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代がわり 24

「皆の者、よく聞くがいい。今、この王国は滅亡の危機を迎えている。赤い民が進軍を始めた。遅かれ早かれ彼らはここに到達するだろう。彼らの数は無尽。我らはその前に跡形もなく壊滅するだろう。」

どよめきが起こった。王の口からこれほど悲観的な言葉が出ようとは誰も思っていなかったからだ。皆すがるような眼差しで王を見つめている。

「逃げたい者は逃げよ。止めはせぬ。名誉を重んずる者は、ここに留まり我が誇りのため戦え。名は後々まで残る。私はこの王国と命運を共にする覚悟だ。もし、幸運にも生き延びた者がいれば次の王と共に新しい王国を目指すのだ。」

私は王に手招きされ側に行く。

「この者は我が血、我が肉を分けたまぎれもない私の分身だ。私亡き後はこのフォルターナを新王として仕えるがいい。」

ざわめきが起こった。ざわめきはしばらく収まらなかったが、どこからも反発の声や不平の声は上がることはなかった。やがて、1人2人と膝をつきうやうやしく首を垂れ恭順の意を示した。それは次第に数を増し全ての民がひざまずいた。この時から私は次の王フォルターナとなった。

逃げ出した者はいなかった。皆、ここで生まれここで育ちここ以外を知らない。ここが滅ぶ時は自分達も滅ぶ時と思い定めているようだった。生き延びるよりも皆と命運を共にし滅び去ることに喜びすら感じているようだった。

王は、私の従者5人に自ら私の力になるよう頼んだ。王から直接言葉をかけられるなど彼女らの生涯では考えられないことだったのだろう。喜びを通り越しそれぞれが青ざめながら王の言葉を受け取った。

護衛を頼まれたディアンナはその肥えた頰を真っ赤に染めながら力強く頷くのが精一杯だった。キュベルは今いる者達の名を後の世まで記して残すよう言われ、宮殿の中に住まう者の名と経歴を書き付けるとともに全てを暗記することに日々を費やした。

マイアとエイシアは教育係であるミナーバから次の世代に教えるべき事柄を全て受け継いだ。彼女らが本来世話をすべき子供の姿はもうどこにもなかったが。

アルバネアはひっそりと皆のための細々とした雑用をこなして日を送った。彼女はかまどの前で火が消えぬように目を配りながら次の啓示を待っているかのようだった。

王は重臣達一人一人に今までの忠誠への感謝を述べた。それは果てもないように見えた。皆感涙にむせび泣き王の為に王国の為に命を捧げると再び誓った。

最後に呼ばれた者がいた。地下の管理者リーベララだった。










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