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かいよ
2020年9月20日 07:37
日影は木々の間を抜け深緑色の淵の水面を照らしている。少年はその淵から流れ出るせせらぎにそっと両手を沈めていた。流れてくるのは水の声。そして草木の、そこに棲む生き物の声だった。総じて山の声とでも云うのだろうか。時には、そのどれとも違う声までもが流れてくる。それらを何と呼ぶのか、少年には分からなかった。〈…アノコ、マタキテルヨ…〉〈ウンウン、マタキテルネ…フフフ〉少年は水のせん
2020年10月9日 21:18
病院に着くとポツリポツリと雨が降り始めた。真崎は相賀小鉄から事前に聞いていた番号に電話をする。時刻は17時半を過ぎていた。「もしもし、柏木です」若い男が出た。「真崎です。柏木君の携帯でよかったよね。何だか微妙な時間になって申し訳ない」「いえ、いいんです。今日はもう仕事も終わりですから。それより真崎さん……」声から慌てた様子が伺える。「その紋峰さんですが、さっき例の二人組
2020年10月7日 09:09
「それでは次のニュースです──」「今日の午後、加良市の芹野川で、女性が浮かんでいるのが発見され、その後、死亡が確認されました。警察は、身元の特定を急いでいます。今日の午後5時すぎ、川に人が浮かんでいる、と近くを散歩中の人から消防に通報がありました。現場は加良市内を流れる芹野川、大橋付近の右岸で……」真崎 征也は照明を消したアパートの一室でテレビの明かりを頼りに、夕食のカップ麺を口へと運
2020年9月2日 15:06
紋峰 忍はコーヒーを飲みながらラップトップを開いた。「確か、日本ではノートPCというのだったかしら」まあ、どちらでも構いはしない。二年間のシンガポール勤務を終え、本社勤めに戻った忍はどうにも本社の近代的なオフィスに馴染めず、今日も社員食堂の窓辺の席にいた。「重装建機株式会社」それが彼女の勤める会社の名だった。土木や建築工事作業に使われる大型建設機械を取り扱っていた。いわゆる重機とか建機