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「風が強く吹いている」~箱根駅伝に寄せて

数年前から買おう買おうと思っていた文庫を、ついに購入してまいりました。

私自身は箱根駅伝に特に思い入れは……ありません😅
そもそも、大学も地元で「駅伝」には縁がないですしね。
短距離界では、世界陸上に出場した先輩・後輩もいますけれど。

それでも、地元のフリーペーパーで「宗像むなかたひじり」選手のインタビューが掲載されていたこともあり、何となく今年のお正月の締めとして「駅伝」モノの小説が読みたくなり、「三浦しをん」さんの作品を購入してきたのでした。

数年ぶりに再読しましたが、まず唸らせられるのは、メンバー10人の個性の強さ。主人公のかけるからして、「万引」の犯行現場を「ハイジ」に押さえられる場面からの登場です。
高校時代にちょっとした「事件」に巻き込まれ、「走る」ことから一時離れていても、「走るの好きか?」と聞かれるほどのきれいなフォーム。いいなあ。運動オンチの私にとっては想像もできない世界です。

でも、そこはやはりティーン・エイジャーの若者なのですよね。
時には「恋バナ」要素もあり、時にはライバルとの火花バチバチの場面もちらほら。
「ライバルがいたほうが燃える」タイプもいるのは知っていますが、相手の足を引っ張ってまで得るものは、一時的な勝利にしか過ぎないのかもしれません。むしろ、傍から見ていて「寂しい人」にしか見えないのだろうなーというのが、ライバルである「榊」君に対する感想です。
特にそれが顕著なのが、8区で榊と対峙することになった、寛政大学の「キング」のセリフです。

「なあ、お前楽しいか?ずっと夢だった箱根駅伝に出られて、これから走るんだぞ。なのにおまえ、全然楽しそうじゃないのはなんでだ?」
「楽しい必要なんてありますか?」
 榊は微塵も揺らがなかった。「これはレースです」

「風が強く吹いている~十 流星」より

そうだよね、せっかくの大舞台なのに。
もっとも私自身は、せいぜい「県大会」くらいしか経験がないので、大舞台の心境は想像でしかないのですけれど。
でも、合唱で日本一の舞台に立った子は、やはり大舞台でも楽しそうだったな。

同じくライバルの存在で私が「絶対惚れる!」と自信を持って言えるのが、「六道りくどう大学」の藤岡さん。
復路の9区で走とデッドヒートを繰り広げるのですが、高校時代からのあだ名が「修験僧」というだけあって、言動が渋くてストイック(笑)。
そして、本当に格好良い。
少し、地元のオリンピアンを彷彿とさせます。

9区の走とのデッドヒートで初めて闘志をむき出しにするのですけれど、それまで孤高の存在だったのが、ここで初めて「人間らしさ」を見せた瞬間でした。


寛政大学のメンバーの中で好きなのは、留学生の「ムサ」君。
実際の箱根駅伝でも「留学生」は華々しく扱われることが多いのですけれど、彼は普通に祖国から「国費留学生」として来日中。しかも、結構いいところのお坊ちゃんのようです。
ですが、「陸上留学」ではないにも関わらず、「外国人選手」というだけでバイアスと好奇心の視線を注がれます。

その愚かしさを解説してくれたのも藤岡君なのですけれど、実際のところ、ムサ君自身も結構格好良い。
もう、リーダーである清瀬(通称ハイジ)よりも、よほど大人。

そして、最後の最後まで「食えない」男である、「清瀬灰二」。
かつては陸上界のホープだった……らしいのですが、まあ、性格がつかめないです。そして、最後まで「走ること」にこだわり続ける姿は、「走る鬼神」とでも言うのでしょうか。もしくは「天才型とは異なる次元での、走る権化」。

自らの肉体を傷つけることになっても走らずにはいられない、その源流は何なのか。

彼がリーダーだったからこそ、チームとしてまとまったとも言えるし、エピローグでの登場の姿は、学生時代からその片鱗を見せていたのかもしれません。


とにかく、ストーリーの進行に合わせて部員一人一人の成長していく姿も美しいし、箱根駅伝独自の雰囲気を丁寧に描いている作品です。

陸上モノの小説と言えば、佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」が好きだったのですけれど。

三浦しをんさんの「風が強く吹いている」も、非常に魅力的です。

どちらにも共通するキーワードは、「風」。
運動オンチの私には、自分で風を生み出すほどの疾走はできませんが(苦笑)、せめて文章では、「疾走感ある」作品を生み出せればいいなー。

「風の世界」は、私にとって、ちょっとした憧れの世界なのかもしれません。

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