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Keio FCのデザイナー部員2人が語る、ファッションショー「羽化」へ込める想い。

Keio Fashion Creatorは今年、ファッションショー「羽化」の開催を発表した。2019年以来実に3年ぶりとなる有観客のショーまであと数週間。ショールックの制作を進めるデザイナー部員2人に今年度のテーマやルックに込めた想いを聞いた。

土井璃久 / デザイナーチーフ
慶應義塾大学 3年生

城澤旦 / デザイナー
慶應義塾大学 1年生

今回のテーマは単に昆虫の成長過程をモチーフとしたものではない?

— ショーテーマである「羽化」にはどのような意味が込められているのでしょうか。

土井:
僕たちにとっての「羽化」は単なる生物の成長過程を表現するものではなく、その過程にある「繭」の構造に「タブー」を重ね合わせたものになっています。生物にとっての繭は自分自身を守ると同時に縛るものですが、現代社会におけるタブーもこれと同じ構造を持っていると思います。

この国では特に、争いの火種となりそうな領域をタブーとして覆い隠すことで、自分たちの言動や表現を無意識のうちに縛ってしまう傾向がある。かくいう僕自身も、ロシアのウクライナ侵攻に対する反戦デモに参加した際にそれをSNSで発信する、自分から発信することをためらっていたことに気がつきました。

しかし、例えデリケートな話題であったとしても僕たちはそれについて赤裸々に話し合うべきであり、タブーを設定することは現状維持でしかありません。特に、僕たち若い人間が率先してタブーとされていることを表現、発信していくことは社会にとって非常に大切だと思います。

今回のショーでは普段「タブー」とされているものをあえて赤裸々に表現することによって、停滞する現状を破壊すること(現状から羽化すること)をショーの目的としています。

— おふたりは「羽化」というテーマをどのように捉えていますか。

城澤:
現状を打破したらまた打破しなきゃいけない現状があるように、例えひとつの「繭(タブー)」を破ったとしても、それはゴールではなく、繭を抜けたらまた繭があるという感覚があります。

僕のルックでは伝えたいことのゴール地点をあまり示さないようにしているので、この状況を抜けたその先には人それぞれ自由な捉え方があっていいと思っています。

土井:
僕たちが目指すべきは自分の意見を押し付け合う状況ではなく、他人の意見を受け入れ、それを自分の意見と合わせ、昇華し、新しいものを生み出す作業だと思っています。そのため、まずはその第一段階として、現状タブーとされているものを赤裸々に表現してみることに注力して今回のショーを行いたいと思っています。

「停滞する現状からの打破」というコンセプトに対して様々なアプローチをとるデザイナー部員たち

— 今回デザイナー部員たちは「羽化」というテーマにどのように向き合い、服を作り始めたのでしょうか。

土井:
僕の1体目のルックは「軍隊の廃棄」を題材にしています。僕自身は守りに鉄息した外交政策が大事だと思っていて、それを表現するためにミリタリールックを「ゴミ袋」という素材で包んだルックを作っています。

「軍隊の廃棄」Design by RIKU DOI

また2体目では「権力の破壊」をテーマに「不完全と補完」というキーワードを設定しています。テーマだけ聞くとすごく過激に感じるかもしれないのですが、1人では不完全な人間たちが議論を重ね、補完し合うことによって社会を形成するという民主主義のあり方こそが僕は理想的だと考えています。

しかし、現状のポピュリズム的政権はそこから乖離していると考え、これを破壊して本当の意味での民主主義を実現させようという想いを込めました。「不完全と補完」というキーワードを元に、あるアイテムの欠けている部分を別のアイテムで補う形の攻撃的なルックを作っています。

「権力の破壊」Design by RIKU DOI

僕のルックは政治的なテーマですが、僕の政治思想を押し付けたいわけではなくて。そういうことを赤裸々に表現して、そこから生まれる対話によって生み出される新たな結論を更新していく作業の大切さを、ルックを通して伝えていきたいと思っています。

今年度のデザイナーチーフとして、ルックのテーマについてはデザイナー部員1人1人と話しました。抽象的なテーマなので、それをどうデザインに派生させていくかという部分を皆今年は悩んでいたと思いますが、自分各々がそのテーマに関して思っていることをキーワード化し、それがどの部分にビジュアルとして現れるかを連想しながらデザインを考えられたと思います。

城澤:
僕が1体目のルックのテーマに選んだのは「処女性」です。今は他人と積極的に関わることができる、社交的な人間がポジティブに捉えられ、それができてない奴はダメだ、社会不適合だというレッテルを貼られてしまう風潮がある気がします。

しかし、人間は生まれた時点で皆美しくあるはずなのに生き方によって非難されるべきではないと思います。これはつまり生を受けたありのままの姿でいることこそ、人間にとってある意味で最も難しく、美しい生き方なのではないかという考えです。

「人はどのような生き方を選択しても美しい」というキーワードを元に、「ウェディングドレス」と「修道服」から着想を得て、全体の素材感や、下に重みを持たせて体のラインを出すことで、元々持っているもの自体がプラスであるというイメージをつけました。

「処女性」Design by AKIRA JOZAWA

2体目の方は「正当な死」をテーマに置いています。死というものは分かりやすくタブーとして扱われていて、畏怖とともに、なにか過剰に神格視されている印象を受けます。

世の中には様々な死に方がありますが、死の確定という瞬間にフォーカスしたとき、病死にしろ、老衰にしろ、これらは内的な要因によるものですよね。その一方で外的な要因の死を考えた時、それが1番大きいと思ったのが死刑です。法に照らされ、裁判官に言い渡される死。そこには民意も乗っかっているかもしれない。とても正当性があるように思われます。

「正当な死」Design by AKIRA JOZAWA

大袈裟に聞こえるかもしれませんが最も大きなモノに死を求められた者、醜く死ぬ筈だった者が服によって美しく死ぬ。そのギャップの中に皆が心に抱いていた死への疑問や意見が顕在化し、議論が起きればいいなと思います。生き方と死に方、形、色、素材など様々な要素で2ルック間の対比を意識しました。

— ルックを作る上で、特に私たちのような若者において制限されていることや、脱却すべきだと意識した問題は何かありますか。

土井:
特に思うのは、僕がルックのテーマとしている政治に関する問題です。政治というのは僕たちの生活とすごくシームレスにつながっているものであるのに、若者は若者だからという免罪符で政治に関わることを放棄するのが許されている現状があるように思っています。

これから先の未来を長く生きるのは僕たちなので、より政治に興味を持ってこの問題について改善していくべきだと思います。

城澤:
僕たちは知らず知らずのうちに社会からの制限を受けているということでしょうか。今自分が持っていると思う意見も純粋な自分ではないと思います。

僕達が持つ「自分の意見」とはこれまでの人生の中で吸収してきたものによって構成されるわけですが、それは必ずしも自分の中から純粋に生じた意見ではなく、今まで影響を受けてきたものに無意識に縛られているかもしれないと認識させることと、それを一個踏み越えていこうというのが今回のテーマの持つメッセージのひとつだと思います。

同世代の人間だけでなく、親世代や今社会で働く人にも届けたいショー

— 多くの人に見てもらいたいルックだと思うのですが、特にどのような人に届けたいですか。

土井:
僕は今回のショーテーマに設定した「タブー」という問題について同世代の若者に考えてもらいたいという思いが第一にあるので、その人たちに響かせたいと思うのと同時に、自分達の親世代や今働いている人たちにも、自分たち若い世代が今どういうことを考えているのかが伝わるきっかけになったらいいなと思います。

城澤:
僕のコンセプトは自分の意見を押し付けるのではなく、とりあえず見て何か意見を持ってもらいたいことなので少しでも多くの人に見てもらいたいです。最終的に服のかっこよさを伝えるために見た目をとても大事にしているので、様々な目線で見ていただけると嬉しいです。

— 最後にショーに向けての意気込みを教えてください。

土井:
ファックリ3年目にして初と言っていいほどテーマ設定という最初の段階から1年かけて関わってきたので、自分の集大成として日本社会を変えるようないいショーができたらいいなと思っています(笑)

城澤:
誰に見ていただいてもかっこいいと思えるようなルックにしていきたいと思うので、それを見た上で何か自分の中で思うことや意見を抱いてもらえると嬉しいです。

2022.12.03
SAKURA KIMURA / MARINA TAKATA(INTERVIEWER)


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