「役者は一日にしてならず」伊吹吾郎編
春日太一さんの著書「役者は一日にしてならず」の読書感想文を書いています。
見慣れている演者さんが代替わりすると、その違和感で拒否反応が出てしまう。
私は東野英治郎黄門様の大ファンだったため、西村晃黄門様に代替わりしたときひどいショックを受けた。
そのとき、東野英治郎黄門様と同時に、格さん役の大和田伸也が降板して、伊吹吾郎に代替わりしたのも大ショックで、今で言うなら【格さんロス】に陥っていた。
初代の横内正から大和田伸也への代替わりは特に平気だったところをみると、私は大和田伸也のファンだったのだろう(というよりリアルタイムのオンエアと、再放送とを同時期に見ていたことと、自分の年齢が幼すぎて横内正と大和田伸也の区別がついていなかった恐れがある。笑)。
きっと視聴者のなかの何%かも、格さんロスに陥っていただろう。そんななか、伊吹吾郎は格さんとして着実に地固めをし、17年も務めあげた。そして先日見掛けた「歴代格さん誰が好き?アンケート」で、伊吹吾郎格之進は堂々の一位を獲得していらっしゃった。
…水戸黄門以外での伊吹吾郎氏を私は存じ上げず、だからページを開いた時も、ほんのりと、あの格さんロスな気分に陥っていた。
伊吹吾郎のインタビューを読んでいると、これまた他の役者さん達と違う業界入りを経験していて目新しかった。彼は第7期東宝ニューフェイスというオーディションに合格して芸能界入りなさったのだそうだ。
13000人の受験者のなかで合格したのは合計10名。
養成所で、日本舞踊、洋舞、芝居の稽古をしていたが3ヶ月で飽きて、いいかげんな態度でいたところ、ギターが弾けるというだけで試演会の主役に抜擢された。
「白い目を向けられながら頑張りました。」
…私はこの経験が、伊吹吾郎だったからこそ三代目渥美格之進がこれほどまでに定着し、人々に愛されるようになった、土台であると思いました。
人間は誰しも、特に日本人は農耕民族ですから、一人だけ目立つとか、狡い奴とかには厳しいんですよね。
仲間外れにはなりたくない。でも仲間外れを作るのは好む。
たった一人で広い田畑を耕して生きていくのは難しいから仲間との縁を大切にする。
白い目で見られることは普通、耐えられない。
しかしこの養成所時代に、白い目で見られながらも、チャンスはチャンスですから、やり遂げた。
その経験のあったればこそ、どんなに視聴者から白い目で見られようと酷評があろうと心を鬼にして耐え切ることができたのではないでしょうか。
舞台からテレビに仕事場を変えた時も、時代劇をやったことがなくて殺陣も上手くなくて、カメラマンさんやプロデューサーさんに怒鳴られつつも、やった。
インタビューの中に、何度も出てくる“ラッキー”。
伊吹氏が努力していないとは言いませんが、大勢の努力している方々の中から幸運にも選ばれるという快挙。
きっと御本人の口からは出て来ない、選ぶ側から見た時に明らかに他と違う「良さ」だとか「煌めき」だとかが、伊吹氏にはあるんだろうと想像しました。
「打ち上げの席では内田(吐夢)先生にこんなことを言われました。
『伊吹君、誰でも主役を一本終わると「俳優」になったと思う。でも、それは違う。君は今、《は・い・ゆ・う》の《は》の字を卒業しただけで、まだ《俳優》じゃない』と。釘を刺されましたね。
もともと謙虚な方なのかもしれないけれど、謙虚にならざるを得ない環境に置かれていたのではないか?と思いました。
そして、多くの個性的な俳優・女優さんの、演技への情熱やこだわり…【視聴者へどう感じさせたいからどう動くのか】を見て学んだり。
格好良く映るために、自分に被せた時にバランス良く決まるように鬘(かつら)を調整してもらったり。
視聴者の目を楽しませるために、実に細かい工夫をこらしていたことに感心する。
もともとカッコいい役者さんでも、もっとカッコよく、しっかりカッコよさを画面から伝えるには工夫が必要なんだ。
大ベテランの大物俳優さんから教えてもらったことも多く。...…転記したいような内容がありすぎます。
新国劇での島田正吾氏が掛けて下さった言葉には、私もなるほど!と膝を打ちました。
何人もの名優の名前が出てくる嬉しいインタビューだけれど、なかでも、ここまででまだ出てきていなかった「鶴田浩二」について書かれていたことは一層嬉しかった。私は鶴田浩二と高倉健の組んでいる任侠作品を幾つか見たことがあって、とても人間味を感じていたから。
…そのあとは、水戸黄門撮影時の印籠を出すエピソードの記述も面白く、監督さんによって、その回の格闘シーンのカット割によっての印籠の出し方の違い・工夫について聞くことが出来て、今まで画面の中で当たり前に思えていたシーンもひとつひとつ、作り手の細かな行動の積み重ねでできていることを再確認させられた。
私が見ていた、いつ頃の水戸黄門だか忘れたけれど、助さんが印籠を出すシーンがあって、あれは珍しかった。
その助さんも何代か交代していた。
私に馴染み深いのは里見浩太朗助三郎だ。
里見氏とのエピソードには心が温められ、嬉しい気持ちになった。
「チャンバラは斬られ役が上手いこと斬られるから、主役が強く見えるんですよ。『芯(主役)が立つ』っていうけど、立たせるためには周りが上手い人じゃないと駄目なんだ。
ですから、『芯』の側の人間は斬られ役をないがしろにしては絶対にいけないね。
だからといって、本番の時だけ彼らと仲良くしようとしても無理ですよ。普段から仲良くしていないと。」
...…幸運ゆえに、白い目で見られながらも芝居を作り上げるために心血注いできた伊吹吾郎は、
観客の目へ、その芝居の面白味がしっかり映るために、積極的に周りと調和しようと努めてきた心根が伝わってくる。
俳優という仕事も、チームを大切にする意識が絶対必要なんだなと、改めて感じた。
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