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足し算の世界、引き算の世界【前編】

少々風が強かったものの、天気に恵まれた4/26日。
flattoでクレープケーキに出会って以来、事ある毎に私の疲れを癒やしてくれ、すっかり私を虜にしている(笑)太田屋菓子店三代目、太田繁克氏のお話を伺ってきました。

クレープケーキなど洋菓子のイメージが強い方ですが、洋菓子・和菓子のジャンルを越えたお話を聞かせて頂き、非常に有意義な時間でした。
お菓子に掛ける太田氏の情熱を、ぜひ読んでみてくださいませ!

話題のクレープケーキ

---まずはクレープの焼印について。以前お母様からお伺いしたところによると、知り合いの方から作っていただいたということなのですが

太田氏(以下、敬称略)
「きっかけは、クレープの焼き皮の柄だけでは寂しいよね?」ということと、その当時親身になってお付き合いさせていただいた長沼商工会の指導員さんからの話の流れで
「せっかくやるのだったら、お客さんもどんな人が作っているのか分かったほうが買いやすいのではないか
というアドバイスがヒントになりました。

自分でもイベンドなどは僕が行っていることもあり、「僕が作りました」とそこからお客様との会話が広がるようにとの願いもあって始めました。
描きやすい顔らしいんですよ、この顔(笑)。

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「どうせこれをやるのだったら、話を広がるようにということでせっかくなので焼印を入れてみましょう」というような会話の自然な流れで、面白そうだということで誕生したんです。

---確かに、flattoさんのお菓子の並びでも非常に目立ちますよね。

太田
あ、目立ってますか(笑)?
自分で作って、自分の顔を写真に撮るならともかく、品物に押してしまうというのは相当な覚悟がないとできないですよね。

---HPを拝見して、すぐにモデルがご主人だと分かりました(笑)。

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---卸しているのは、現在flattoさんだけなんですか?

※flatto:須賀川市中町にある、地域の名産品を扱う観光物産館
<参考|すかがわ観光物産館flatto

太田
卸は現在flattoさんだけですね。
元々店売りだけでの販売だけで、自分の目が届かないところでは正直販売したくなかったんです。

自分でも

・どういう状況で販売されるのか
・目の届かないところでは販売したくない
・どのような人が手に取るかなんてわからない

ので、できるだけ店売りにしたいという思いがあったんです。

本来であれば、やっぱり解凍した状態で販売するというのが良いのでしょうけれど。

冷凍しているのは、作り方の工程として、最終的に冷凍して完成という状態だからというのもあります。


それだったら凍った状態でお渡しした方が、かえってお客さんにとってはメリットになることが、結構多かったりするんで、その形で販売するようになったんです。

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※実際の店舗では、冷凍されたものも、解凍された状態のものも両方販売されています。


太田
結局flattoさんの「冷凍で販売できるよ」というお話があったので、「それだったらば、まあ置いてみようかな」というのがきっかけで、それ以来flattoさんとお付き合いするようになりました。

---確かに、flattoさんでも冷凍ケースのところに並べてありますね。

太田
そうなんです。元々、冷蔵では売りたくないというのはお伝えしてあったんです。
賞味期限は冷蔵でもせいぜい3日か4日。5日も経つと、どうしてもソースの味が落ちて弱くなるというか、ボケてしまうんです、味が。

---品質が変わってしまうんですね。

太田
元々の見た目はケーキには見えないですが、使っている材料や手法はデコレーションケーキなど一般の洋菓子屋さんと変わらないものを使っているんです。

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※こちらは「黒蜜きなこ」の断面。きめ細かいスポンジは、「ジェノワーズ」(全卵を一度に泡立てて作る製法)の製法で作っていらっしゃるとのこと。上質の生クリームと共に、スーッと口の中で溶け合う滑らかさです。

---結構上質の材料を使ってらっしゃいますよね?

太田
ありがとうございます!なかなかその点について、指摘してくださる方はいらっしゃらないんです。
通常は、「美味しいか美味しくないか?」というところで止まってしまうんですよ。
そこをピンポイントで掘り下げて頂くと嬉しいですね。

---須賀川は美味しいお菓子屋さんも多くて、ライバルもひしめき合っている状態なのではありませんか(笑)?

太田
いえいえ、そんなライバルだなんて(笑)。
何もしていなかったわけではありませんが、自分が美味しいというものを追求していたら、自然と現在の味にたどり着いたんです。

---現在は何種類のクレープケーキを販売していらっしゃるんですか?

太田
時期的な種類も含めると、総数で12種類を販売しています。季節限定品もあるんですよ。

---flattoさんで販売しているのは、やはり売れ筋というか手堅い商品を置いているんですか?

太田
商品管理の問題もあって、現在はflattoさんでは「数を絞りましょう」ということで5種類に絞って販売しています。
チョコレート、ブルーベリー、ストロベリー。まずこの3種類は間違いない。
言葉で伝えても、イメージしやすい味なんです。
黒蜜きなことメープルについては、それぞれご年配の方・甘いものが好きな方というようにターゲットを少し絞りました。

※もし要望があれば、販売の種類も増やしても良いのではないかということで、現在flattoさんからラブコールを送られているそうです。私は他の種類の販売にも非常に期待していますよ!

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※この日持ち帰ってきたのは、左上から順に、ラズベリー、チェリー、オレンジ、メープル、ゆず、小倉マロン、チョコレート。
中でもオレンジと小倉マロンを強くおすすめされました。オレンジは、マーマレードに似ていますが、実の部分だけをジャムにしてあるので、爽やかさが際立っています。


こだわりのあんこ


---元々は和菓子屋さんということで、あんこの作り方にもこだわっていらっしゃるというのを口コミで拝見したのですが……。

太田
そうですね。あんこ自体、小豆から直取りでやっているお菓子屋さんって、今でこそ差別化を図るためにやられている方も増えたと思うんですが、うちは昔からそうですね。

※直取り:自店で小豆からあんこを炊くこと。あんは外部から仕入れている企業も多いのが実情だそうです。

太田
あんこの作り方も、「皮むき」と言って、こしあんを作るのでも小豆の表面の皮を剥いでしまうんです、ウチのあんこは。
なかなか手間がかかるので、やっているところはそうはないと思うんです。
それはぜやるのかと言うと、小豆の表面の色に含まれる成分としてはポリフェノールやアントシアニンなどがありますが、それは結局渋みやエグみなんです。それらを一緒に炊いてしまうと、どうしても渋切りをやればやるだけ確かに渋みは消えるんですが、それと一緒に小豆の風味もなくなってしまう。

※渋切り:小豆のアクを取り除く作業。通常は、小豆を水から茹でて、アクが出てきたらその茹で汁は捨てて新たに水を足し、小豆を茹であげます。

---中のでんぷん質の良さなども消えてしまうということですか?

太田
そうなんですね。
やっぱり、例えば皮ごとすりつぶしてそのままこしあんにすると、少なからず渋みが残りやすい。
かといって最初から皮を全部剥いでしまうと、それはそれで小豆のちょっとした仕上がりに影響が出てしまう。全部を取るわけではないのですが……。

---では、その残し具合が……。

太田
そうですね、結構重要ですね。やっぱりそういうところで「ひと手間加えているよー」っていう部分が大きいのと、「直取りですよ」というところで、お客様に認知していただいているのかなと思います。

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※「これが売れ筋商品であれば、そのお店の和菓子は間違いない」という自慢の最中。
白あんの最中にも、ところどころに手亡豆の風味が残されています。

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さらに、当日お店で頂いた焼きたてのどらやき。
ほのかに温かさが残るどらやきで、ふんわりとした口当たりながら、小豆のホクホクとした風味がしっかり感じられました。

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地元のテレビなどではクレープケーキがフォーカスされることが多いのですが、伝統の和菓子もしっかり並んでいます。元々は、先々代が始められた和菓子屋さんらしいラインアップですね。

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家族みんなで笑門来福

---ところで、妹さんがTwitterにお店の袋に手作業でスタンプを押していらっしゃったのを拝見しました。

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太田
(笑)。せっかくなので何もないよりは、もらったものに一言添えるのも面白いんじゃないかなと思ったんです。取ってつけたのではなくて、「笑門来福」という言葉が何よりも好きなんです。

---ご家族皆さんのモットーのようなところがありますよね。先日お伺いした際のお母様の笑顔も素敵でした!

太田
本当ですか(笑)。ありがとうございます。やっぱり「話しかけづらい」と言われると、商売としてはやりづらいですから。

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※通称「中の人」の妹さんの手による、福を呼び込むような愛らしいディスプレイ。
お店を訪れた際には、こちらの可愛らしいディスプレイにも注目してください!


師匠から学んだ大切なこと


太田
「笑門来福」をモットーにしているもう一つの理由としては、師匠の教えもあるんです。
新潟県の中条町(現:胎内市)で修行していたのですが、そこでお世話になった師匠から

「品物を売るのは誰でもできるけれど、ウチのお菓子を売るよりも、自分のことをどんどん宣伝したほうがいいからね」

と言われたんです。「人柄を売り込みなさい」ということなんですね。

やっぱり最後は品物よりも人なんですよね、選んでもらうのは。

「どんな人なのか」「どういう人が作っているのか」というのを、お菓子を見ただけでもイメージできるような(お菓子を作れる)のはもちろんだけれど、それよりも自分がどういう人間なのかをアピールできないとダメだと教わったんです。
そういった部分も、「焼印を押す」というのにつながっているのかな、と思います。

---新潟での修行時代は、お菓子の作り方だけではなくて、商売の基本から教わったのですね。

太田
そうですね。いくらウチで仕事を見ていたと言っても、実際は本気でやっているわけではなく、手伝いの範疇でしか見ていなかった部分もあったんです。
修行先では「修行」とは言っても、店の看板を背負っているわけですから、「店の看板に泥を塗るようなことはないように」とは、結構うるさく言われました。

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※太田氏が修行されていたのは、「美月堂」(みげつどう)と言って、旧中条町で地域で一番のお店だそうです。お菓子業界の問屋などのつながりを通じて、高校卒業後にすぐに、何も知らない状態でこちらのお店で修行に入られたとのこと。まっさらな状態で行ったほうが望ましいのではないかということで、

・ある程度の規模であること
・機械や包餡機などを使わずに人の手が介入する要素を残していること

という視点から、美月堂さんを選んだそうです。

こちらのお店での修行が、太田氏の原点なのでしょう。
ほんの少し、太田氏の手掛けるお菓子につながる世界も垣間見えるので、覗いてみてください!

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→後編へ続く



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