税務調査の話 その8 〜非違事項別解説② 現金売上の除外〜
元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回は不正の一つである売上除外のうち、現金売上の除外を取り上げます。
これまでの記事(税務調査の話その○)
売上除外とは
売上を意図的に帳簿上計上しないことを売上除外といいます。ただし、単に売上を計上しないだけでは、複式簿記を前提にすると、相手勘定の現金や預金(現預金)の残高と合わなくなってしまので、何らかの細工をしなければなりません。なお、売掛金や受取手形はいずれ現預金で回収されるので、やはり現預金と辻褄を合わせることがポイントとなります。
ということで、売上除外の手口と言った場合、現預金を隠す方法を指すことになります。
このような行為は、仮装・隠蔽を伴うため、税務調査により発覚した場合は、本税に加えて重加算税が課税されます。脱税ですね。
重加算税の税率は、本税の35%(一定の場合40%)にもなるため、脱税は大変厳しい制裁を受けます。さらに一定金額以上なら刑事罰の対象にもなります。
それでは、売上除外の手口について順番に見ていきましょう。今回は、現金売上の除外です。
現金売上の除外
通帳に記録が残らないので、請求書控え・領収証控えを破棄・隠匿してしまえば、なかなか発覚しません。特にこれらの証拠書類を破棄された場合、売上除外の事実を発見するのは困難を極めます。
お金に色はないので、社長個人の財布に入れてしまえば、大体はこれでもう分からなくてなってしまいますし、更にこれを個人的に使ってしまえば現金のたまりもなく、証拠は霧散してしまいます。状況証拠的に羽振りが良くなったことが証拠だ、なんてことが書いてある書籍もあるようですが、こんなので修正申告を迫れるなら調査官も苦労しません。
なお、飲食店等の現金商売については、既に記事にしていますので、こちらをご参照ください。
ここでは、飲食店等以外について取り上げます。
領収証控えの綴りを破棄せずに、単に隠しているだけの場合があります。後ろめたさがあるとか、お客さんの管理の都合で残しておきたいとか、理由は様々かと思います。
現況調査
経理担当の社員が触れる場所では、身内にすぐバレてしまいますので、事務所内で隠すなら、社長の机の引出しやカバンの中というのがポピュラーです。なので、調査官は、社長の机の引き出しやカバンの中を見せるように言ってきます。これを現況調査と言います。
プライベートなものもあるので…と言って抵抗する社長もいます。こういう場合、調査官は
と説得に入ります。カバンはなかなか抵抗が強いことも多いですが、売上除外の蓋然性が高い場合には、粘り強く説得します。
筆者の経験した事案
筆者がとある電気工事業の会社を調査したときの話です。アテがあったわけではありませんが、取り敢えず社長の机の引き出しを見せてください、とお願いしたところ、素直に応じていただけました。
すると、領収証控えの綴りが一冊出てきました。概況聴取では現金売上はないと聞いていたので、これは変だなとなります。一般的に振込の場合は領収証を発行しないのが通常です(相手の要望で発行することはあります)。
実は…ということで、電気工事の売上以外に家賃収入があり、それを現金で受け取っているということが発覚しました。もちろん顧問税理士も知りませんでしたし、当然売上の計上はしていません。
ここで終わらないのが税務調査です。これ以外にもありますよね、とカマを掛けます。
ここまで来ると観念する社長も多いものです。社長の車のトランクに大量の領収証控えの綴りが保管されていました。調査官から見たら宝の山です。
結局、過年度に遡った分を含めて1000万円近くの家賃収入を除外していました。
証拠書類の隠し場所
社長の自宅に保管されてしまうと、証拠書類から売上除外を発見するのはかなり難しくなります。何らかの端緒を掴んでいて、事務所内を捜索しても証拠が見つからないといった場合でないと、自宅まで調べることにはなりません。そこまでする必要性がありますか?となってしまいますから。
おわりに
今回は現金売上の除外に絞って記事にしました。次回は振込売上の除外を取り上げます。お楽しみに!
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