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恩師が見つかりました。

 先日、学校の校外学習で登山をした。

思ってもいない過酷さ
帰り道に出会った運命の人などとても濃い一日となった。


 登った山は地元では有名な山だが標高は1000mもなく本格的な登山というよりは日帰りで少し汗をかこうというような、そんな雰囲気での登山だった。

 当日の朝、皆が学校からバスに乗り山に向かう。これから過酷な登山というよりは、一日授業がつぶれるラッキーな日、皆が仲良く話したり、スマホゲームをしたり、そんな楽しげな雰囲気であった。(この車内で、私はイヤホンをつけて単語帳を見るという最低のムーブをしたのはまた別の話。。)そんなこんなあって山に到着、中腹で下車。駐車場から少し歩いてから登山道に入り、いよいよ登山スタート。

 登山道は石や木が規則性がなく埋め込められ、階段と言われればギリギリ階段と呼べるようなものだ。段差もバラバラである。

これがまぁ、つらい!!!!

無造作にできた段差もなにもかもがバラバラな階段を登るのだけでも大変なのだが、次はどこに足を置いたりなど意外と頭も使うのでさらに疲れる。
 しかし、私はこの登山で一つ絶対にやろうと決めていたことがあった。それは”あいさつ”である。山では互いの体調を確認するという意味でも、あいさつをし合うのがマナーとしてあることを聞いていた。かなりきつくても通りすがる人には必ずあいさつをした。登山客の人たちが、あいさつを返してくれたり、がんばって!と声をかけてくれる人もいた。そんな登山客のおじさんが

「がんばって、あと半分だよ!」

「ありがとうございます!」
私はかなりきつかったが、もう半分きたんだという心の余裕と、登山客の人たちの声かけで、なんとか頑張れた。所詮、大した山じゃなかったな。そんな気持ちで山を登る。。。。。。。
しかしいっこうに山道は続く。もう山頂についてもいいころだけどな。はやく休みたい。はぁまだかよ。
 すると、上の方に看板が見えた。はっ!あれはきっと頂上の印のやつだ!標高〇〇mのやつだ!一気に足が軽くなる。ラストスパートをかけ看板にたどりつく。だが上にはまだ道が続いている。そして看板には「中間地」

え???????????????????????????
え?おじさん、もう半分って言ってたよね?あれから結構登ったよ?え?なんでなん?
その刹那、私は悟った。

あのジジイ、俺のことハメやがった。

そこからは、一歩一歩がとても重かった。自然豊かな森、その中に差す日差し、みんなで協力しながら汗を流す。こんなストレスフリーな状況のはずなのに気持ちはいっさい晴れない。ジジイへの憎悪、中間地ということは、これから今までのを、もう一回分登らなきゃいけないという絶望感。あのジジイ!下山中にコケて、ちょっとだけ擦りむけ!クソっ!
 それでも一歩、また一歩と着実に登っていく。足もパンパンになりながら、それでもなんとか山頂に着いた。これでやっと休める!これでやっとご飯食べれる!ひとまずゆっくりできる!よかったぁ~~



「君!ちょっと自分のクラスの人たち、集めてくれる?」
声をかけてきたのは、数学教師のAだ。

その時、私は気づいた。
ん?こいつ汗一つかいてないな。

そう、こいつは山を登らずけが人と一緒にケーブルカーに乗り山頂までここにきていた。


そんなやつが、あの過酷さも知らないやつが、ジジイにハメられたこともないやつが、指示してきやがって。クソがっ!
しかし、背に腹は変えられないので数学教師Aの言う通りにした。その甲斐あって速やかに昼食休憩に入いることができた。やはり、かなりの空腹でコンビニのおにぎりもいつも以上に美味しく感じた。束の間の休息はあっという間に終わる。そしてそれと同時にある思考が頭によぎる。

こっから下山あるじゃん。。。。。。。。

 そこから40分間は下山という絶望を取るか、今ここで腕を地面に叩きつけて、けが人としてケーブルカーに乗るかどうかを悩んでいたが、そのうち下山の時間は来てしまった。
 さっき登ってきた登山道を上から見たときこんな思考がおこった。
わざわざ上まで登って、特に何もせずご飯だけ食べて下山して元の場所に戻ってくる。こんな無意味なことあるか?数学で見た四角形の辺をまわり続け結局、元の位置に戻ってくる点P、物理で見た坂から下ったりいろいろ運動したけど結局変位0の球、俺が今やってることってこいつらじゃん。山頂まで登り何もせず戻ってくるAさんじゃん。場合によっては後ろからちょっと早くBさんも登ってくるじゃん。二人がすれ違うところ聞いてくるじゃん。
それ、ただの数学の問題か。そんなことを考えているうちに下山は始まった。

 登りとは違って、これからどれだけハードな道のりになるかも、意外と長い登山道であるということも知っていたので、シンプルに元気がない。せめてケガはしないよう慎重に下っていた。そうしていると、登りでは一緒に励ましあって登った班員に置いて行かれていた。あまりにも慎重すぎて協調性が欠けていたのだろう。私が間違えなく悪いのだが、あんなにみんなで頑張ったのに、こんなにすぐに置いて行かれるんだ。周りには誰もいなく、少し後ろにみんなについていけなくなった女の子と先生が一緒に下っている。少し寂しくなったが、立ち止まるわけにもいかないので下っていく。すると後ろの女の子を助ける、先生とは別のおばさんの声がした。

「ここに足ついて。そう。そうやってね、次にどこに足をつくか考えながら下りなね!」

「ありがとうございます!!」

「はーい。じゃあがんばってね。」

やっぱり山には優しい人がいっぱいいるんだな。ハメてくるジジイもいたけど。少しほっこりしていると、そのおばさんは登山が趣味のようで、すごい速さで下り、すぐに私に追い付いてきた。

「あっ、先いっていいよ~」
(おばさんが、先に道をゆずってくれる)

「あざっす!!」
やっぱり、山は人がいいな~


(おばさんが登山うまいからすぐ追いつく)
「はい~先いきな!先!」
(おばさんが細くなった道をゆずってくれる)

「あざす!」
おばさん、山うまいからすぐ追い付くなぁ


(また、おばさんがすぐに追いついてくる)
「先いいよー」

いや、もういいわ!!!!
お前自分の方が山うまいんだし、さっさと俺を置いて先下れよ!!!
 しかし、それからもこの、下山のあおり運転みたいな状況は続き、何回もコケそうになった。すると

おば「石の手前に足つければ転びにくいよ!」

俺「あっ、ありがとうございます!」
いや、お前が俺のこと追い抜けばいいだけだろ!と思ったが、いざ実践してみるとこれがかなり効果があった。おばさんありがてぇ、、、
それからも

おば「そこじゃなくて、ここから下りた方が楽よ」

俺「おお、本当だ!!おばさんすげー!」
山のコツを教えてもらいながら、下山していくうちにおばさんとはすっかり仲良くなった。

俺「ねーおばさん、俺これから塾あんのよー」

おば「あら、大変じゃない。」

俺「なんか、たかが登山だと舐めてたわー」

おば「あのね、リポビタンDとかね、ああいうの意外と効くわよ。」

俺「へぇ、そうなんだ。そんなの飲んだことなかったわ。」

おば「騙されたと思って飲んでみて」
そうしていると、下の方に数人の人が集まっていた。よく見ると、そこには体育教師Tと生徒が数人集まっていた。どうやら、階段の木枠が外れてしまったようで、それを戻そうと数人が集まっていた。

おば「そんなん、やって次の人が怪我したらどうすんの!!!」
おばさんが急に喋りだした。

体育教師T「あっ、あのじゃーこの木どうすれば」

おば「そんなの端にどけとけばいいでしょ!!!」

体育教師T「は、、はい」

(体育教師がいなくなる)

おば「あんなことしたらね、誰か怪我するから絶対ダメだからね!!本当になんなんだろうあの人」

俺「そーですよね」
決して、あの人が自分の学校の教師であることは言えなかった。なんか後ろめたいので少し静かになった。

おば「あれ?なんか疲れてるじゃない?私もね、疲れてるときはねリポビタンD飲んでるからね、結構ね、体が楽になるのよ。騙されたと思って飲んでみて」

俺「は、、はい」

おばさん、初対面の人にあんなブチギレるんだ。あと、おばさんのリポビタンDに対する信頼どうなってんだよ。
少しおばさんに幻滅はしたが、下山は続く
 すると、急におばさんが
おば「こっちから行くわよ」

俺「へ?あ、はい」
そこは道にはなっているものの、誰も通っていないし、なんなら少し険しく見えた。しかし、おばさんが初対面の人にもブチギレる性格であることが判明したので口ごたえせず従った。
最初は険しく見えたもののいざ下ってみると意外と楽な道で少し余裕が出た。ふとみんなが使ってる道を見てみると先に出発したはずの違うクラスの人達が見えた。
俺「おばさん、この道めっちゃ早く下れてないですか?」
(おばさんが、初対面の人にもブチギレるので一回敬語に戻す)
おば「そうなのよ。まー山のことならなんでもござれだからね。」
さすがおばさん!やっぱり性格には難あるかもしれないけどおばさんの山の知識は凄かった。

そこからは、この誰も知らない道作戦を何度も多用していきあっという間に、最初に空いていた差を巻き返し一気に先頭集団の位置まで来ていた。私がよく知らないおばさんと喋りながら、すごい速さで下山していたのでおそらく同級生達はびっくりしただろう。そんな中で一人の友人が通り過ぎる時に
友人「お前この先、数学教師Aいるからそれより先行ったら止められるよ」

俺「えーマジか。おっけありがとう。」
あの数学教師が下山は参加していたことで少し山頂でのイライラが払拭されたが、またあいつが俺の足止めをしてくるとは、、、
そこからもおばさんの、すごい速さの下山により一瞬で数学教師Aのところまで来てしまった。

数学教師A「おおー、お前誰と来た?てか、これより先は抜かしたらダメだぞ」
やはり止められたか。ただ俺はおばさんと最後まで下るって決めたんだ!

俺「俺は、師匠と来ました。師匠と最後まで行きたいんです。」
私の目は真っ直ぐだった。

数学教師A「。。。」

数学教師A「わかった。お前が決めたんだな。お前だけはあのおばさんについていけ。」

願いは通じた。俺はおばさんの背中についていくだけだった。登りでは考えていた足の置き場所も、何も、もう考えていなかった。おばさんが足のついた場所を俺もつく。ただそれだけだった。おばさんと俺の動きはシンクロしていた。いよいよ終盤に入り長いようで短い登山も終わりになる。
俺は最後、おばさんに聞いてみた。

俺「おばさん、どうやったらおばさんみたいになれるの。おばさんは今まで何してたの?」

おば「若い頃はね、好きなことばっかしてたよ。まー、今も好きなことばっかりしてるけどね。」

おば「あんたね、

       今日が一番若いんだよ

だから好きなこととか、やりたいことは今やりな」

俺「うん。ありがと、おばさん」
胸を打たれた。。

そして、いろいろあった登山はついに最初に出発した場所まで戻ってきた。
俺「おばさん、今日は本当にありがとう。あの、俺なんて言っていいかわかんないけど、あの、、、」

おば「はい、ありがとね。気をつけて帰ってね。じゃあね」


 おばさんは帰っていった。小柄だったはずのおばさんの後ろ姿は、他の何よりも大きかった。
そして上を見上げると、そこには相も変わらず、大きい山がふんぞり返っている。
だけど、登る前の時よりも、今はほんのちょっと、ほんのちょっとだけ小さく見えた気がした。





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