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なんで私はこれが好きなんだっけ?

わたしの中にはリクルート社員の面接官が住んでいて、わたしはそのリクルート面接官の彼に殺されそうになる。

「なんで?」「どうしてそう思ったの?」「根拠は?」「あなたはどう思う?」「今の言動の理由を教えて」

なんでを5回繰り返しなさい、という呪い

心の中のリクルート社員はわたしの心のすきを狙って突然にやってくる。どうやら彼曰くすべての人間の行動(=選択)には理由があるらしい。わたしは子供のころから”自分の選択”に理由を付けて説明するのが苦手だった。だって、私のあこがれの心はあこがれの心でしかないのだ。思えば高校生の時に慶應大学に入りたい!と思ったのも、今の会社に入社したい!と思ったのも、「かっこいい!たのしそう!」なんて、バカげた理由だった。

リクルート面接官はとにかくうざい。まじでうざい。うっさいだまっとけや、やりたいもんはやりたいの!!

とはいえ、勢いばかりで走ってしまう私にとって、リクルート面接官の彼は、ふと立ち止まって論理的に考えたほうがいいモノには役に立つ。彼はうざいながらに私を立ち止まらされることで最適解を教えてくれる時もある。どうやら仕事/ビジネスでは「かっこいいから!!」とかいう説明では通用しないということはわたしでもわかってきた。

最適解のないものを考えるのは難しい、決めるのはあんた

彼は突然にやってくる。

先日、憧れのサイパンへだいすきなだいすきなスキューバダイビングへ訪れたときだった。サイパンの海はとにかくすばらしかった。小さな桟橋から小さな船を飛ばして少し沖に進み、さっきまでいた陸は小さく遠くに見える。揺れる船内で重たいボンベを背負い、はやくはやくと自分で自分をせかして目の前の海へ飛び込むとすぐに体いっぱいに青を浴びた。


全身に水の冷たさを感じ、見下ろすと透明すぎる水の先に40m先の海底まで見えた。ぐんぐん水深を進む。腕につけたダイコン(深度やダイブタイム、窒素計などの機能が付いた腕時計型のダイビング機材)に深度15mを告げられたあたりで、私はふわっと体に浮遊感を感じる。

真っ青な海にとけた。

上も下もわからなくなって、私は海の一部になった。海の空をふわふわと飛んだ。人懐こすぎるウミガメがやってきて「ようこそ」と言った。わたしは「こんにちは」と言ってウミガメに赤い海藻を手に出すと、わたしの手からパクっと食べて「たのしんでね」と自由に去っていった。大きなサンゴ礁の上にはマダラトビエイが姿を現して、見上げたマダラトビエイは本当に空を飛んでいるみたいだった。わたしもサンゴ礁の上に行って腕をパタパタして空を飛んでみた。

うわぁ、やばい。たのしい。

「なんであなたはダイビングするの?」「なんで旅行するの?」

突然にやってきたリクルートの面接官はわたしにそう告げて、サイパン中ずっと私の心の中をざわざわと騒がせた。

なんで私、ダイビングしてるんだっけ。

決して安いとはいえないスポーツで、ダイビングを始めてこの5年間いくらお金使ったんだろうとざっと見積もってみると心底ぞっとする。大学時代はバイト代のほとんどをダイビングに費やしていたし、そうまでして続ける意味はなんだっけ。考えても考えても答えが出ない。無駄かな?もうやめようかな。。。

人の興味はどこからやってきて、どこへ行くの?

いや、やめたくない。一生ダイビングしたい。結婚式だって海の中でするって決めたじゃないか。うーん、なんでやめたくないんだ?そもそも人の興味の源泉ってなんだ?なんで私はダイビングに興味があって、なんであの子は興味がないんだろう。なんであの子がだいすきなジャニーズを私は好きじゃないんだろう。「興味」はどこからやってきて、どこへいくの?私はこのままダイビングを続けて何を目指してどこにいくの?

はやとはなんで?

帰国してからもリクルート面接官がずっと居座るので、仕方なくはやとに聞いてみた。

美咲はダイビングをはじめた時のことを教えてくれた。ずっと一緒にいたけど知らなかったこと

二人とも率直な私の質問にあまりにちゃんと答えてくれて、ああ、ふたりのことが好きだなと思った。ああ、わかった。わたしはただ、大好きな仲間たちと大好きなダイビングをして、仲間たちもダイビングが好きでそんなみんなと一緒にいる時間が好きで、同じ時間を共有したいだけなんだ。

同じ気持ちで過ごした過去を同じ気持ちで思い出して、「あのときに見たザトウクジラはデカすぎて泣けた。あれは絶対私たちにまた来いよ!って言った目だった。」なんて、言って笑って過ごせたら、それが幸せってことなんだ。

好きなんだったら好きでいいじゃん。うっさい面接官に問い詰められて、損得勘定に心を奪われて飲み会の時間は無駄だ、とか人付き合いにはランニングコストがかかるから自分にプラスになる人間とだけ付き合おう、とかそういうことを言う人はこの東京という街にはたくさんいて、そういう人の話を聞くと自分の人生は無駄だらけなんじゃないか?という気がついしてしまう。自分もプラスを与える人間にならなくてはとつい焦って背伸びして、自分の心の好きとか楽しいとか感動とかそういう素直な感覚がどんどん麻痺していく。

勝ちって思ったら勝ちだよ

失っちゃダメだ。実は人生には勝ちも負けもなくて、仕事、勉強、順位、偏差値、資格、社会的地位、金、目でわかる指標は、心が空っぽだったらなんの意味も持たないってこと。本当は毎日ご飯食べて、太陽を浴びて、寝て、笑って大切な人を大切にしていられたらそれだけで人生は充分にも充分すぎるということを、つい忘れかけてしまう。

東京という情報も人もモノ雑多で溢れた街にいるとかっこつけて生きたくもなるけれど、どうしようもない時間を好きといえる勇気を、無駄を愛する余裕を持って、今日もしなやかに、強く、人生楽しみ尽くそう

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