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勝手にふるえてろ/綿矢りさ(2018年に読んだ100冊)

どうも。
Kabaddiです。

2018年に読んだ100冊のなかから、オススメをご紹介。

今回は

勝手にふるえてろ/綿矢りさ」です。

あらすじ

中学生のとき、中学生らしく初恋に身をよじらせていた主任公のヨシカは、そのまま大人になり、うまく恋愛ができない女子となってしまう。そんなヨシカを熱烈に愛してくれる彼が急に出現して、身の回りが目まぐるしく変わっていく、ような気がする。
初恋の彼を「イチ」、熱烈に愛してくれる彼を「ニ」と脳内で区別し、比較し、妄想し、暴走しながら現実を走り抜ける。

お気に入りの一文

主人公のヨシカが中学のころの初恋の相手である「イチ」のことをいろんな場面で思い出しながら、最終的には「イチへの思いは誰にも負けない!」という結論へ到達していくシーンが特に好きでした。

自分だけが本当のイチを理解してあげられている。
中学の時のイチは内面にこんな悩みを抱えていて、私はそれを見抜いていた。

初恋にはありがちな倒錯した感情が、大人になりOLとなったヨシカのなかで暴れているところに、少しニヤッとしてしまいながらも、豊かな感情とその表現に、恋愛の、もっと言えば片思いの美しさみたいなものを見ることができました。

気になった一文は恋愛に関してではなく、人の本質に関しての部分です。

「イチってかわいいよね〜。なんか犬みたい」
女子たちはそう噂したけれど、みんなを惹きつけていた彼の魅力は、可愛さではなく怯えだ。
(中略)
彼は明るくふるまっているけれど、内心はなれなれしく接してくる人間におぞけをふるっていて、彼の恐怖のにおいを無意識にかぎつけた子たちが興奮して寄り集まる。

イチの隠れた一面をヨシカが発見する一幕ですが、この文章に感動したのは、「いじられキャラ」や「かわいがられ」というものの隠された本質を著者である綿矢りささんは的確に指摘しているということ。

挙動不審であったり、言葉遣いに特徴があったり、そのほか「ツッコミどころ」を多く持つ人がいじられキャラになりやすいのだ、と思い込んでいた自分にとって新鮮な考察でした。

人は人の恐怖心や怯えに興奮してしまうという事実は、言われてみればとても腑に落ちる真理です。この真理が、遥か昔から、さまざまな娯楽の形をとって人間の興奮を勝ち取り、満足させてきたのでしょう。
人間を深く観察していると感動したとともに、「初恋の人のことはなんでも観察している」というヨシカがこの真理にたどりつく、という構成がとてもスマートだと思います。

ヨシカはほかにも様々な側面からイチを切り取り、事あるごとに「ニ」と比較していきます。
この「ニ」は現代のサラリーマンの集合体のような人で、抽象的でありながら具体的なパーソナリティを持ったキャラクターとして描かれています。この部分でも、綿谷りささんの描写力に感動しました。

中学生や高校生でこの本を読んでしまったら、後から思い出す恋愛や片思いの美しさを知らないがために、ほとんど満足せずに読み終わってしまうでしょう。
この本は、それなりに恋愛もしたけれど、初恋の頃の思い出が最近思い出せない・・・という方に読んでいただきたいです。

なぜか導かれるように初恋の思い出や、そのころ心の中にあった感情みたいなものを再発見できます。

ぜひ、ご一読ください。

【2018年読書履歴】

1.神坐す山の物語/浅田次郎
2.霧笛荘夜話/浅田次郎
3.水声/川上弘美
4.屋上のテロリスト/知念実希人
5.ラッシュライフ/伊坂幸太郎
6.仮面病棟/知念実希人
7.星々たち/桜木紫乃
8.ブルース/桜木紫乃
9.それを愛とは呼ばず/桜木紫乃
10.神様/川上弘美
11.センセイの鞄/川上弘美
12.ブラックオアホアイト/浅田次郎
13.木漏れ日に泳ぐ魚/恩田陸
14.ホテルローヤル/桜木紫乃
15.けむたい後輩/柚木麻子
16.エイジ/重松清
17.降霊会の夜/浅田次郎
18.間宮兄弟/江國香織
19.東京タワー/江國香織
20.月のしずく/浅田次郎
21.蛇を踏む/川上弘美
22.真鶴/川上弘美
23.不道徳教育講座/三島由紀夫
24.なめらかなお金がめぐる社会/家入一真
25.溺レる/川上弘美
26.凍りついた香り/小川洋子
27.雨はコーラが飲めない/江國香織
28.鳩の撃退法/佐藤正 午
29.本題/西尾維新
30.魔法のコンパス/西野亮廣
31.秘密/林真理子
32.羊と鋼の森/宮下奈都
33.人質の朗読会/小川洋子
34.月日の残像/山田太一
35.億男/川村元気
36.その可能性はすでに考えた/井上真偽
37.ことり/小川洋子
38.ふたつのしるし/宮下奈都
39.サーカスの夜に/小川洋子
40.水曜の朝、午前三時/蓮見圭一
41.踊る猫/折口真喜子
42.太陽と乙女/森見登美彦
43.晴れたり曇ったり/川上弘美
44.古道具 中野商店/川上弘美
45.猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子
46.息がとまるほど/唯川恵
47.たった、それだけ/宮下奈都
48.娼年/石田衣良
49.地下の鳩/西加奈子
50.密やかな結晶/小川洋子
51.僕のなかの壊れていない部分/白石一文
52.逝年/石田衣良
53.オネスティ/石田衣良
54.緑衣の美少年/西尾維新
55.神様のボート/江國香織
56.無垢の領域/桜木紫乃
57.勝手に震えてろ/綿谷りさ
58.アイネクライネナハトムジーク/伊坂幸太郎
59.スイートリトルライズ/江國香織
60.スクラップ・アンド・ビルド/羽田圭介
61.魔王/伊坂幸太郎
62.青の炎/貴志祐介
63.火星に住むつもりかい?/伊坂幸太郎
64.猫を拾いに/川上弘美
65.あの家に暮らす四人の女/三浦しをん
66.男たちのワイングラス/今野敏
67.人魚の眠る家/東野圭吾
68.舞台/西加奈子
69.聖女の毒杯/井上真偽
70.制裁女/新堂冬樹
71.ロボッチイヌ/獅子文六
72.もう誘拐なんてしない/東川篤哉
73.世界から猫が消えたなら/川村元気
74.落下する夕方/江國香織
75.ジャイロスコープ/伊坂幸太郎
76.すきまのおともだちたち/江國香織
77.夜の桃/石田衣良
78.ダブルダウン勘繰郎 トリプルプレイ助悪郎/西尾維新
79.ニシノユキヒコの恋と冒険/川上弘美
80.相棒に気をつけろ/逢坂剛
81.カラフル/森絵都
82.陽気なギャングは三つ数えろ/伊坂幸太郎
83.神さまたちの遊ぶ庭/宮下奈都
84.EPITAPH 東京/恩田陸
85.白ゆき姫殺人事件/湊かなえ
86.QJKJQ/佐藤究
87.西の魔女が死んだ/梨木香歩
88.消滅世界/村田沙耶香
89.教場/長岡弘樹
90.殺戮にいたる病/我孫子武丸
91.砂漠/伊坂幸太郎
92.新世界/西野亮廣
93.女のいない男たち/村上春樹
94.献灯使/多和田葉子
95.爽年/石田衣良
96.骨を彩る/彩瀬まる
97.教場2/長岡弘樹
98.世にも奇妙な君物語/朝井リョウ
99.一億総ツッコミ時代/マキタスポーツ
100.蟻地獄/板倉俊之

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