ネット世代は世間を知りすぎて「愛」を信じない Netflix「Beef(逆上)」を見て
Netflix話題の新作ドラマ「Beef/ビーフ(逆上)」は、「1980年代生まれ」の思いがこもっている。
韓国生まれのスティーブン・ユアン演じる主人公は、
「我々がティーンエイジャーの時にネット時代になった。我々は実験台になったんだ」
と言う。
主演の2人、スティーブン・ユアンは1983年生まれ、アリ・ウォン(中国系アメリカ人)は1982年生まれ。両者が、このドラマのプロデューサーも務めている。
どちらも10代前半に「ウィンドウズ95」と出会い、青春をネット文化の中で送った最初の世代だ。
彼らが社会人になるころにEコマース全盛となる。アリ・ウォンが演じるのは、成功した起業家という役だが、彼女の知識がネットからの情報だったことが、ドラマの後半である問題を起こす。
彼らは、ネットを通じて、細かな専門知識や、社会の裏情報を知っている。極めてもの知りなのだが、一方で、人間関係が根本部分で不器用で、人を愛したいのに愛せない、虚しさと不条理に苦しんでいる。
彼らは自分たちを、ネット社会の被害者だ、となんとなく感じている。
SNSの中での「なりすまし」や「承認欲求」の蔓延が、彼らの人格形成に大きく影響しており、それが彼らの実人生をゆがめている。
「自分は偽者ではないか」というアイデンティティーの不安、いわゆるインポスター現象の悩みや、家族の中でも「マウント」を取り合い、「承認」への飢餓感に苦しむ。
ネットやSNSは、さんざん映画やドラマの題材になってきた。それに対して、このドラマは一見、それらが主題とは思えない。
しかし、ネット世代自らが、その人格の中に内面化されたネット社会の問題を、ドラマ化して告発した、初めての例かもしれないと思う。
2人は、探していた「愛」にたどり着けるのか。それはドラマを見てのお楽しみだが、物語の舞台が、次第に「ネット空間」から離れていくところに、彼らのドラマのメッセージがあると思う。
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