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阿部サダヲと岡田健史の化学反応の凄み『死刑にいたる病』

観終わってからも数時間、ちょっとした興奮状態が続く。
それほどの作品であった。

家庭環境も満足いくものでもなく、今の生活と人生に何の希望も持たない大学生【雅也】(岡田健史)の元に、ある日一通の郵便が届く。
その差出人は、昨今のワイドショーを騒がしている
24人の連続殺害事件の容疑者【榛村】(阿部サダヲ)からだった。
殺人容疑のうち9件の立件が決定しているうちの1件の冤罪を訴える内容は、
「その冤罪を証明してほしい」というものだった。
そこから【雅也】と【榛村】の 過去からの人間交差が深いところで始まり出す。

残虐なシーンも多く、心理的に追い詰められるような描写もあるのだが
そういう問題ではない。
それは、まるで観進めていくうちに、
細い木綿の糸と鋭いナイロンのテグスが絡まり、どうにもこうにもこんがらがって、、全く解けなってしまうような。
それを解くために時間も忘れ、ぐちゃぐちゃに固まった糸の絡まりを、
痛くなってくる指先で、少しその痛みを我慢しながら
ずーーーーーーーーーっとほぐしているような∙∙∙∙∙∙。
少し絶望に似たような鬱屈とした世界がジワジワと広がっていく様は、
さすが白石監督だと思わされた。

【雅也】演じる岡田健史が、まるで今まで見た彼の役柄からは別人のようで、
沼のように淀んだ暗さと閉塞感を自身に落とし込み、
それはそれは、、
まるで気配を消していきているような立ち居振る舞いは、異様なほど自然だった

それが【榛村】と関わるまでの【雅也】だが、
【榛村】と関わり出してからの【雅也】の変化が、
手に取るように、どんどん澱みと捻れが加速していく。
阿部サダヲと岡田健史のタッグで
ここまでのエグい熱を放出するのかと圧倒された。

拘置所【榛村】とこちらの世界【雅也】を
線引く面会の衝立のアクリルに重なり写る互いの顔の使い方、
無機質で澱んだ空気感に包まれた面会室という密室の狭い世界から
語られ、探られ、想像しては繰り広げられる
歪んだ人間たちが創り出す現実世界の広がりが恐ろしいこと極まりない。

中山美穂、岩田剛典、宮崎優。
脇を固める俳優陣も見事な怪演揃いで、
この映画に出てくる人物で印象に残らない者は誰一人いない。

前半で植え付けられる【榛村】の狂気と相反する普遍性に
「ひょっとして∙∙∙」という思いから
後半に回収されるさまざまな
「え?こいつが?!」
「え?まさか∙∙∙あの人も?!」
「あ!アイツなのか?!」
「え∙∙∙そういうことだったのか∙∙∙」
キリがないほど引き込まれ翻弄されるのです。
そのスピード感と緊張感たるや、呼吸を忘れてしまうほどで。

観終わった後、
なんだかグラグラの綱渡りを見事に大成功で渡り終わったような
意味不明な解放感みたいな気持ち良さが襲ってきた。

そして最後に思うのです。
なるほど。
タイトル通り『死刑にいたる病』だな。と。

素晴らしい作品でした。

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