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最期を支える人々  −母余命2ヶ月の日々−

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#緩和ケア

2015.8.25 「50人待っています」

 Y病院の緩和ケア病棟に向かった。医師、2名の看護師との面談だった。母の様子を話したあと、緩和ケア病棟では積極的な治療、救命措置は行わないこと、それについて本人の承諾が必要なこと、費用のことなどが説明された。

 「入れるまでどのくらいかかるのですか」と聞くと、「いま50人待っています。経験上、1ヶ月ほどかかると思います」とのことだった。

1ヶ月が長いのか短いのか、わからなかった。

 Y病院で

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2015.8.28 「のどを通らない」

 1/4に砕いた薬も、のどを通らなくなっていた。体の痛みは増し、起きたり、トイレに移ったりするときにも痛みで顔をしかめた。

 母は「じっとしていれば痛まないから」と言うが、動くときに痛むなら薬を増やした方がよいと医師は判断した。この日から、体に貼る痛み止めと舌の下に入れて溶かす痛み止めとを使うことになった。同時に、看護師には毎日訪問して様子を見てもらうことになった。

 体に貼る痛み止めは、朝、

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2015.8.31 「あと1〜2週間と」

 M病院の緩和ケア病棟に向かった。Y病院と同様、医師と看護師との面談があった。

 M病院では、5〜6人の患者が空きを待っているという。数が少ないなと思ったら、Y病院と違い「そろそろ入院したい」と自己申告をすることで、待機リストに入るそうだ。待機リストに入ると、早ければ翌日、遅くとも1〜2週間後に入院できるそうだ。

 「そろそろ、ってどう判断したらいいのでしょうか」と聞くと、「そうですね、主治医

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2015.9.2 「殺したいなら」

 Y病院から「病室が空いたので、明日か明後日の入院はいかがでしょうか。」と電話があった。まだ気持ちも物も準備ができていなかった。

 すぐに看護師に相談すると、「いまは痛みが上手にコントロールできているので、まだ自宅にいても大丈夫でしょう。」とのことだった。

 母に「入院できるけれどどうする?」と聞くと、「私を早く殺したいなら、入院させればいいっ」と絞り出すように言った。それほど嫌なのか、と驚い

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2015.9.3 「背中をみていたから」

 緩和ケア病棟への強い拒否を示した母は、翌日、信頼する訪問看護師に相談したようだった。

 その日のメモが残っている。

 —入院については、どうしようかとても悩んでいる、こんな体になって悲しいとおっしゃっていました。緩和ケア病棟と自宅のメリットデメリットをお話しています。その中で、少しでも気持ちが傾く方へ決めていいですよとお話しています。−

 その日私が行くと、母は「今日は看護師さんとよくしゃ

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2015.9.6 「わからなくなっちゃった」

 母の体は毎日衰えていく。昨日できたことが今日はもうできない。コールボタンを押す回数が増えた。コールを押せば必ずヘルパーが訪問してくださっているのだが、「押したのに来てくれない。」と言うことがあった。

 「なんだかわからなくなっちゃったわ」と時間と出来事とに混乱が起き始めたようだった。

 食事量も減った。尿はしびんをあて下腹部を抑えると出てきた。それでも、失禁は数えるほどだった。母のプライドだ

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