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『サンクチュアリ』とやんちゃ力士への郷愁

Netflixのオリジナルドラマ、『サンクチュアリ』を見た。これは日本の相撲の実際の現場で起こっていることを丹念に取材したドラマであるとともに、少年漫画的なカタルシスもある作品で、夢中で最後まで完走した。『あしたのジョー』のなかに、力石を殺してしまったジョーが対戦相手の顔面を撃てなくなってしまうエピソードがあるけど、あれと似たような描写があったりして、キュンとさせられた。

この作品の主人公の猿桜のやんちゃぶりを見て、昔からの相撲ファンは、八百長や「品格がない」という名目でいなくなってしまった力士、元大鳴戸親方、板井、貴闘力、朝青龍のことを思い出して、郷愁にひたっているのではないだろうか。僕はこのなかで特に朝青龍が大好きだった。横綱審議委員会におられた内館牧子さんなどには相当嫌われていて、それで相撲人生を短くしたが、確実に観客が喜ぶ面白い相撲をしていた力士のひとりだった。『サンクチュアリ』のなかで猿桜の相撲のことを師匠が「客の沸く相撲」と表現する場面がある。猿桜は、こうした「客を沸かせた」やんちゃな力士のいろいろなエピソードが積み重なったキャラクターなんだろう。

朝青龍が痛快だったのは、伝説の優勝決定戦で貴乃花が勝ったときのエピソードと大いに関係がある。このころの武蔵川部屋の力士は武蔵丸、武双山、雅山など横綱・大関が揃う幕内の大勢力だったのだが、「ゆるふん」だといわれていた。「ゆるふん」というのはまわしを弛く締めることで、相手にまわしをつかまれても引きつけられないようにするという、まあ、卑怯な手段だと言われている。だから武蔵川勢というのはガチンコの二子山勢に対して「ヒール」的な存在だった。

そういう状況のなかで、武双山と貴乃花の対戦で、貴乃花が掴んでいたまわしがわかりやすく伸び、貴乃花が転がり、負けて右足を脱臼してしまった。その翌日、武蔵川のラスボスとしての武蔵丸との対戦で、本割で負けたにも関わらず、決定戦で破って優勝だったので、貴乃花にあの鬼のような形相が出た。思わず涙する名場面。

そして、この決定戦の次の場所、小兵のモンゴル出身の小結であった朝青龍が、巨漢の武蔵丸にもろ差しになり、あろうことか、ぶん投げた。貴乃花がいなくなった大相撲でこういうやんちゃ坊主がでてきたのが痛快だった。こういうやんちゃな力士と大鵬の直系のような真面目な白鳳がずっと並び立っていたらあの時代の大相撲はもっと面白くなったと思う。

そういう実現しなかった過去について郷愁を抱かせるドラマがこの『サンクチュアリ」だった。続編もぜひ見たい。



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