見出し画像

戦略と実行力と「反共」 追悼・安倍晋三

安倍晋三氏の最大の功績は安全保障だろう。日本版NSC創設から始まり、中国台頭への警戒心から、中国を包囲するアジア地域安全保障の枠組み作りに取り組んだ。

対ロシア、対北朝鮮で成果が乏しかったとはいえ、ウクライナ情勢で日本が素早く西側の立場を鮮明にできたのも、そうした戦略家・安倍晋三の遺産があったからだ。

世界の中で、日本を、国家意思を鮮明にできる国にするーーそれが安倍氏の目的だった。改憲も彼の中ではその一環だったろう。

その目的は偉大であり、それをかなりの程度「形」にした実行力は讃えられるべきだ。


しかし、その思想的バックボーンは「反共保守」であり、それが、日本の共産主義者の憎悪を誘っただけではない。丸山眞男的な「反・反共主義」「容共主義」を旨とする日本の戦後思想、それを体現する朝日・毎日新聞のイデオロギーと絶えず衝突した。

安倍氏の「反共保守」は、夫婦別姓や同性婚などジェンダー課題への抵抗、男系天皇制固守などに現れた。

だが、日本会議など、反共保守層にリップサービスを払いながらも、たとえば教育勅語を復活させるといったような右翼的施策にはまったく向かわなかった。

朝日・毎日からの「ヘイト」的バッシングにも、「それが民主主義だから」と耐えていた。社会政策は全体としてリベラルな体裁を保った。それは朝日・毎日に遠慮したわけではなく、彼の人間性だったと思う。彼の「反共」は、岸信介以来の「家業」の色合いが濃かったのではないか。

しかし結局、安倍氏の統一教会(韓国右翼)との関係が、噂されるとおり暗殺犯の怒りを買ったのだとすれば(まだ動機は不確定だが)、その「反共」性の暗部が、自家中毒的に彼の命を奪ったと言える。




安倍政権の「政治主導」「官邸主導」は、様々な批判があったが、民主党ともども追求した、官僚主義からの脱却という課題への答えであり、成果であった。

アベノミクス、超金融緩和政策は、はっきりとリベラルな施策である。円高是正、失業率改善、株高はその成果であるが、構造改革やイノベーションと結びつかず、結末は混沌としている。

しかし、「失われた20年」から脱却できるかもしれない、という希望を国民に与えた。若い層には、その希望が糧になった面があるだろう。

コロナ対策では、世界の中で低い死亡率に抑えることに成功した。

持病を抱えながら、困難な時代に長期政権を担った。最大限の敬意と謝意を表したい。


安倍晋三は演説になると燃えるタイプだ、と私は書いたことがある。

その演説の最中、選挙民の前で斃れたのは、政治家として本望だったと思いたい。



強力なリーダーシップがあった彼の死により、たとえ参院選で与党が勝ったとしても、彼の描いた国家ビジョンはーー改憲機運を含めてーー後退するだろう。

野党が選挙で負けたとしても、結局は護憲派、共産党と朝日・毎日新聞の勝利なのか。

日本は再び「曖昧な国」になるのか。

安全保障環境もあやうい。

彼のビジョンだけが日本の進路とは思わない。しかし、進路を描けない国になれば、日本は没落する。

世界の荒波の中で、翻弄されていく日本の末路が心配だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?