見解7『おもひでぽろぽろ』タエ子を引き戻した本当の理由は車中で...
前回は〜見解6『おもひでぽろぽろ』カセットテープの秘密〜でした。
高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ 』の考察コラム。
ネガティブな見解が高畑監督ですしどうしても多くなってしまいますが、今回はこの映画で唯一と言っていいほどポジティブでドラマティックな考察をしていきたいと思います。
トシオは、山形駅に急に迎えに行く事になったと言っていますが、本当の理由はわかりません。
しかし、1年前大勢の男達の中でタエ子を見に行った1人ですし、一夜漬けの豆知識や蔵王デートの誘いなど、やはり誰が見ても好意があるのはわかります。
なので、
男としてやはりこの10日間で、それなりの結果を出さなくてはいけない使命にかられているのは、もはや20代男性として当然です。
(この10日間というのはタエ子のとった有給日数ですので引き返す余裕もある事から実際はもう少し短い可能性があります)
では、トシオはタエ子の旅の間に何か男を上げる様な事をしたのでしょうか?
実はトシオはちゃんと結果を残していました。
それがラストでタエ子を引き戻させた理由の1つになっています。
それは、トシオとタエ子の最終日前夜、タエ子を拾った愛車R-2の車中です。
タエ子はアベ君の話を始めます。
トシオは数回ギアチェンジを繰り返しながらタエ子の話を聞いています。
少し走り出すとギアに手を置くトシオの手とギュッと握るタエ子の手が写ります。
その後
『お前とは握手してやんねえよって』と言うと
ギアから一瞬手をタエ子の手を握るか迷うトシオの手が写ります。
しかしためらいサイドブレーキを引きます。
タエ子は再び自分の手を強く握ります。
ここまでの流れでトシオは手を握るかと期待していましたが、特に進展もなく車のシーンは終わりを迎えるように見えます。
話しも終わり本家に帰りましょうと言うと
トシオはテープをかけます。
そう前にも話しましたがトシオのテープのボリュームは、タエ子の気持ちの高鳴りと比例しています。つまりボリュームが大きければ大きいほどタエ子の気持ちは高鳴っている事を意味しています。
ですのでボリュームはタエ子の気持ち同様大きめの音で流れています。
見解6『おもひでぽろぽろ』カセットテープの秘密
トシオの背後から2人を写す様なアングルになるとトシオが少し傾きます。
すると
ギアに手をかけるトシオの手が写り同時にギアを変える音がします。
つまり後ろのアングルの時傾いたのはギアを変えるために傾いたのがよくわかります。
そして手がギアから離れて中途半端なところで止まります。
再び後ろからのアングルになりギアを入れた動きと同じ様にまたトシオが傾きます。このタイミングを " A " とします。
しかしギアの音がしません。
この時のタエ子のセリフは
『トシオさんが私より年上に思えた』です。
その後タエ子は
『私が今握手してもらいたいのは……
トシオさんだった』と言います。
『握手だけ?』のセリフの時に今度はタエ子が目線を上げます。
このタイミングを " B " とします。
そして以前話したトシオの2回目の幸福感を表現するヨーロッパのイメージシーンになります。
今回は曲がイタリアの曲なのでトスカーナです。
トシオの気持ちが晴れ晴れとしています。
音楽のボリュームはタエ子の気持ちですのでマックスです。
つまりどういうことかと言いますと、
Aのシーンでトシオが手を握ります。
Bのシーンでタエ子が握り返す。
と考えると全てがしっくりくるのです。
タエ子のセリフをかぶせてみるととてもよく分かります。
ではもう一度流れで観ていきましょう。
タエ子の思いから始めます。
『私は 自分がトシオさんをどう思っているのか、
トシオさんは私のことをどう思っているのか、
初めて考えようとしていた』
『偶然とはいえ私のひねくれた心を
当のトシオさんに解きほぐしてもらうなんて、
どうしてこれほどトシオさんに甘えることができたのか
不思議だった』
トシオがギアチェンジする為、少し傾くとギアの音がします。
手がギアから離れて中途半端なところで止まります。
後ろのアングルでまたトシオが少し傾きます。
今度はギアの音はしません。手がギアにいっていないからです。
これが手を握った動作です。
突然手を握られたタエ子はこう言います。
『トシオさんが私より年上に思えた』
そして、
『私が今握手してもらいたいのは……トシオさんだった』と言います。
『握手だけ?』のセリフの時に今度はタエ子が目線を上げます。
この時にタエ子はトシオの手を握り返します。
そしてトシオの幸福感を表現するトスカーナの田舎のイメージシーンへ。
音楽もマックスです。
現実に戻ります。
実は、、、
この時のトシオの鼻が少し高く描かれています。
(いずれも写真左が鼻高々のトシオです。上が絵コンテ、下が映画です)
トシオ鼻高々。
やってやったぜと言う感じでしょう。
ちなみに写真でわかる様に絵コンテでも高く描かれています。
(絵コンテの段階ではトスカーナに行く前、つまりタエ子が握り返した時に鼻が高く描かれています。場所を少し変更したのでしょう)
また、絵コンテでバックショットから手を握る動作のシーンは追加のカットの指示があり、ギアのバックショットと同じ物を使う様に指示されています。このシーンの重要性が伺えます。
トシオの肩の動き、ギアの音、BGM、トスカーナ、トシオの鼻、セリフのタイミング。
本当におしゃれな見せ方ですね。ただ手を見せる数が多い気がします。あきらかに誘い込まれた感じがしました。
最後の林に愛車のR-2が消えていくシーンで一瞬トシオの左手が写りますが
しっかりハンドルを握っているのがまたにくいです。
せっかくこんなおしゃれな表現をしたのに、見せてしまったら元も子もありません。
いわゆる、分かる人が分かれば良いと言ったところでしょう。
このトシオの頑張りが決定的かは定かではありませんが、ラストでタエ子を引き返させた理由の1つである事は間違いありません。
トシオがとてもカッコよく見えた夜でした。
次回は
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