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あの日あの時あの場所の、ささやかな記憶―『すべて忘れてしまうから』を読んで

いまはもうない喫茶店、安旅館の朝、新宿の「森」―
さまざまな場所の、ささやかな時間。あるひととき。

気を抜けば、日々の生活にまぎれて、忘れ去られてしまうような記憶ばかりだ。

そして人は、忘れてしまう。ほんとうに。いいことも悪いことも。
しずかな絶望も、ひっそりとしたかなしみも。
どうにもならない、ままならないような事柄でさえ。
時間とともに、薄らいでいく。そうして、忘れていくことによって、どうにか日々を生きていく。

燃え殻さんの新刊『すべて忘れてしまうから』を読んだ。

この本では、ともすれば忘れられてしまいそうな、けれど心揺さぶられるようなエピソードが語られている。

私は、狼狽えたり、戸惑ったり、ときに安堵したりながらこの本を読み進めた。

おもしろい、よりも、もっとふさわしい言葉がこの本には当てはまるように思う。

私にとってこの本は、おそらく、「愛おしい」。そして、「尊い」。

愛おしくて、尊い。その言葉が、しっくりくるかもしれない。
まるでずっとそこにあったかのように、この本に馴染む気がする。

せわしない日常の中で、忘れ去られていること、忘れてしまっていること。そして、考えないようにしていること。

それらをそっと、やさしく掬い上げてくれているようだった。

そうすることで、届けてもらえた気持ちがあるなぁと思った。

眠れない夜にこそ読みたいなぁ、と思う。
そして、きっとこれから幾度となく訪れるであろう眠れない夜に、そっと寄り添ってくれる本だと思う。

静かな夜、眠れないときのお供に。
もしかしたら、あの日“無かった”ことにした感情に、出会えるかもしれません。


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