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【Disney +】「カジノ」 チェ・ミンシク主演 「386世代」のヤクザ叙事詩

<概要>


ディスニープラスで始まった、チェ・ミンシク主演の韓国ドラマ。韓国からフィリピンに渡り、カジノ業で暗黒街をのし上がっていく男を描く。現在、シーズン1の3話まで配信中。

<あらすじ>


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<評価>


全16話のうち、公開されているのは、まだ3話だけ。

今のところ、主人公の生い立ちを説明する段階で、話はそれほど進んでおらず、評価も「まあまあ」だ。

主人公は1965年生まれという設定。私とほぼ同世代なので、自分の人生と重ねて、楽しく見ている。


この世代は、韓国で「386世代」という。1990年代に30歳代で(3)、1980年代に民主化運動にかかわった(8)、1960年代生まれ(6)のこと。

韓国の中でも、進歩的と言われた世代だ。韓国映画界では「パラサイト」の監督ポン・ジュノ(1969年生まれ)が「386世代」の代表のように言われる。このドラマで主人公を演じるチェ・ミンシク(1962年生まれ)もそうだ。

日本で言えば「新人類世代」にあたるが、その歩んできた道は、ずいぶん異なる。

主人公の1970年代の少年時代がまず描かれるが、同時代の日本よりもかなり貧しい。まだこの頃は、GDPでも日韓で大きな開きがあった。(それが今や一人当たりGDPで韓国に抜かれるというのだから時代は変わった)

より対照的なのは1980年代だ。日本はバブル期だが、韓国は全斗煥の軍政下で、激しい民主化運動の時代だった。日本の若者がディスコでフィーバーしていたとき、韓国の彼らは機動隊にボコボコにされていた。

ドラマの中で、主人公は「北の工作員」と呼ばれる。なぜそう呼ばれるのか、まだはっきり説明されていないが、「386世代」は一般に「親北」であるとはよく言われる。民主化運動を経て、それまでの「反共」一点張りから転換した世代だった。

「386」世代は、政治経済や文化を牽引する、韓国のホープのように言われたが、このドラマは、その世代の転落を描くところに、たぶん1つの狙いがある。


チェ・ミンスクのドラマ主演は約25年ぶりということだ。物語の雰囲気や演じる人物像は、2012年の映画「悪いやつら」によく似ている。


「悪いやつら」(2012)


「悪いやつら」でチェ・ミンスクが演じたのは、自分にとっては10歳以上上の世代のヤクザだった。このドラマでは、自分の実年齢とほぼ同じヤクザを演じるわけだ。

ただ、大きな違いがある。

「悪いやつら」でチェ・ミンシクが演じたのは、

「(本質は)一般人なのに、ヤクザのつもりになっている男」

だったが、こちらで演じているのは、

「(本質は)ヤクザなのに、一般人のつもりになっている男」

のようなのだ。


「悪いやつら」では、「本物のヤクザ」は、ハ・ジョンウが演じていた。

そういえば、「悪いやつら」のハ・ジョンウ演じるヤクザは、「三清教育隊」で暴行を受けて、障害が残っているという設定だった。

「三清教育隊」とは、1980年代の全斗煥時代、「共産主義者を中心とした社会のゴロツキどもを一掃する」目的で作られた矯正施設だ。

共産主義者だけでなく、暴力団員や民主化運動の学生たちも入れられ、精神的・肉体的虐待を受けたという。

とくに「386世代」にとっては、忘れられない韓国現代史の暗部のようだ。ヤクザと学生活動家の接点にもなった。

1980年代の学生である、「カジノ」の主人公の物語の中でも、それが登場するかもしれない。


今のところ、ヤクザの物語とはいえ、派手な暴力シーンはほとんどない。アクション主体ではなく、人間ドラマと言うべき。

ヤクザの父親を憎み、まともな人生を目指したはずの主人公が、なぜこうなってしまったのか。

子供の頃(1970年代)、高校・大学生の頃(80年代)などで別の役者を立て、現在と過去を往還しながら、その人物像を丁寧に描いていくようだ。


序盤はスロースタートに思われたが、違法カジノで当局に追われる2話目の後半あたりからぐんぐん面白くなってきた。

それでも、物語のテンションがまだ低いのは気になる。フィリピンでの派手な展開は4話以降だろうか。

刺青だらけのヤクザ「サング」役、ホン・ギジュンのふてぶてしい表情がいい。彼なんかが派手に暴れる展開を期待したい。






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