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ニューヨークの港で働いているのさ!

 フランス人ハーフのおっちゃんと、お台場にある港の倉庫バイトに行くことになった。

 みんなより鼻が高くて、髪を結んでいて、みんなよりも、すこしてきとーなフラおじ。

 彼はカセットテープとラジカセを持って仕事場にやってくる。そして、ラジカセをコンテナの中にあるかぎ爪に引っ掛けると、いつも音楽をかけだすのだ。こんな人、ふつーの職場にはいない。

 それアリ?と思うぼくを横目に、今日はデイビッド・ボウイが流れる。口笛を吹くフラおじ。コンテナ内に新しい音が反響して、聞き入ってしまう。作業効率は悪くなった気がする。

 だけどカッコいい曲だったから、ぼくは思わずこれなんて曲ですか?と聞いた。でも知らないらしい。だから曲紹介はできない。

 コンテナを一つ空にして、休憩時間になった。ものの15分くらいの休憩だけど、フラおじは寝た。そしてすぐ起きて、バックをごそごそ。

 おや、別のカセットが出てきた。カセットテープにはなにも書かれていないから、いざ曲が始まらないとアーティストがわからない。ぼくはそれを楽しみに休憩を終える。

 さぁ、フラおじが、例のごとくラジカセをコンテナ内に吊るした。ぼくは手を動かしながらも、耳をそちらに向ける。流れたのはマイケル・ジャクソンだった。どうやら、ソロアーティストがお好きらしい。

 コンテナ内に響くポップ。こんどは何曲か知っていたから、意識がきちんとコンテナ内の積荷へ向く。ぼくたちが運んでいたのは、アメリカからやってきたポップコーンだった。重さ25キロ。

 フラおじとマイケルとアメリカから来たポップコーン。

 外の世界への視界が閉ざされた状況は、ぼくをニューヨークの港にいるように思わせた。

 そうだ。ここは90年代のニューヨークだ。俺はフランス人と一緒に、この国で生きていくために、キングオブポップを聴きながら、ニューヨークのマンハッタン港でポップコーンを運んでいる。

 そう思えたら、なんだか急に悪くない気がした。ニューヨークの港で働くことも、日本のここで働くことも。

 

 

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