マガジンのカバー画像

日記

1,129
日記という形式の器の大きさに存分に頼る
運営しているクリエイター

2020年8月の記事一覧

2020年8月30日(日)

池袋駅に降り立ったのはかなり久々だった、目的地は池袋駅ではなくそこから三十分ほど歩いた場所にあるラーメン屋だった、往復300円程度の電車賃を浮かせるのと、油分塩分脂肪分のどれをとっても一級品のラーメンを食べることによる健康被害を少しでも押しとどめることが目的の歩行だった。そのルートは首都高速道路が並走していた、並走というよりは上空にへばりついていた、空を窮屈にしていた、それなりに幅のある歩道の中で

もっとみる

2020年8月30日(土)

一日中家から出なかった、ということを正当化するために、というわけでもないのだけれども書いている物の校正を行った。九月末のそれに出す。三ヶ月前から聞き始めているのだけれども、三ヶ月前にこんなことを考えて書いている自分が、他人のような気もするし、今の自分と紛れもなく連続した存在である気もする。

和室でテレビを見ながらご飯を食べる、ということを二人して覚えてしまった。それは堕落への一歩だった。ローテー

もっとみる

2020年8月29日(金)

人間はどこまでも身体の、苦痛であれ快楽であれ直接的な感覚に、絶対に抗えないのだということを思い知った。普段は歩かないような場所を、普段は出歩かないような平日の夕方の時間に、わずかに濡れている髪を乾かすべく、その勢いに衰えを見せつつもまだ力を残している太陽に晒すようにして、歩いていた。【アーティスト症候群】を読み終えた。
#日記

2020年8月23日(日)

美味しいパンを提供されると、それが美味しいことがあらかじめわかっているので咀嚼に注ぐ集中力が高まって、美味しさを染み込ませる度合いもそれに伴い高まるので、一層美味しいパンと化す。テレビを貰うついでに先方のお宅にお邪魔し、昼飯のご相伴にあずかる。前回謁見したときよりは、一挙手一投足にかける神経を減らすことができた。ウォーターボーイズが流れていた。それから三鷹の自宅に車で行き、荷物を下ろして実家に蜻蛉

もっとみる

2020年8月22日(土)

岡田利規の【未練の幽霊と怪物】に、珍しくかなり詳細な謝辞が書かれていて、ふーんいろんな人が直接間接関わっているのだな、と思いながら読んでいると最後は世阿弥への感謝で締め括られていた。そして最後に世阿弥さん。国立のパスタ屋に行ったのち立川で【Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song】を観てぶち上がる。ソーシャルディスタンスがとられている映画館は

もっとみる

2020年8月21日(金)

これを読むために特に予定もないのに平日に休暇を取ったのだ、というわけではなかったけれどもそうであるかのように朝から読み始めた磯崎憲一郎の【日本蒙昧前史】が面白い。語りの密度と横滑りの、スムーズであるかのようでいて強引さも感じさせる奇妙な手触りの連続が、ずっと面白さを持続させている。伏線や起伏も何もなく、ただその瞬間の愉快さの強度を高めることに注力した文章。午後は外出し、夜はチヂミを食べた。前回より

もっとみる

2020年8月20日(木)

たとえオンラインだとしてもそれなりの人数の前で話すのは久々だった。明日から三連休に個人的には突入するぞ、という心持ちは、四日後への自分に先送りする労働の量を増やすことに繋がった。
#日記

2020年8月19日(水)

二人とも在宅勤務だった。梨が送られてくるぞ、という予告が実家から三日前にあって、それが送られてきた。梨だけでなしに、多様な物品が詰め込まれていた。労働意欲というものが、元からたいして深くない底をついていた。昼から冷凍ピザのアレンジ大会と、わずかではあるけれども酒盛りをした。最近何を読んでも何を観ても何を食べても、素通りしていく感触だけが残っている気がする。芯から感動する出来事や作品をとらえる能力が

もっとみる

2020年8月18日(火)

忙しかった。という文字だけ残して、あとで振り返ったときにこの日は本当に忙しかったんだな、という感触を伝えるという手法も、それなりの数使っているので、忙しさの度合いの信憑性というか基準が、とても低くなるだろう。
#日記

2020年8月17日(月)

茄子の皮目に入れる切れ込みの深さを、何回やっても的確なものに改めることができない。味が染み込まないよりは、という浅ましい考えのもとで包丁を、鈍く輝いている紫の背中に一思いに挿入する、というのを無心になって続けたのちに火にかけると、首の皮一枚で繋がっている、という形容に相応しい状態が茄子一本につき八ヶ所ほど出来上がる。味はじゅうぶんすぎるほど染み込んでいる。とはや過剰とも言える味だが、それは調味料の

もっとみる

2020年8月13日(木)

昨夜の態度について私は、相手に謝罪するべきだろうか? 謝罪したいと思っているのだろうか? 快眠から目覚めてすぐに考えたのはそのことで、その問いに対する答えについてはずっと留保されていた。相手は私より早くに起きて、作業を始めていた。朝ご飯を食べ始める時刻、というふうに明確に定められているわけではないものの慣習的にはそうなっているタイミングがやってきても、相手は作業を中断しなかった。結局私は部屋に入っ

もっとみる

2020年8月12日(水)

史上最高の最低気温という文言にあっさり惹かれてしまった。イヤホンの携行を忘れてしまって、もちろんイヤホンをつけずに外を出歩いたことが初めてというわけではないけれども、新宿の地下道をそれなしで歩くのは初めてだったかもしれなかった。反射して響いているのかそれともこもって吸収されているのか決めかねる音が鳴っていた。

夜は険悪なムードが部屋を支配した。私が迂闊かつ余裕もない状態で、その迂闊さに加えて、そ

もっとみる

2020年8月11日(火)

マスクの紐が三日連続で切れている。安物買いの銭失いなのか、それとも私の顔面の形状や挙動が、マスクに対して負荷をかけやすい構造になっているのだろうか。思えばいつも左下だ。マスクの布の端の部分に切れた紐を無理やり結んで一日を生きた。

伊勢丹の入口を示す、駅の地下道に並んでいる円柱に貼り付けられた看板に、お入口、と書いてあった。お入口。お出口、よりも耳慣れない見慣れない言葉な気がする。毎日通っている場

もっとみる

2020年8月10日(月)

家から一歩も出なかった。今日は事前に宣言していたわけではなく、外出する可能性もありますよ、という含みを自分に対して唆していたけれども、外に出ることは叶わなかった。本当は散歩と本屋に行き、できれば大きな川の遊歩道を見ておきたかったのだが、暑さに阻まれた。畳の目が皮膚の至るところに刻まれた。何を読んでも、活字の羅列が網膜の表皮に留まっているだけで、意味として脳や心まで到達しなかった。パックの麦茶を作っ

もっとみる