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ヴェネツィア風干し鱈のペーストとサッカー観戦と2006年のサッカーW杯

#創作大賞2024
#レシピ部門
#フードエッセイ

鱈のペーストはベネト地方が発祥で町により、人により、作り方はかなり異なる。

ベネト地方内でもヴェネツィア風は基本、干し鱈を茹でるなどして火を通しオイルと混ぜるだけだが、ヴィチェンツァ風は始めに炒めてその他の材料と煮込む。

少数の食材で作るヴェネツィア風が個人的には好みです。

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イタリア語でバッカラ・マンテカートと呼ばれるこの料理。
まず注意しなければいけないのは材料。

イタリア各地で塩漬けの鱈のことをバッカラと呼び、干し鱈のことをストッカフィッソと呼ぶ。

ところがベネト地方だけはこの呼び方が逆転する。

ベネト地方では塩漬けの鱈のことをストッカフィッソと呼び、干し鱈のことをバッカラと呼ぶ。

だからベネト地方発祥のバッカラ・マンテカートは、実は塩漬けの鱈=バッカラではなく干し鱈=トッカフィッソで作る。

イタリア人でも知らない人は少なくないし、私も始めは知らなくて長年バッカラ=塩漬けの鱈でこの料理を作っていた。まあそれはそれで、それなりにおいしいのだけど。

塩漬けのバッカラも干し鱈ストッカフィッソもノルウェーから輸入される。
ノルウェーの鱈干し風景(写真はwikipediaから)

更に、干し鱈の火の通し方には沸騰したお湯に入れるだけで煮ない人、3分だけ煮る人、10分煮る人 30分も煮る人など個人差が大きい。
本場ベネト地方では加熱せず12時間牛乳に漬け込むという方法もあるらしいが、ジャッロ・ザッフェラーノと言うイタリアのメジャーレシピサイトでは、それは推奨しないという。

私はステファニア・ジャンノッティの「粉砂糖」にある方法が一番良い様に思うので(想像の範囲で)そのレシピの通りたっぷりのお湯が沸騰した時点で火を消し、そこに干し鱈を入れ10分、という方法を採用している。1分長くても1分短くてもいけないと言う。本当かな?

タミーは3分だけ煮るという。

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干し鱈のペーストは前菜にもメインディッシュにもなり、クリスマスなどの時別な日の食卓に乗せても見劣りのしない立派な一品だが、私は2年に1回この時期に作る。

この時期。サッカーのW杯、欧州杯の時期。

今サッカーの欧州杯、欧州選手権の真っ最中なので前回の優勝国であるイタリアではそれなりに盛り上がっています。グループステージ最終戦ではまさかの退敗、、と言う状況が40分以上続いたものの、試合終了30秒前の同点ゴールでグループ2位でノックアウトステージへ。

仕事で毎週やっている職業サッカーには興味無しでも、選手がそれ以上のものを発揮するワールドカップ、ヨーロッパカップだけ見るので、2年に1回この時期だけ、サッカー観戦をすることにしています。

そして、干し鱈のペーストを混ぜるときフードプロセッサーは使わず、陶器の器に入れ、オリーブオイルを徐々に加えながら手で回す、という方法で作ります。
そしてちょうど良いかなと思うようになるまでに最低でも45分かかり、ちょうどサッカーのハーフタイムの長さ。大抵はサッカーの試合開始から混ぜ始め、前半45分では足りない感じがするときは後半も混ぜ続けます。

テレビは持っていないので、日頃ストリーミングで何かを見るときもスポーツ観戦以外は画面の前で見てるだけ、ということはまずないのは、「何もしないでテレビ見るなんて時間が勿体無い。」というのが口癖でテレビを見るときも絶えず何か手仕事をしていた母を思い出し気が咎めるからかもしれません。

だから、極めて稀に画面の前に長時間座る2年に1回。ワールドカップ、ヨーロッパカップの時期だけに、細かい手仕事は不要の干し鱈のペーストを作ることになるのです。

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でもイタリア代表チームの試合の時は、干し鱈のペーストは忘れ、友人たちと集まってヤジを飛ばしながら観戦するのが王道。

イタリアが優勝した2006年のサッカーW杯グループ観戦の話はレシピの後に。

<3ー4人分材料>
・干し鱈・もどしたもの 330g

・エキストラバージンオリーブオイル 100ml 
*イタリアのレシピを見ると大抵は 干し鱈 1/2 か 2/3の量のオイルを入れることになっているのですが、日本人の私には多すぎて1/3程度の量で十分かと。。。

・イタリアン パセリ

・塩 4-5g 好みで加減
・ニンニク 入れたくない人は無しでもOK

*他に牛乳を少し入れる人もいます。

*今回はイタリアンパセリを多めに入れましたが、なくてもOK

<準備>
干し鱈はたっぷりの水につけて、1日2、3回水を変えながら2、3日以上放置して戻す。
急いでいる場合は、すでに戻してあるものを買う。

<作り方>

1・大きめの鍋にたっぷりの水を入れ沸騰させる。

2・沸騰したら火を消し、干し鱈を塊のまま入れ、蓋をして10分経ったら引き上げる。レシピ本「粉砂糖」によると、一分長くても、一分短くてもいけないという。干し鱈を煮ると硬くなってしまうから。

3・ざるに上げ、粗熱が取れたら、骨があれば取ります。

4・陶器の深めの鉢に入れオリーブオイルを徐々に加えながら手で一方向に回す。
*少し右方向に回したら今度は左方向、というのではいけないそうで、必ず同じ方向に回さないといけないのだそうです。何故かは知らない。

5・オリーブオイルは怖いくらいかなりの量を入れる入れても入れても鱈がスポンジのようにオイルを吸い込んでいく。牛乳少々を入れるとまろやかになる。ニンニクが好きなら潰したものを入れるが、特になくてもそれなりに美味しい。 全体がホイップクリームのように混ざったら出来上がり。
*約45分混ぜたてもまだ滑らかでない場合は試合後半も混ぜ続ける。

5・好みでイタリアンパセリを盛り込んでも良い。
*今回はイタリアンパセリを多めに入れました。

6・パンに塗るか、ポレンタと一緒にいただく。
*前菜として食べる場合はパンに塗ることが多く、メインディッシュとして食べる場合はポレンタ(コーンミールを粥状に煮た北イタリア料理)が添えられることが多いように思う。

<プレゼンテーション>

・ペースト状で形のない料理なので、深めの鉢などに入れて出す人もいますが、せっかく長時間かけて作ったペースト、上品に見せたい時は、適当な大きさのボールにラップを敷いて形を作り、お皿に移します。

今回は少し油が滲み出で失敗の一歩手前の残念な感じ。。。。。普段は目分量でオイルを足すのですが、今回は、下手にイタリアのレシピサイトなど見て、真似してオイルを入れ過ぎたのが敗因でしょう。

初日半分だけ食べたので、翌日のために小さな型にラップを敷き詰め直すと、食べる時まるで作り立てのような印象になります。

翌日はこんな感じで、前日多すぎた感じのオイルが馴染んでいました。


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2006年のサッカーW杯グループ観戦

2006年のサッカーW杯の準決勝ドイツVSイタリア戦は延長戦に入っていた。
もうPK戦にもつれ込み、ドイツより選手が精神的に弱いイタリアは退敗かと諦めかけた頃にファビオ・グロッソが奇跡的な角度のゴールを決めイタリアが1点リード。魔法が解けたようにドイツチームの堅い守りがが崩れていく。勢いに乗ったイタリアはスター選手アレッサンドロ・デル・ピエロがもう一点、いかにもベテラン名選手らしいゴールでトドメを刺し、PK戦にもつれ込むことなく0-2でイタリアが決勝進出を決めた。

私たちはその試合を友人クループと観戦するためポルタ・ロマーナ大通りにあったロベルトの家のテラスに集まっていた。十数人だっただろうか。

ロベルトは決勝出場が決まったことに満足しながらも、「ああ、決勝の日は仕事でフィレンツェなんだ。どう頑張っても7時には家に帰れない。」と残念そうに言った。

「準決勝は二戦とも夜7時始まりだったけど決勝は夜8時試合開始よ。」と私。
「本当?ほんとうに?」そんな都合のいいことがあっていいものかと半信半疑のロベルト。

それでは、ということで日曜の決勝も皆で集まって観戦することに決定。

代表チームの試合があるときは、家に一人でいて試合を見てなくてもイタリアが何点取っているかわかる。あちこちでそういう集まりがあり、得点する度に近所が大騒ぎするので。困るのは対戦相手が何点取っているかはわからないところ。得点したらしい大騒ぎが何回あっても必ずしも勝っているとは限らない。

でもやっぱりサッカーが国民的なスポーツであるイタリアでは代表チームの試合は友人たちと大勢で観戦するのが定番。友人の家やスタジオ、できればビデオ・プロジェクターを持っている人のところに集まって大画面でヤジを飛ばしながら見る。

サッカー観戦のつまみにはビールとピザがベーシックだが、その他の食べ物は持ち寄りが多く、私は干し鱈のペーストを作ることも多い。

そして対フランスの決勝の日、アントが用意した大量のコッパ( 豚の首と肩肉のハムは、ワールドカップの「カップ」と同音同表記の違語)をテーブルに並べ、私たちはグループ観戦に挑んだ。延長も同点が続き、PK戦にもつれ込みイタリアは優勝した。

勝ったらみんなで優勝を祝うのかと思っていたのに、それまで熱く観戦していた皆は急ぎで帰りの支度をし始める。一瞬なぜ?と思ったが、なるほど。車で来ていた人たちは、優勝の祝いに町に繰り出す人々で交通が麻痺するのを恐れて急いで帰るのだった。

自転車で行った私にはそういう制約はなかったので、その場にゆっくり残り、監督、選手のインタビューを聞いた後、ロベルトと優勝を祝う人々を眺めようと町に散歩に出た。

町中が沸き立つように狂喜していた。

2006年はカメラを持っていなかったので、写真は2020年、欧州杯優勝の夜。
このように、人も車もバイクも自転車もごっちゃになって街に繰り出す。

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後日談

丁度その年、デザインコンペの審査員をした。
世界で最も飲まれているというイタリアのビールのメーカーが、国際的な評価を得ているのに国内で正当な評価を得ていないとい言う理由でイタリア的なものの良さ、をテーマにした学生向けのデザインコンペだった。

W杯の決勝が7月中旬。コンペの締切が7月末。
優勝に酔った学生達が、膨大な量の駄作を応募して来るのは作品を見る前から簡単に想像できたが、コンペティションの応募作の質はかなり悲惨なものとなった。。。。。

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