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一日いちにちの積み重ねがつなぐ、過去と今と未来ーー【伴林アサコ商店の手しごと】

隠岐の郷土料理に欠かせない海藻である、アラメ
ちゃかぽんでは厚揚げやニンジン、豆などと合わせた炒め煮が、定食メニューの副菜や『隠岐御膳』の一品として活躍しています。

その意外な柔らかさや、食材とのなじみ具合に、ちゃかぽんのアラメ料理を初めて食べる方は少し驚くかもしれません。
今回は、そんなアラメの魅力と不思議を探るべく、造り手の『伴林アサコ商店』さんを訪ねました。

海から食卓へ。 『伴林アサコ商店』 の干しアラメの作り方

フェリーに揺られること1時間、隠岐の島は中山地区。
作業の手を止め、明るい声で出迎えてくれたのは、『伴林アサコ商店』の秀子さんです。

伴林秀子さん。『アサコ』はお母様のお名前とのこと
作業場の外には、海から上がってつやつやと輝くアラメ

訪問した6月は、ちょうど「原藻」収穫の季節。
おなじみの干しアラメになるまでには一体どのような工程があるのか、秀子さんにお話を伺っていきます。

「アラメをカマで刈り取って乾かすところまでは、かなぎ漁※の漁師さんたちがしてくれます。
80歳過ぎのベテランの方も、若いお兄さんもいて、より深いところにある上等なものを取ってきてくれます。
1人で全部の仕事はできないから、有り難いですね。」

5月から6月にかけての2ヶ月で、じつに1年分の原藻を収穫し、保管しておくそう。

かなぎ漁...小舟から底にガラスを貼った「箱めがね」で海底を覗き、サザエやアワビ、ウニ、ワカメなどを突いて獲る島の伝統漁法。

作業場の2階には、1年分のアラメの原藻

ひと袋でも大変な重さと大きさですが、一度の作業で、なんと16袋分ものアラメを処理するとのこと。

「もともとは自力で運んでいたけれど、自転車屋さんが重いものを機械で軽トラックの荷台に上げているのを見て、これは良いと思って。
機械を導入してからは、とても楽になりましたね。」

海中では、こんな姿でゆらゆらと漂っているという

まずは運んだアラメを丹念に洗い、水分を取って裁断していく。

「数年前までは、これも鉋(かんな)を使って手作業でやっていました。
体がしんどくなってきたので、良い機械がないかと全国を探したら、ちょうど良い裁断機が見つかって。
機械の力も借りながら、何とか続けています。」

こまかく切られたアラメは、続いて大釜の中へ。
一度煮て火を通すことで、アラメ本来の歯ごたえを残しつつも食感はやわらかく、味はなじみやすくなります。

アラメを煮るための大釜

水に戻す時間が短く、すぐに火が通る秀子さんのアラメを不思議に思っていたという店主の美香さん。
その裏には、料理をする人のことを想った、秀子さんの丁寧なひと手間があったのでした。

伴林秀子さんの、一日いちにちの手しごと

隠岐に帰る前は、東京で花屋の仕事をしていたという秀子さん。
東京出身の店主の美香さんと、昔なじみの街の話題で盛り上がります。

「家業を誰かが継がなければというタイミングで、島に帰ってきました。
それからずっとこの仕事を続けて、もう30年になります。」

隠岐の島では、アラメは普段の食卓だけではなく、お葬式などの節目に食べる混ぜご飯にも使われているそう。
せわしなく変化する都会で暮らしてきた美香さんは、隠岐では土地に根差した文化や風習が、暮らしの中にちゃんと息づいて継がれていることに驚いたと話します。

悠久の時が育んだ豊かな自然と、それを活かす生産者の方たちのお米や野菜、海藻などの島の幸。
それらに敬意と感謝を捧げつつ、自然とともに生きる人の営みを継承していきたいという想いは、ちゃかぽんを支える根っこでもあります。

「ずっとここに住んでいると、それが当たり前になってしまって、身近にある宝に気付かなくなってしまう。
外から来た人がそれを見つけて、一緒に継いでいってくれるのは、とても大事なことだと思いますよ。」

作業場の傍らには、季節の梅しごと

そんな風に語る秀子さんもまた、このお仕事を30年間、守り継いできました。
30年というと、ちゃかぽんの10倍ほどもの先輩。
一つのことをこんなにも長く継続できる裏には、何か秘訣があるのでしょうか。

「何かを選択するということは、どちらを選んでも、できないことが出てくるということ。
それなら、どうすれば自分が一番後悔しない生き方ができるか、と考えてきました。
体を動かす仕事は好きだし、毎日とにかく動いていれば、色々なことが次々に起こって、考えることは尽きない。
もっとこうして工夫してみようとか、もっとあそこを改善してみようとか。
それで段々と売り上げが増えていったり、少しでも進歩があったりすると、面白いじゃないですか。」

30年という月日のあいだに、どれだけの物ごとがうつろい、変わっていったことでしょう。
ふと立ち止まり目を落とせば、しんどいことや迷うことも、きっとあったであろう日々。
それでも、やわらかな笑顔を絶やさず語る秀子さんの姿に、背筋が伸びる想いでした。

「一日いちにちをやればいい。
区切って『ここまでやらなきゃ』って思うと、しんどくなるから。
一日いちにち、その積み重ね。
それが結果、いつのまにか10年、30年になってますよ。」

昨日と今日をつなぎ、明日を創っていくもの

人から人へ、人からものへ託された小さな優しい気持ちの連なりは、形あるものがいずれなくなっても、絶えることなく継がれていきます。

自然と人が歩む永いながい歴史の中では、30年もほんのひと節。
それでも、誰かが気付いて掬い上げた想いは、またいつかの誰かに新しい、それでいてどこか懐かしい景色を届けてくれるのでしょう。

この仕事が好きだから、体が動けるうちはずっと働き続けたい。
秀子さんと美香さんには、共通する想いがあります。

幾多の人が紡いできた想いが、島の恵みにこうじのように合わさって、ちゃかぽんという場は日々醸され続けています。
食べることを通して、造り手の方たちが重ねた月日や想いを、少しでも届けられますように。
そんなことを思わせる、素敵な語らいのひとときでした。

伴林アサコ商店さんのアラメは、ちゃかぽん店頭でもお求めいただけます!
水にひたして戻す時には、海の底でゆらゆらと揺れるアラメの姿を、
そして口にする時には、秀子さんの丁寧な手しごとを、
ぜひ思い出しながら味わってみてくださいね。

Writing:島猫工房 soneko

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