片腕

私の左腕はどうやら恋をしているらしい。

意味もなくそわそわして机の上を行ったり来たり。

いらいらと指で机を叩いたり。

憂鬱げに椅子の背もたれに力なく体をあずけたり。

嬉しげに細かく震えたり。

左腕が幸せならそれはそれで良かった。

ある日とうとう左腕は恋人に会うために失踪した。

いくら待っても左腕は帰ってこなかった。

探しに行くと、左腕は泥にまみれて倒れていた。

途中で事故にでもあったのか。

それとも恋人と別れたのか。

左腕は黙して語らない。

私は左腕を抱えて家に帰った。

左腕はあれから外へ出ることはなくなった。

自我を失った左腕を右腕が愛おしそうに撫でた。

何度も何度も。






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