2015.9.2 「殺したいなら」

 Y病院から「病室が空いたので、明日か明後日の入院はいかがでしょうか。」と電話があった。まだ気持ちも物も準備ができていなかった。

 すぐに看護師に相談すると、「いまは痛みが上手にコントロールできているので、まだ自宅にいても大丈夫でしょう。」とのことだった。

 母に「入院できるけれどどうする?」と聞くと、「私を早く殺したいなら、入院させればいいっ」と絞り出すように言った。それほど嫌なのか、と驚いた。自分を「殺そう」と思っているかもしれない娘に身を委ねてまで自宅で暮らしたいという母の頑固さと混乱ぶりが少し可笑しく、哀しかった。入院は断ることにした。

 その日、母はポータブルトイレからベッドに戻るとき、立っていることができずに崩れ落ちそうになった。座位のまま移動する手段を考えておくのだった、と思った。慌ててスライディングボード(ベッドからトイレに座った姿勢のまま移れる介助用具)を手配してはみたが、母に新しいチャレンジは、もはや不可能だった。