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レジリエンスとは何か①~人と地球環境で今求められていること〜

昨年の春頃に「不都合な真実」(アル・ゴア著)の訳者でもある枝廣淳子さんに今現在の活動についてお話をお伺いする機会があった。

以前は同時通訳などの仕事もされていたそうだが、当時は地球環境問題について国内外では懐疑的な意見もあり、サミットや国際会議で環境問題に後ろ向きな発言を通訳しなければいけない状況が多々あったそうだ。

地球環境問題に触れ、しかし自分の思いと反したことを通訳しなければならないことに違和感を感じ、高給だったその仕事を辞め、自ら地球環境問題に取り組むようになったと、華やかな経歴とは裏腹に楽しそうに穏やかに話す枝廣さんが印象的だった。

彼女にはたくさん著書があるが、そのうちの一冊が「レジリエンスとは何か」~枝廣淳子さん著~だ。

「レジリエンス」とは何か?

レジリエンスは、第二次世界大戦下のホロコーストで孤児になった子どもたちを追跡調査する過程で注目されるようになる。
その追跡調査では、
「過去のトラウマから抜け出すことができずにいる元孤児」
「トラウマを克服し、充実した人生を送っている元孤児」
の双方が存在すると判明した。

その違いは、
「ストレスなどの外的圧力を撥ね返す復活力」
「逆境や困難に押しつぶされることなく外的環境に順応していく適応力」
にあることが分かったという。
この「適応力」「復活力」が、レジリエンスの本質といえる。

深刻で辛い経験を同じようにしたとしても、人によって心境の差、その後の人生において差が出るのはどうしてなのだろう?

本書の中で興味深い考察があった。

アメリカのペンシルバニア大学のセリグマン博士がレジリエンスについてプロジェクトを立ち上げた。その中で、小学校の教師が生徒に対し、どのように注意するのか調べた研究があり、男の子と女の子とでは注意の仕方が大きく異なるという結果が出た、というものだ。

女の子がうまくいかないと、教師はその子に対して「能力がない」と批判する傾向があるという。

それに対して男の子が成績がふるわないと、「努力が足りないから」「騒いでいるから」「注意を払っていなかったから」と注意する傾向があった。

うまくいかないのは「能力がない」せいだと言われれば、永続的な原因となり、うまくいかないたびに悲観的な思いが刷り込まれていくだろう。

しかし、「努力」「注意」「行動」を批判されれば、それらは一時的なもので、本人の努力次第で改善される余地は十分にあり、希望的観測ができる。

今はこういった男女の差など教育の場では改善されてきているとは思うが、パワハラやモラハラ、毒親などが取りただされているのはこういった、無意識のうちに自己否定感を植え付けるような言葉をなげてしまっているところにあるのかもしれない。この研究はレジリエンスを発揮できない例としてわかりやすいと感じた。

レジリエンスを作り出す技術としていろいろな研究が各国でなされ、実験的に学校や会社で取り入れられているが、その中でオーストラリアで政府が実施しているプログラム、「バウンス・バック!(Bounce Back!)」というものがある。このプログラムは教育者で心理学者のトニー・ノーブル氏とヘレン・マクグラス氏が2003年にはじめたものだ。

B: Bad times don’t last. Things get better. Stay optimistic.
悪い時期は続かない。物事は好転していく。楽観的でいよう

O:  Other people can help if you talk to them. Get a reality check.
話せば、誰かが助けてくれる。現実を把握しよう。

U: Unhelpful thinking makes you feel more upset. Think again.
役に立たないことを考えても、さらにどうしてよいかわからなくなる。
考え直そう。

N: Nobody's perfect. Not you and not others.
完璧な人はいない。あなたも、ほかのみんなも。

C: Concentrate on the positives, no matter how small and use laughter.
どんなにささいなことでも、明るいことに目を向けよう。
笑いの力を活かそう。

E: Everybody experiences sadness, hurt, failure, rejection, and setbacks sometimes, not just you. They are a normal part of life. Try not to personalize them.
誰だって悲しんだり、傷ついたり、失敗したり、はねつけられたり、つまづくことがある。あなただけではない。生きていれば当たり前のこと。自分だけだと思わないようにしよう。

B: Blame fairly. How much of what happened was because of YOU, OTHERS or BAD LUCK.
非難するなら正当に。
「あなた」、「他の人」、「不運」のせいで起こったのはどのくらい?

A: Accept what you can't change and try and change what you can.
自分で変えられないことは受け入れて、変えられることを変えていこう

C: Catastrophising exaggerates your worries. Don't believe the worst possible picture.
ささいなことを大変なことのように扱っていたら、悩みが大きくなってしまう。最悪のシナリオなど信じないこと。

K: Keep things in perspective. It’s one part of your life.
広い視野を持とう。このことは人生のほんの一部にすぎない。

レジリエンスにはまず、「自己肯定感」「自己受容」が出発点になる。

存在自身を肯定することから始める
その結果、
後天的な部分に着目して物事を考察し、改善する方向へ向かうことができる

これがレジリエンスのメカニズムだ。

特に苦痛経験が多いほどレジリエンスが高い傾向にあるそうである。

辛い経験をした人ほど人に優しくなれるのはレジリエンスが高い、ということでもある。

そしてレジリエンスとは、特別な力ではなく、誰もが本来持っている力であることを知ってもらえたらと思う。

つづく

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