見出し画像

その、理由。|散文

星よりも速く流れる街の片隅に
君の姿を捉えたとき
僕の足はその一歩すら踏み出せずにいた

それは君が守られるように
ひかりの腕の中に眠っていたから
そして、
疲れきったようなその寝顔は
泣きはらした後のものだと気付いたから

『おまえか、』

ひときわ強い光の筋が僕の額を貫く瞬間
確かに僕にはそう聴こえていた
低く、とても落ち着いた様子でいながら
確実に狙いを定めたような響きだった

瞬時に僕は理解することが出来た
君はこいつの宝物なんだということ
けれども僕は、安堵も覚えた

その涙の理由わけが僕だと確信したから
そして、
僕たちは繋がっているのだと自身の中の
思考とは違った別の何かが走ったからだ

『このまま帰れ』

其処に存在する記憶の残像が揺れ始めた
光の粒子がぶつかり合って音を奏でる
決して君を此処に閉じ込める為ではない
君の全てを解き放つためなのだ、と
思考回路に組み込まれたかのような
メロディーが滑かに踊り彩をつけていく

僕は、静かに此処を離れ
あの場所に先に行くことを選んだ

目覚めた君の苦しみを、共に分かち合い
光の中から生まれくる
その新しい命と共に、永遠を誓う為に……

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?