あの日あの時あの場所の、ささやかな記憶―『すべて忘れてしまうから』を読んで
いまはもうない喫茶店、安旅館の朝、新宿の「森」―
さまざまな場所の、ささやかな時間。あるひととき。
気を抜けば、日々の生活にまぎれて、忘れ去られてしまうような記憶ばかりだ。
そして人は、忘れてしまう。ほんとうに。いいことも悪いことも。
しずかな絶望も、ひっそりとしたかなしみも。
どうにもならない、ままならないような事柄でさえ。
時間とともに、薄らいでいく。そうして、忘れていくことによって、どうにか日々を生きていく。
◇
燃え殻さんの新刊『すべて忘れてしまうから』を読んだ。
この本では、ともすれば忘れられてしまいそうな、けれど心揺さぶられるようなエピソードが語られている。
私は、狼狽えたり、戸惑ったり、ときに安堵したりながらこの本を読み進めた。
おもしろい、よりも、もっとふさわしい言葉がこの本には当てはまるように思う。
私にとってこの本は、おそらく、「愛おしい」。そして、「尊い」。
愛おしくて、尊い。その言葉が、しっくりくるかもしれない。
まるでずっとそこにあったかのように、この本に馴染む気がする。
せわしない日常の中で、忘れ去られていること、忘れてしまっていること。そして、考えないようにしていること。
それらをそっと、やさしく掬い上げてくれているようだった。
そうすることで、届けてもらえた気持ちがあるなぁと思った。
◇
眠れない夜にこそ読みたいなぁ、と思う。
そして、きっとこれから幾度となく訪れるであろう眠れない夜に、そっと寄り添ってくれる本だと思う。
静かな夜、眠れないときのお供に。
もしかしたら、あの日“無かった”ことにした感情に、出会えるかもしれません。
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