせる。前日のBeRealの投稿についてキャハハハと笑っている四人のところに近づいて、かき消されそうな声を絞り出した。

「美香ちゃん、私、組む人いなくて……、五人目に入れてもらってもいいかな」

 美香ちゃんは、急に真顔になってこっちを向く。
「あ、え、彩なんだ。ふーん」

 騒がしかった他の三人もじろじろ私を見る。私、商品じゃないのに。

「うん、でも、奈津よりマシか。うちらにはあんま関係ないし。んじゃ、よろしくー」

 どうしてそんな残酷なことを平気で言えるんだろう。でも、そう言われたのが私じゃなくて、少しホッとしている自分もいて最悪。私も同類。ごめんね、奈津。

 そして、その日から私の戦いが始まった。
 〝中の上〟であるために。


 家に帰ったら、部屋のドアを閉め、目をつぶって集中力を高める。窓の外の雨音が遠のいていく。

 遠足の一日のシミュレーションを始めた。話の輪にはなるべく入る。相槌を打つ。同調する。ちょっとは、自分の意見も言う。でも、絶対目立っちゃだめ。絶対。

 話題を振られた時は、ちょっとでも返せるようにしなきゃ。どんな振りが来るか。

 みんなよくTWICEとかBTSとか踊ってるよね。「彩もちょっと踊ってみてよ」とか、「TWICEっぽく撮ろ」とか言われた時に、「私はちょっと……」とか言ったら完全に陰キャだ。下の下。だめ、練習しなきゃ。調べなきゃ。

 そして、おぞましい質問を思いついた。

「彩の推し、誰?」

 K-POPの推しがいて当然。それが陽キャの掟。この質問に答えられてこそ、晴れて〝中の上〟としてのアイデンティティを保てる。今後の中学校生活のポジションを左右するターニングポイント。大事。極めて大事。

 さぁ、誰を、推すか。

 

 

「ねぇ、どうしたらいいと思う?」

 YouTubeでのK-POP研究に煮詰まったので、少し足を伸ばして夕陽台公園に向かう。例のベンチに、やっぱりいた。隣に座って唐突気味に話しかけると、普段は歯切れのいい祥が、なんかもぞもぞしている。

「……、ん、えっと……」

 面白いからちょっと困った顔をして覗きこんでみる。

「彩の人生だから、彩が決めればいいと思うよ」

 祥とは思えない平凡な返答。まだなんの話か言ってないのに。あ、祥はもしかして仲川先輩に告白されたこと知ってるのかな。それでこの反応ね。ちょっと嫌かも。でも、今はその話じゃない。

「ごめんね、K-POPの話」

 祥は、えっ、と声を出して少しだけ息を吐いたけど、一瞬で表情を戻す。

「K-POPの話を僕に聞くということは、答えが欲しいわけじゃなさそうだね」

 さすが。よく分かってる。言い回しちょっとめんどくさいけど、私は祥のそういうところが好き。

「はい。では、ここで質問です。『好きな食べ物は』と聞かれた時に、あなたは迷いますか」

「迷わないよ。バームクーヘンだよ」

「なるほど。でも、バームクーヘンとかちょっと小洒落たお菓子だから、気取っているようにも聞こえます。場合によっては、いじられる対象になるかもしれません。『祥、バームクーヘン好きなんだってよ笑』とか」

 いつもの会話のペース。安心する。

 だけど、祥はおもむろにベンチから立ち上がり、私とちょっと距離を取った。私は祥を見上げる形になる。祥もちょっと背が伸びたけど、まだ中一としては真ん中より低め。いつかはきっと抜かれちゃうんだろうな。

「私はめちゃくちゃ迷う。本当は、ママが作るビーフストロガノフが最高で、世界の終わりに最後の晩餐を選べるとしたら、これ一択。でもね、これは言えない。中の上の人は、ビーフストロガノフはだめ」

「ビーフストロガノフ美味しいのに、だめか。正直に言ってはいけないのでしょうか」

「はい。正解は、カルボナーラ。パスタというところでややお子様感を出しながらも、ミートソースほど子どもっぽくない。『カルボナーラ私も好き』という同意も得やすいし、『あのお店のカルボナーラ美味しいよ』と話が発展する展開も見える」

「なるほど。彩はいつも僕にない視点を教えてくれるから、勉強になるよ。でも、僕はヒエラルキーランクづけの外側にいるから、バームクーヘンを裏切ることはできない」

 裏切られなかったバームクーヘンは幸せだな、とか変なことを考えているうちに、なんだか心がストンと収まった。

「そうか、そうだよね。うん、ありがとう」
「あれ、K-POPは、いいの?」
「もう、十分。じゃあねー」
「あ、うん。バイバイ」

 祥は、祥だった。一人で過ごす時間が長くて、自分と向き合い続けて、きっと〝ちょうどいい自分〟を見つけたんだと思う。

〝ちょうどいい私〟、どこにいるんだろう。

 

「ねぇねぇ、この写真の彩、かわいいね」
「ほんとだー、羽ハートいい感じ」

 鶴岡八幡宮の鳥居の前で撮ってもらった写真。あまりギャルっぽくならずに、かといって流行りを無視するわけでもない羽ハートのポーズ。
 でも、もちろん私だけ、違う。

「ありがとー。でも、みんなの方がかわいいよー。ポーズ揃っててアイドルグループみたいだね」

 皮肉っぽくならないように、少しすねるように言う。でも、そんな私の努力はお構いなしで、みんなはスマホ見ながらはしゃいでる。

「〝ストーリー〟上げとくねー」

 やめてなんて言えるわけがない。
 足元を鳩がぽこぽこ歩いていた。平和ぶらないでよ、と毒づきたくなるくらい、心は波打っている。

 横須賀線に乗って三駅、戸塚駅まで戻ってきた。改札で「お疲れ様ー、楽しかった?」なんて呑気に言っている足立先生に会って解散。解放。

「彩、お疲れー」
「あ、じゃあねー。みんなお疲れ様。今日はありがとう。また明日ね」

 何がありがとうなんだろう。何にありがとうなんだろう。みんな同じ方向に帰るはずなのに、私だけ、さようなら。

 楽しくなくはなかった。
 夏の鎌倉、きれいだった。美香ちゃん達ともそれなりに話せた。推しを『今月の少女(LOONA)』の箱推しにしたのも「渋ーい、いいよねー」とウケた。どこを訪れても、人は優しかった。外国人も多くて、いつもと違う感じもたくさん味わえた。でも、でも──。

 ほっぺたを流れる涙の生温かさにゾクッとした。見上げたら、デパートの上をカラスが飛んでいった。下を向いたら、私の影は中途半端に長かった。

 電源を切っていたスマホをかばんから取り出す。インスタを開いて、ストーリーを見た。ユーザーネーム「m____ikA.luv」をタップすると、日付が入ったさっきの写真が出てきた。確かにいい感じで撮れてる。

 でも、公開処刑。
 中の上わたしは、一軍女子に混ざったら、ただのオマケ。あんなに頑張ったのに。いっぱいYouTubeとTikTok見たのに。

 私って、誰?

 みんなに合わせていかなきゃいけないなら、私はいなくなる。でも、合わせていかなきゃ私は〝中の上〟ですらいられない。私はどうしたら私でいられるんだろう。また涙が溢れてきて、目の前にアスファルトがせり上がってくる。

 仲川先輩は、私の居場所作ってくれるのかな。他の誰でもない、「私」を見てくれるのかな。

 いつの間にか、夕陽台公園の近くまで歩いてきていた。ベンチに祥がいる。遠足行ったのかな、祥。

 少し前だったら、その姿を見つけたのが嬉しくて、部活の時より速く走って祥の隣に座った。でも、今は出来ない。私があまりにも私じゃないから。

 早く今日が終わってほしいのに、照りつける太陽は私を今日に留める。いつの間にか鳴き始めていた蝉の声が、ジジと慣れない様子で耳に居座った。

  

 下駄箱で靴を履き替えているとき、宿題で使わなければいけない国語便覧を忘れたのを思い出したから、「バイバイ先に帰ってねー」と奈津に言って、教室に戻った。誰もいなくて電気も消えている教室は少し不気味だったけど、机の中を探すとすぐに国語便覧は見つかった。これで、よし。

 わずかに重くなったかばんを背負って、足早に教室を出ようとすると呼び止められた。

「ねぇ」

 高音なのに、ねっとりとまとわりつくような声。忘れることなんてできない──冴ちゃん。

 私は平静を装って反応する。
「あれ? 今日、真琴とか優は?」

「あぁ、真琴とちょっと気まずくなったから、今日は別々」

 冴ちゃんの周りには、小学校の時からいつも人がいた。華やかで、面白くて、英語ができる。トップ・オブ・トップから民を見下ろす冴ちゃんの存在感は、中学校に入ってさらに絶対的だ。

「彩、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 今年、冴ちゃんに話しかけられたのは、初めてかも。なんならハブられて以来だから一年半ぶり。

「仲川先輩に告られたって本当?」

 その話か。さすがに耳が早い。カースト上位には、すぐに情報が吸い上げられていく。

「うん……」

 冴ちゃんにかかれば、廊下の蛍光灯もスポットライト。反射して輝く緑の黒髪をゆっくりとかきあげる。どんなシャンプー使ったらこんなにさらさらになるのかな。
 グラウンドからはサッカー部がボールを蹴る音と、誰かがはしゃいでいる声が重なり合って聞こえた。

「私さ、仲川先輩、いいと思うよ」

 冴ちゃんは、本当に私に言っているのか分からないくらい関係ない方向を見て、話す。

「真琴ってさ、結構かわいいじゃん? 時々ウザいけど、家もお金持ちだし、性格も私ほど悪くない」

 なんで真琴ちゃん? うなずいていいのか分からないから、前髪をつまんで整える振りをして間を作る。

「で、その真琴がさ。こないだ仲川先輩に告ったんだよ。真琴も『多分いける・オッケーもらえると思う』って自信があったみたい」

 えっ。

 びっくりしたけど、声に出さずに済んだ。冴ちゃんと話すときは慎重にならなきゃいけない。私の中の冴アラートは、まだちゃんと機能している。

──そうなんだ。仲川先輩、やっぱりモテるんだ。部活中もあんまり笑わないけど、背も高いし、何よりだれにでも最高に優しい。

「でもね、断られたんだって。真琴、かわいそうだよね。理由知りたい?」

 あぁ、もう完全に冴ちゃんのペース。この人は、自分のペースに人を巻き込むのがうますぎる。

「えっと、うん。教えてくれるの?」

 返事もせずに冴ちゃんは続ける。

「理由はね……、『彩のことが好きだから』、だって。『嬉しいけどごめんね』、だって」

 窓の外では、葉を茂らせたヤマモモの木が揺れている。

「それでさ、今日さ、先輩が彩に告ったって話を真琴がどっかで聞いてきたんだ。それで、さっきまでずっと泣いててさ、私も友だちだから慰めてたんだよ」

 なんか、ごめんなさい……。
 私、どうしたら。

「でもさ、ひとしきり泣いたら真琴が『彩、ウザいから、またあいつ小学校の時みたいにしない?』とか言ってきた」

 ウソ。勘弁して、あり得ない。

「そう、あり得なくね? 自分の失恋に私を巻き込むとかやばいでしょ。だからカチンときて『調子乗んな』って言って置き去りにしてきちゃった。言い過ぎたかな」

 やっと私の方を見て、ちょっと寂しそうに笑った冴ちゃんがびっくりするくらい美しくて、私はドキッとした。

「あ、うん。なんて言っていいか分からない。えっと、ありがとう、なのかな」

 フッ、と息を吐くように短く笑った冴ちゃんは、もう私を見ていなかった。

「で、言いたかったのは、仲川先輩と彩、お似合いだよってこと。あ、皮肉じゃないよ。本当に思ってる。いい感じだよ、二人」

 じゃね。

 短いスカートを翻して冴ちゃんは廊下を小走りに去っていった。

 小学校の時、大嫌いだった冴ちゃんの香りが鼻を掠めたけど、不思議と嫌な気はしなかった。

 

 

『祥、教えて』
『私のいいところってどこ?』

 祥に久しぶりに送ったLINE。すぐ既読がつく。

 祥はまったくスマホ中毒じゃないけど、既読と返信はおそろしく早い。本ばっかり読んでるから、きっと友だちがいないんだろう。

 案の定、すぐ返信がくる。この質問にすぐ返信できるってすごいな。

ポコン

『声がきれい』

ポコン

『察しがいい』

ポコンポコン

『私服の色使いがとてもいい』
『写真写りがいい。あぁ、もちろん現物も素敵だよ』

 それ、全部私が努力していないところ。
 〝中の上〟を意識していないところ。

ポコン

 写真が送られてきた。
 駅からの帰り道、私は下を向いて歩いている。逆光に照らされて……泣いてる? 

 何これ、また盗撮。圭司さんにやられた。
 でも、さすがだ。この私、すごくいい。

ポコンポコン

まだLINEは続く。

『ベンチへの座り方が、僕が知る限り一番ふわっとしている』
『一番、重力に逆らっている感じがする笑』

 何それ。

ポコン

『あ、あと』

 なんだろう。


ポコン

『足が速いから、警察に追われても巻くことができる』

 私は少しだけ笑って、画面をオフにする。真っ黒になった画面に映る自分と目が合った。もう一人の自分にうなずいて、私はスマホをしまった。

 

 

 終業式の日、部活が終わって帰ろうとしていると、いつの間にか仲川先輩と二人きりだった。部活で汗、たくさんかいたからムードがないけど、今しかない。

「先輩、お返事させてもらってもいいですか」

 仲川先輩は、意外そうな表情になった。
「うん。でも、全然返事くれないから、もうダメなのかと思ってたよ」

「お返事遅くなってごめんなさい。たくさん悩んだので、時間がかかってしまいました。でも、その前に一つだけ聞かせてください。先輩は、私のどこが好きなんですか」

 先輩はあごに手を当てたので、探偵みたいに考え込むのかと思ったら、思いのほかすぐに口を開いた。

「ありのまま、のところ」

 今回は照れることなく、真っ直ぐ私の目を見て答えてくれた。先輩の目、すごく深い黒色だ。

 ありのまま、か。私はちょっとだけ考えたけど、自分の中の答えと先輩が言ってくれたことがずれていなかったから、向き合ってお返事をする。

「ありがとうございます。すごく、嬉しいです。でも、今の私は私じゃないんです。だから、今の私のありのままを好きになってもらうと、どこかで失望させてしまうかもしれません。先輩、いつも優しくて落ち着いていて憧れています。だから、先輩を失望させたくありません」

 先輩は、やっぱりなって顔をしつつも、柔らかい表情になった。

「そうか。NOってことだね。……やっぱり彩は、僕が好きな彩だったってことがよく分かった。僕は待ってる。気が変わったらまた教えて」

 先輩がどこまでも優しくて、私のことを大事にしてくれそうで、私の決心は一瞬で揺らぎそうになる。

 ほんとに、ごめんなさいっ。失礼します──。

 荷物を手に取り、部室前から走り出した。

  


 

 走っていると、雫が落ちた。

 汗、だ。きっと。うん、絶対。

 これで良かったのかな。私、ひどいこと言ってないかな。
 ほんとに、ほんとにこの選択は正しいのかな。
 歩幅を狭くして、昼間の熱をまだ跳ね返しているアスファルトをゆっくりと踏みつけながら校舎脇を通り抜ける。先生たちの自転車置き場の周りは、少し雑草が伸びていた。

 校庭に出て、やっと顔を上げられた。まだ、明るい。
 私の目は、自然と校門の方に吸い寄せられる。


 私は駆け出した。校庭を砂埃が舞っていたけど、足は弾むように地面を蹴っている。

 速い。新記録かも。

 濡れた頬の水分を、疾風が後ろに飛ばした。


「待ってー」

 恥ずかしいくらい大きな声が出た。でも、自分で言うのもなんだけど、いい声。

 祥が振り返る。
 すでに目の前にいた私は、ぶつかりそうになって急停止した。

 私の強さは、私の弱さから生まれる。弱くなれ。

「途中まで、一緒に帰ろ」

 やっと言えた。
 本当は、いつも一緒に帰りたかった。

「もちろん、どうぞ」

 私は大袈裟にかばんを振ったりして、ちょっと気を引きたかったけど、祥はいつも通りなんか考えている。

 新しく始まった世界が、ごちゃごちゃに絡まり合った一学期だった。でも、想像力はその紐をゆっくりとほどいてくれる。解けた紐をまた少しずつ操って、これから形を作っていけばいい。形はいくらでも変えられる。一つの形にこだわる必要もない。

 優しさを口にしたら、誰かも、自分も、傷ついていく。

 優しい嘘はいらない。
 そう、私が、私であるために。


 おしまい

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